Thank you for Clap
「田島が静かぁ?」
「お、おお……どうしよ……」
「こりゃ雪か槍降んな…」
「結構ガチで否定できないね」
神妙な面持ちで7組にきた泉の言葉に、俺たち3人もポカンと口を開かせた。
「とりあえず部活まで様子見るわ」
「おお…部活では、俺たちもフォローすっから…」
「さんきゅ……また放課後」
部活ではさらにヒドかった。
バッティングは空振りばっかだし、声も全くでてねえし、意地悪トスも全然とれねえ。
泉は驚きより心配が勝ったらしく、まだ練習しようとする田島を止めた。
「やめとけ。今したって意味ねえよ」
「………」
「スランプなんだろ?」
「ち、ちっげーよ!スランプじゃねえ!」
「じゃあなんだってんだよ。」
「………泉には言わねえ」
「はあ!?にはってなんだよ!」
「泉には……悔しいから言わねえ」
「はぁぁ??」
「ま、まあ落ち着きなよ泉!田島も、何があったんだよ。お前がこんなんだと練習どころじゃないのは確かだよ。」
「………っ!」
「……田島!」
田島は、むっすーと口を尖らせながらそっぽを向いた。
あぁ……拗ねてる。
「だって、三橋が……三橋がぁ…!」
「み、みはし?」
移動教室んときクラスメイトのやつに捕まってさあ…。三橋可愛いから。
でさ、野球部のことめっちゃ質問されてたの!
「三橋ー野球部で一番うまいの誰!?」
「え、と……たじ、まくん、だよ!」
「おー。やっぱり?じゃあ、かっこいいのは?」
「……み、みんな、かっこいい、よ!」
「付き合うなら?」
「ふ、ぇ?」
「野球部で、付き合うなら誰?」
「…………」
「そんな質問すんなよなー!女子じゃねんだから!」
「確かになー!あはは!」
「………」
「じゃあさ、頼りになるのは?」
「っ!は、花井くん!」
「お!即答!」
「キャ、キャプテン、だし…俺のこと、も、フォローして、くれるん、だよ!」
「へー。すっげえ信頼されてんなー」
「あーそういやそんな話してたな…」
「もう、俺ショックでさ!全部全部田島くんって答えてほしかった!!」
「おっまえ……そんだけ〜?」
「だって!……だって俺花井より三橋に頼られたいんだ!」
「……お前っ」
「た、たじっま、くん!」
黙って田島の言い分を聞いてた三橋が、声をあげた。
集まる視線に、恥ずかしそうにするけど、それでも口は開いた。
「た、田島くん、は……」
「………」
「俺の、ヒーローなんだよ!」
ひ、ヒーロー……。
しっくりきたその言葉に、俺たちは恥ずかしくなったり脱力したりだ。
頼りになるって言ってくれたのは嬉しかったけど、俺も三橋にヒーローって言われてえよ……
ほら、田島。満足だろ?
「ヒーロー……」
「うん!」
「そっか……ヒーローか……ヒーロー!」
「そう、だよ!俺の、ヒーローだ!」
「うぅぅ!元気出てきた!三橋!次のバッティング見てろよ!俺三橋のために打つかんな!」
「いや、それ普通はホームラン…」
「みっはしー!俺は三橋のヒーロー!」
「そ、そー、だよ!」
「じゃあ、三橋は俺の……ヒロインだな!」
「ひ、ろいん?」
な、なんかちげええ!
ヒロインって女主人公みたいな意味だろ!全然こいつ分かってねえよ!絶対!
「ヒロインはヒーローの傍にいなきゃダメなんだぞ!」
「お、じゃ、じゃあヒロイン、なる!」
「おっし!練習練習!!」
「れん、しゅー!」
「な、なんか疲れた……」
「あいつらなんなの…」
ぐったりする栄口と傍観してた水谷。
そんな2人の肩を叩いてから、泉のこの騒動をしめるお決まりの一言。
「おれは慣れたぜ。」
いい加減、俺だって慣れたいんだけど。