西浦事件簿A












「ほら、見ろよ!ここ呼び出すのおかしいだろ!?」

「確かに呼び出すなら職員室だよなー。なんであんまり使われてない資料室に…」

「一応あいつはここ使ってるらしいけどな」

「そんなんどーだっていいの!とりあえず三橋救出しようぜ!」

「待て。とりあえず話聞かなきゃわかんねぇだろ?」

「そーだ。お前ら静かにしろ。おい、水谷おさえとけ」

「阿部!お前なんだよ!」

「し、静かにしてよ、田島ぁ…」



7組9組で、三橋の連れて行かれた資料室の前でコソコソと争いながら聞き耳をたてる。

後ろの方で暴れる2人をおさえながら、水谷は心配そうに、ドアに耳をくっつける花井と阿部を見つめる。


花井はキリキリ痛む胃をおさえながらも、気になるので阿部と同じようにドアにひっつく。

ドアに耳を押し付けると、2人の会話はしっかりと聞こえた。





『……い…い、や……です…』

『嫌?お前に拒否権はないぞ』

『や……や、やめ……!』

『ふっ…やっぱり、白いんだな……』

『あ……う、ぅ……う』

『細いし白いし、私の好みだ……』





ゾクゾクッ……!!


背筋が凍るとはまさにこのことか、と冷静に思う阿部とは反対に、花井は冷や汗を垂らしながら動揺している。
まさか…いや、信じたくない。
花井は呆然と阿部を見た。



「………あ、阿部…まさか、なぁ?」

「いや……これは、黒だろ……」

「お、落ち着け2人とも!げふっ!ちょっ…」




もう、我慢できない。





いつも元気な、ニコニコ笑ってるこいつらの表情が、黒く染まった。







「「松永ぁぁぁぁ!!!」」

「ひいいぃぃ!!」

「っ!!!!た、たじ…いず、みく…あ……」



ブチやぶ………ったわけではないがそれぐらいの勢いで開けられたドアの向こうには、想像通り、いや、想像以上の光景に、花井は失神しそうになるのを、こらえるしかなかった。




窓に押さえ付けられていた三橋の制服が、だらしなく着崩れていたのだ。
学ランは肩からずれ落ちて、シャツのボタンは外されて左肩が見えている。

涙をポロポロ零し、白い肌、鎖骨あたりに、赤い跡。




ブチッ!

と何やら不吉な、血管の切れたような音がした。





「「ふざけんなぁぁぁ!!!」」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」












簡単に言えば、泉と田島と阿部は松永に殴りかかった。が、さすがに暴力はヤバイ!と花井と水谷が必死に三人を止めたが、最終的に松永は三人に一発ずつ殴られた。


止めきれなかった!
とショックをうけた花井だったが、自分もムカついたので正直に言うと少しスッキリした。

もっとやれと言う自分と、廃部になりたくないと理性を総動員させて止める自分がいた。



今は、5人揃って相談室。目の前には校長先生だ。

ブスーッと不機嫌な、真っ先に殴りかかった三人。少し落ち着きのない水谷に、心配で不安で冷や汗が止まらない花井。


校長先生は、フゥと溜息をついた。
ビクッと花井の肩が揺れる。


(やばいやばいやばい…!これで野球部になんかあったら俺の責任だ!監督になんて説明すれば…!!)



「君たち……大変だったね。」

「………へ?」

「本当にすまなかった!…これは学校側の責任だ!」



まさか校長先生から謝られるとは思っていなかった5人は、ポカンとしている。




校長先生は、松永がセクハラをしていたのは以前からあったらしいが、証拠がなかった。校長先生は生徒を信じていたため、松永を捕まえたかったが、証拠がないためできなかったのだ。

そこで、今日の出来事。

野球部の勢いに、今までのセクハラを認め今はもちろん牢屋の中。実は犯人逮捕に貢献したと言っても過言ではないのだ。




「恩に着るよ。ありがとう」

「……い、いやぁ、とんでもないです」


怒られると思っていたので、感謝されるとなんだか変な感じがした。

花井はホッと溜息をつきながら応える。



「そんなことより!三橋は大丈夫なんですか!?」

「あぁ。今保健室で休んでるよ。君たちも行ってあげなさい。授業のことは目をつぶろう。今日のほんのお礼だ。」

「うわぁ、まじ!あんがと先生!」

「よっしゃ!三橋んとこ行こうぜ!」

「ちょ、お前ら!」



安心と嬉しさと色々まざってテンションの上がった4人は、颯爽と相談室から消えて、花井は校長先生と2人きり。

なんとも気まずい。



「あ、あの…本当にありがとうございました」

「いや、いいんだよ花井くん。野球部の活躍や努力は耳にしている。頑張ってるんだね」

「っ!」

「これからも頑張って。応援してるよ。今日は本当に、ありがとう…」

「いえ!とんでもないです!騒ぎを起こしてしまって申し訳ありませんでした!」

「いいんだ、ほら、君も三橋くんのとこへ行ってあげなさい」

「っ…ありがとうございます!…失礼します!」




深々と頭を下げてから、花井は相談室の扉を閉めた。一気に安心した体が、へにゃへにゃと崩れ落ち、床に座り込む。

まだドキドキ鳴り続ける心臓に苦笑してから、花井は保健室へ走った。
















「三橋ぃ!」

「う、ぉ、田島く!」

「大丈夫かぁ!?心配した〜!」

「三橋…どっか痛くないか?気分は?」



真っ先に保健室に辿り着いた田島と泉は(阿部と水谷は置いてきた)、ベッドにちょこんと座る三橋のもとへ行く。

ぎゅーっと抱きしめてくれた田島と、優しく頭を撫でてくれる泉に安心したのか、三橋はボロボロと泣き出した。



「うぅっ…こ、こわっ、かった…!!」

「三橋……」



子どものように声を出して泣く三橋に、2人は心を痛める。

すると、すぐに7組衆が集まってきた。



「三橋、大丈夫?」

「クソ谷のせいで遅れたろアホめ」

「ちょ、しょうがないじゃん!携帯落としたんだから!」

「騒ぐな。……三橋、もう大丈夫だぞ?あいつは警察行きだ」

「っ!け、けーさ、つ……」

「あいつ、三橋以外にも色んな奴にセクハラしてたんだ。捕まって当然だよ!」

「……そ、そっか……」



落ち着いてきた三橋から身体を離した田島は、なんと三橋の制服を脱がしだした。



「た、田島!」

「………ぁ」



左側の鎖骨上あたりに、赤い跡。

三橋はビクッと身体を揺らした。



「こ、れ…あ、洗った、んだけどね……赤いの、消え…なくて……」

「消えるわけねぇだろ。松永にやられたのか?」

「う………うん…」



学校では見ることのない真剣な顔の田島に、三橋も慄きながら頷く。



「俺が消してやるよ!」



ゆっくり顔を近づけ………た、が。


グイッと後ろに引かれ、さらに頭を叩かれた。



「いっで!何すんだ泉!」

「このドアホ!お前が勝手にそういうことすんじゃねえよ。」

「だって、泉だってムカつくだろ!」

「ムカつくよ。松永殴り殺したいぐらいムカつくけど、それは三橋がもし望むならの話で、三橋が望んだ人にやってもらうべきだ。」

「……ぶぅ。」

「悪いな三橋、驚かせて。」

「いっ、嫌、じゃ、ないよ!」

「無理すんな。田島に合わせなくていいんだぞ」

「………」




泉が男前すぎる。
花井と水谷は泉に心の中で拍手喝采を送った。
よくやったと。

俺たちだったら呆然としすぎてまんまと田島にやられてたところだ。



「とりあえず、三橋はゆっくり休めよ。部活も無理に来なくていいしな。」

「っ、お、俺、行きたい!」

「……なら来いよ。その代わり今はゆっくり休め!」

「う、うん!!」



あ、阿部が男前だ。
花井と水谷は、キラキラ輝く2人を目の前に目を細めた。

王子だ……王子が2人いる!





「とりあえず、俺はシガポんとこに事情説明してくるわ。」

「あ、俺もついてく!」



花井と水谷は保健室から出て行く。




「じゃー、もうすぐ授業終わるだろうし俺らの荷物持ってくるな!」

「お。サンキュー」

「あ、ありがとう、田島くん」

「じゃー俺もあいつらの持ってきてやろ。頼んだぞ、泉」

「……りょーかい」



バタン!と閉まるドア。

保健室に、2人きり。




「………あ、あの……泉、く…」

「……はぁ…あのなぁ、三橋。簡単に田島に触らせてんじゃねえよ。俺本気の力で叩いちまったろ?」

「ぇ、ご、ごめんなさいっ……」

「あと、すげえムカついてるから、学校だけどいいよな?」

「っ!……え!あ、ちょ、泉く!」

「孝介。」

「……こ、こー、すけ…くん!」

「悪いけど止まんねぇし、部活に支障でないようにキスだけにしてやるから」

「っ!!……ん、ふ…」




突然塞がれた唇。いつもと違って甘くて深いキスじゃなくて、激しくて唇が痛くなってしまいそうなキス。


ギュッと服を強く掴む手を、包み込むように手を重ね、キスを続ける。

激しさと息苦しさに、自然と零れた涙は、ポトリと泉の肩に落ちた。



「はっ……はぁ…ん……ふぅ…」

「……っ、……ん…」



僅かに零れる吐息と声に、泉はますます興奮して、止まらなくなっていた。



ドンドンと肩を叩かれて、ようやく唇を離す。



「っはぁ!……はぁ、はぁ…はっ…」

「はあ………ふぅ。」



浅く息をつき、頬を赤らめる三橋を、次は強く抱きしめる。




「無事で…良かった。」

「い、泉く……」

「俺、かっこ悪りぃけど心臓止まりそうだった。…田島がいてくんなきゃ、多分動けなかった」

「………」

「廉、この跡、消すぞ?」

「う、ん……こー、すけくん、が、消して?」

「……」




三橋は、フワリと花のように笑って、泉の首に腕を巻きつけた。

















「なー阿部ー離せよー」

「うるせぇ。廊下走んな。ゆっくり行くぞ」

「なんでゆっくり行くんだよ!俺三橋んとこ早く行きたい!」

「まあ、待て。」




ったく、泉め。
これで貸し一つだぞ馬鹿野郎。

阿部は騒ぐ田島を宥めながら、泉に小さく舌打ちをした。















「あ、三橋」

「う、ぇ?」

「阿部にはバレてるわ。俺ら付き合ってること」

「っ!!な、なんで!?」

「多分、三橋の様子見て分かったんじゃね?」

「ぇ……?」

「部活中の俺への熱い視線、でな♪」

「っ!!な……なっ……」

(あーほんと、三橋って見てて飽きねえ)









とりあえず、ハッピーエンドのようで。


一件落着とな。














西浦事件簿
本当の事件はこれからかもしれない。



(あ、俺三橋と付き合ってるし、むやみに触ったらぶっ殺す)
(い、泉くん!?)
(((………えーーーーー!!!)))



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