ますます訳が分からない





それは、ある体育での出来事だった。






「はーい。今日の体育は特に何もすることがありません。何がしたいですかー?」

「することねえとかどんなんだよ…」

「はい!野球!」

「ん?おー野球部かー。お前体育でも野球すんのか?」

「だってしたい!な!?三橋!」

「う、ぇ…う、うん!」

「………まぁ、体育用にあるのはソフトしかねえからな。野球は無理だけどソフトすっか?」

「やったぁ!」



9組の体育は、田島の意見で一瞬で決まったのだった。












三橋はもちろんピッチャーがしたい、と言ったがそれは泉が止めた。

ソフトだから投げ方が違うし、こんなとこで本気で投げさせて怪我でもさせては駄目だからだ。

三橋は渋々了承し、ファーストをやることになった。


田島はもちろんサード。
泉はお願いだと頼まれたのでしょうがなく巣山のポジションであるショートを請け負った。


チーム編成的に現野球部である3人はバラバラにされた。
田島チームと、泉と三橋チームだ。

浜田は一応田島チームでキャッチャーをすることになる。




「よっしゃー!バッター泉ぃ!」

「バッチコーイ!ピッチャー打たせろー!!泉勝負だー!!」

「うっせえ!田島!」



これまた頼まれて4番、という部活では考えられない打順。
泉はワクワクしていた。


(だって、ワンアウト満塁だ。楽しまねー方がアホだ…!)


ニヤリと後ろで座っている浜田に笑いかけると、ボソリと呟いた。



「ばか浜田。キャッチャーとか似合わね」

「うるせえ!」



泉くん、がん、ばってー!

と次で待ってる三橋の声に、ますます泉は興奮してうずうずとボールがくるのを待つ。

もちろん、適当に選んだピッチャーなだけに、フワフワと止まってるんじゃね?と言わんばかりの遅さ。

はっ!と鼻で笑ってから、泉は



「田島上等だー!!」



ちょうど、うまいこと、ショート寄りのショートとサードの間へと打ったのだった。


慌てるショートを無視して、田島はボールがバウンドする寸前を狙ってボールに向かって飛んで、それを、

見事、キャッチした。


それこそ巣山並の受け身のうまさで体制を持ち直してすぐにファーストに投げる。

あえて、泉相手に勝負にでたのだ。



(やべ!!)



と泉は焦ったが……



「うぎゃあ!」


と間抜けなクラスメイトの声。
なんと、速すぎる田島の送球に焦ったのか、素晴らしくエラーをしたのだった。



「ちょ、お前なあー!!」

「田島本気だすなよ!」

「つーか田島!」

「え!?」


浜田の声に振り返ると、


「泉アウトだし……3点入ったんだけど…」

「あ………」



泉のことしか見えてなかった田島は、ホームベースに向かうクラスメイトのことなんて、眼中になかったのだった。



「あほだ………あいつら……」




はぁ。とため息をついた浜田。

だけど、それと同時に田島と泉の凄さに唖然としていた。


(なんだよあの打球!遅い球だからってあんな正確に打てるのか!?それに遅い球なのに打球速すぎ!田島もそれを分かって飛び付いたし受け身超うまいし送球速いし……お、恐ろしすぎる。)



軽く身震いさえした、浜田だった。











試合は白熱して、6回裏。

さすがに三橋も泉も、中学元野球部の奴が数名いるだけあって、こっちチームが圧勝中だった。

けど、田島はニヤリと笑いながらバッターボックスに立つ。



「ゲンミツに打つ!ホームラン!」

「……まじで打つよ、あいつ…」



泉は笑いながら田島の方を見る。




もちろん、カッキーンと素晴らしい弧を描いたいつもより大きい白球は、センターの真後ろでバウンドしてどこかへ行く。


イェーイ!とピースサインをしながら塁を回る田島に、三橋はキラキラした目線を、泉はちぇっと少し不機嫌そうな顔を向ける。


やっ、ぱ、田島く、すごい!


いいなー。俺も三橋にそう言われてー。
と泉が密かに思ったのは、秘密だ。







田島の活躍で同点となった9回裏。
ワンアウト一塁。
それはあるファーストゴロでの出来事だった。



「泉、く!」

「はいよー」


野球未経験のセカンドを無理やりどけさせて、ゲッツーにさせるために三橋からのボールを受け取るために2塁に立つ泉。


難なくボールをとって泉へボールを投げ、た。

が……




ピキッ。




「ふぇ?」

「え?」


ボールを投げた、ときに。




三橋の右肘から、確かに、変な音がしたのだ。




雰囲気作りのためにそんなの必要ねえだろと思いながらクラスメイトに言われてファーストのコーチャーをやっていたため、近くにいた浜田はポカンとした。

ゲッツー!

というクラスメイトの騒ぐ声で我にかえって、浜田はサァァッと顔を青くさせた。



ピシリと不自然な状態で固まる三橋。

今の音、やっぱ気のせいじゃ、ない。




「みーはーしー!!」

「ひぃぃぃえぇぇ!!ごめんなさいい!」

「は?何怒ってんだよ浜田!」



いつのまにか片付けに入っているクラスメイト。なぜか動かない2人を不審に思った泉が駆け寄った。



「おまっ、肘!ひじぃ!」

「う…あ…き、のせ い…だ、よ!」

「気のせいじゃねえ!今のなんだ!?あんな音聞いたことねえよ!」

「ぅ、ぇ……」

「あ、阿部……阿部に…殺される…」

「っ!!!」



阿部。

という単語を聞いた瞬間に、ビクぅっ!と肩を竦ませた三橋。


肘?…音?……阿部?



単語、単語で事情を察した泉は、浜田と同じように顔の血の気が引いたような感覚がしたが、冷静になった。


いや。今のあの送球だけでどーにかなるなんてありえねえ。
でも肘から変な音が鳴ったってのは確実に隠したりなかったことにはできねえ。
阿部じゃねえけど、これは心配する。
いや、ピッチャーなんだから気にして当たり前だ。むしろ阿部なら梅干し3連発に値するぐらいのことだ。



「……三橋、保健室、行こう」

「う、ぇ!?」

「いや、むしろ病院行くぞ。なんかあってからじゃ遅ぇんだから。それとも三橋………まず阿部のとこに行ったってい

「い、行きますぅぅ!」

「よし。…悪りぃけど浜田。俺と三橋一旦学校抜けるわ。先生と田島にはうまく言っといてくれ。あ、ちなみに阿部にはまだ言うなよ。三橋の命が危ない。」

「わ、わかった…」



泉は軽く引っ張りながら三橋と一緒に学校を抜け出した。



















「浜田!弁当食おうぜ!」

「おぉ…」



田島には適当に、三橋が家に忘れ物して泉が授業サボるついでに一緒に取りにいったと説明した。

無理やりすぎたかなーと反省したけど、田島はアッサリと、なんだよー!俺も連れてけよー!と言っただけで不思議には思わなかったらしい。

ほっと胸を撫で下ろしたは良いものの、明らかに帰ってくるのが遅い。



うまそう!
といつも通り弁当を食って、田島が昼寝をしている隙に、浜田は廊下でコッソリと泉に電話した。




『………もしもし……』

「い、泉?なんだ?元気ない?」

『いや…疲れたんだ…』


嫌な予感がして、ハラハラとしながら浜田はどうだったのか聞く。
すると、泉は溜息をつきながら話し始めた。










『………阿部にはぜっっったい言うなよ!』

「そ、そんな…俺だって怖くて言えねえよそんなこと!!」



うわー!神様仏様モモカン様!
と祈っている泉に、浜田は呆然と事実を理解できずにいた。

だって…




「一週間、投げれないって……」


そんなの、三橋が可哀想すぎる!!










どんより。

と背後に書いてあるぐらい落ち込んだ様子で学校に戻ってくる。



と予想していた浜田は、パチクリと目の前の三橋を見つめている。
信じられない。なんで、元気なんだ?
てか、むしろ機嫌良さそう。



「ただいま!ハマちゃん!」

「お、おう……大丈夫か?」

「う、ん!…へい、き、だよ!」

「………泉?」

「…………おい浜田。田島どっか連れてけ」

「え?お、おお……田島!おい田島起きろ!」

「ウー……んぁ?…みはしぃ?」

「おは、よ…たじ、まく!」

「おー三橋だぁ!おかえりい!」

「田島、購買行こうぜ」

「え!おう!行く!三橋も泉も行こうぜ!」

「俺ら今から弁当。先行ってろ」



寝起きのくせに元気な田島をつれて、浜田はモヤモヤとしながら購買へ行った。



なんだ?どういうことなんだ!?
あの状況!なんで三橋元気なんだ!?



「意味わかんねえ!」

「浜田うっせー!」

「お前に言われたくねえよ!」






とりあえず、もう、本当に、


ますます
訳が分からない

(何も知らずに笑ってる田島が憎い!)






To be continue……

- 1 -


[*前] | [次#]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -