一件落着なのか?


※「ますます訳が分からない」の続き





残り15分の昼休み。
泉は弁当を食べ終わって眠そうな三橋を起こした。



「……やっぱ田島にも協力してもらお。三橋!栄口呼んでこい」

「ふ、ぇ?なん、で?」

「報告するんだよ。当たり前だろ?」

「う!…あ、あ、阿部く……は…?」

「……阿部には、部活で。とりあえず栄口と花井と田島とで阿部対策に出る。」

「う?…たい、さ く?」

「とりあえず栄口。早く。」

「う、はい!」



ガタン!と立ち上がって、三橋は阿部に廊下は走るなと言われているので早歩きで1組に向かった。

泉はそれを見送ってから、7組へ向かった。








「おーい!花井ー!」

「ん?なんだ?」



あ、眼鏡だ。
なんだよ変か?
いや、別にフツー。
…それ何気に1番傷つくぞ。
じゃあ似合わない。
いじめか?


とか何とか言いながら、泉は花井の席に近づいた。
どうやら水谷と阿部は夢の中のようだ。
ラッキーと思いながら、泉は花井に今すぐ9組に来いと言った。



「なんだ?俺9組に行って無事でいた記憶ないんだけど……」

「残念だけど、今までのなんか屁じゃないぐらいのことかもしんねぇ。」

「えぇ………」



あいつらなんかしたのかよぉ。
と項垂れる花井を無視して腕を掴んで強制連行をした。







9組には栄口と花井と、なんだなんだーとせわしない田島と、心配そうにハラハラとしている浜田。その隣にキョトンとしている三橋。



「時間ねえから理由は言わずに結果だけ言うぞ。三橋は一週間投げれない」

「…………はぁ!!??」

「え!三橋怪我したの!?何したの!?」

「えー!なんだよそれ俺知らねえよ!」



なんで三橋本人が一番ショック受けてるのかとか、なんで泉がそれを知ってるのかとか、色々聞きたいことがあったけど、花井と栄口と田島はとりあえず驚くことしかできない。



「あーもう!話すのめんどくせえんだよ!部活でちゃんと話すから、花井と栄口は阿部ストッパーになってくれ。田島は三橋護衛隊。」

「それで俺たちが……阿部……確かに、何を、しでかすか……」

「何があったんだ……泉…」

「とりあえず怪我じゃねえよ。心配すんな。」



怪我じゃないのか。

それだけ分かってホッとしたけど、逆に疑問がわいてくる。

なんで怪我じゃないのに一週間投げれないのか。



「おい、チャイムなるぞ。とりあえず花井と栄口、頼むわ」

「……分かった。三橋、落ち込みすぎんなよ。」



ちゃんと三橋への慰めの言葉を忘れない栄口は、三橋の頭を優しく撫でてから教室を出ていった。

三橋は、か細い声で、うん。と言ったけど、大分重症のようだ。

そりゃ、投球中毒の三橋が投げれないなんて言われるなんて。


三橋にとっては、一週間何も食べるな、と言われるよりキツイことだと思う。




「みはし!大丈夫か?」

「……たじ、まく……おれ、投げれ、ない……」

「うん。そうだな…。それは、守んなきゃ駄目だぞ!三橋!」

「う、ぅ……」

「え!泣くなよぉ〜!俺も悲しいだろ〜!」



あぁ、田島いて正解だった。

俺だったらどうすればいいかわかんなかったもん。

とりあえず第一関門は突破した。
けど次に待ち構えているのは、
阿部 と モモカンという名のラスボスだ。

モモカンは多分、理由を言えばなんとなく許してくれそうな気がする。
まあ、阿部も多分許してくれると思うけど。

多分、


なんで黙ってたんだぁぁぁ!!!


って怒るのは目に見えている。



フグフグ泣いてる三橋にポッキーをあげながら慰めてる田島を見ながら、泉はふと思った。

まぁ、三橋だし、しょうがないけど…
なんで俺がこんなにも甲斐甲斐しく世話してるんだ。俺は三橋の兄ちゃんか!



……ただ、全く嫌じゃない。



「三橋泣くな。ピッチャー肘。だろ?」

「…っ!ぴ、ピッチャー、肘!」

「おう。ピッチャー肘だ。」

「ん?ピッチャー肘?なんだそれぇ?」

「三橋の肘はピッチャー肘なんだ。な?」

「う、へ、へへ……」


ほんの少しマヌケだけど、笑ったからよしとしよう。


とりあえず、

授業は、部活に備えて、少し、寝よう。




















「はい!みんな集まったわね!アップするわよー!」

「ストップ!監督待って!」

「ん?どうしたの、泉くん。」

「……よし、お前ら!配置につけ!」

「あいあいさー!」

「なんでノリノリなんだよ…田島…」



なんだ何事だ。と思ったのも束の間。

田島は三橋の肩に手を回して立ち上がり泉の側に寄った。
そして、花井と栄口は半分ヤケクソでとりゃぁ!と言いながら阿部の腕を両側から拘束した。



「は!?何しやがんだよ!」

「はい、阿部黙れ。いいか、全員心を落ち着かせて聞け。」

「え……なに?これ……」



水谷はキョトンと周りを見渡して呟く。




「まず、三橋は今日から一週間、投球練習ができない。」

『はぁぁ!!??』


この反応にもう慣れてきた自分がいるな、とどこか冷静に思いながら泉は驚くみんなを無視して話し始める。






今日の体育、俺たちソフトやったんだけどさ。あ、大丈夫三橋がピッチャーやったわけじゃねえよ。ファースト。阿部、お前一回黙れ。
そんで最後の場面で三橋から俺に送球したんだけど、そのとき俺は聴いてねえんだけど右肘で変な音が鳴ったんだと。
聴いてた浜田が顔真っ青にしてたからよっぽど変わった音、っつうか変な音だったんだろうな。

で、俺が三橋つれて病院行ったら医者に……







「大丈夫ですよ。怪我じゃありません」


少し白髪まじりの優しそうなその人は、念のため撮ったレントゲンを見て言った。

ホッと泉も三橋も一息つくと、
ただ……と医者が続ける。



「……君、投手なんだよね?」

「え、は、はい……」

「よく、今まで怪我しなかったね。」

「(そういえば監督にも、言われたな…)」

「一杯投げてきたし人一倍投球練習もこなしてきたんだろうけど、多分、全力投球してこなかったのかな。」

「え!そんなん、分かるんですか!?」

「なんとなくだけどね…。野球部の子たちをよく見てたから、私は。」

「す、ごぃ…」

「あはは!そんなことないよ。…で、話の続きだけど。ここ最近で全力投球をするようになってきた、のかな?…あ、あってる?……多分地味に少しずつ肘に負担がかかってきた中で全力投球をしてるから、肘が少し疲れたんじゃないかな。」

「………へぇ」

「だから次に全力投球してたら多分肘壊れてたかもねー。あははは!ラッキーだよー」


笑い事じゃねえ!!
まさか体育でボール投げたおかげで肘の危険信号に気づいたってことか?

ラッキーにもほどがあるだろ…



「すごいね、君の肘。」

「…?あ、ありがとう、ござい、ます?」


なぜ褒められたのかよく分からないけどお礼を言う三橋。
泉ははぁ、と再度溜息をついた。

なんか、ドッと疲れた。
心配とスリルが一気にきたからか?
なんかお化け屋敷の後みたいだ。



「そうだよ。君はね、ピッチャー肘なんだよ」

「ぴ……ピッチャー、肘…?」

「そう!ピッチャー肘!」

「っ!ピッチャー肘!」



なんだよその肘!聞いたことねえよ!
というツッコミそうになったが、嬉しそうな三橋を見て泉は心の中に留めておいた。ナイス判断だ。


まぁ、とりあえず一週間は投げないでねー
とさらりと言った医者の言葉にびっくりして、何でですか!?とすぐに聞き返すと、



「まあ、今のは僕の予想だからね。もしかしたら野球肘になる前兆の可能性がないこともないし、肘の休憩の意味も込めて、ね……」


ポヤポヤと嬉しそうな三橋は全く聞こえたなかったようで、泉はガクリと肩を落とした。

あぁ……なんか疲れた。

この医者。すげぇんだけど、
ちょっとテキトー。














「と、ゆーわけだ。監督すいません、報告遅くなって…」

「んー。とりあえず結果オーライなんじゃないかしら…まあ、ラッキーだったってことでしょ?プラス思考よ!じゃあ、三橋くんだけ別メニューね。」

「う、は、はい……」



「こらぁ!阿部暴れんな!」

「だって、てめえ!なんで俺に一番に報告しねえんだよ!!」

「阿部がそうやって怒るの目に見えてたからだろー!三橋怖がってんだろ!」

「だからってなぁぁ!」

「ごめ、んなさい!!う、おれ……ちゃ、んと…投げ ませ、ん…………た、ぶん」

「多分じゃねええ!絶対投げんなよ!」

「はいぃぃぃ!!」



ああ、花井と栄口ストッパーにしといて良かった。予想通り血管ブチ切れそうだし。

ふーー。と阿部が落ち着いたところで、モモカンは苦笑いしてから、さあ!みんなアップして!と切り替えるように手を叩いた。


はい!
と全員で返事をして、アップの準備をする。



「い、泉、くん…」

「ん?どうした、三橋」

「あ、あの、ね…」



少しもじもじしながら泉の服の袖を小さく掴む。
すると、意を決したようにあげられた顔。



「いろいろ、ありがとう!俺、泉くん、好きだ!」

「っ///はぁぁ!?」

「ふ、ぇ……ごめ、なさい……」

「いや、謝ら……///だぁ!もう!」

「??」

「……三橋、一緒にストレッチやろうぜ」

「う、うん!」



あぁぁ!顔赤い!恥ずかしい!

と心の中で叫びながら、三橋の頭に手をボスン!と置いて、キャップを深く被らせた。


「ふ、ぉ!」

「お前、絶対家でも投げんなよ!」

「は、はい!」



泉くん、良い人ー!
という三橋の真っ直ぐで淀みのない視線に恥ずかしくなってしまうのは、絶対俺だけじゃないはずだ。

近くにいた沖が、仲良いね、と少し笑った。






そんな沖を少し睨んでから、
泉は走った。



くそ!
恥ずかしいったらありゃしない!




でもまあ、とりあえず。





一件落着
なのか?

(この一週間落ち込む三橋は田島に任せよう)







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