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 昼食後しばらくして。

「ティンベル」
「こんにちは、ダリューン様」

 約束通り俺はティンベルを迎えに来た。彼女はニコニコ笑って表へ出てきて、行きましょう!とハイテンションで言うのだ。ああ可愛い。

「聞いてくださいダリューン様。今日は地元のお菓子を作ってきたんです」

 そう言って籠を持ち上げる。蓋を少し開けると、風に乗って甘い匂いが広がる。中を覗き見れば焼き菓子が入っていて、確かに彼女の郷土料理であるお菓子が入っていた。

「いい匂いだ」
「そうでしょ?前に父に頼んでいた材料が届いていたから、それを使って作ったんです。果物を使っているから、殿下も喜んでくれるといいなって」
「大丈夫。ティンベルのお菓子が美味いのは俺が保証するから」
「あら、ありがとうございます」

 少し赤くなった頬に手を当てて嬉しそうに笑う姿は一気に花が咲いたようにキラキラして見える。ただ、とにかく困るのは上機嫌な彼女を連れて王宮に向かう道すがら、チラチラと視線がこちら――特に隣のティンベルに集まることか。彼女がいかにストールで肌や髪を隠していても、元来の性格や雰囲気はダダ漏れな訳で……つまり彼らは俺の敵だ!!
 時折視線の元に睨みを利かせながら目的地にたどり着くと、殿下は中庭で待っていた。こちらに手を振ってくれる。

「よく来てくれた、ダリューンにティンベル」
「どうも、殿下」
「こんにちは、殿下」

 殿下は嬉しそうに笑うと、こっちに来てくれ、と座る場所を提供してくれる。各々席に着き、侍女が紅茶を置いて離れてから、ティンベルは持ってきたお菓子をテーブルに並べる。殿下はほう、と驚いた声を上げた。

「私の地元のお菓子です。朝焼いて持ってきましたの」
「凄い。淡い青色をしているが…」
「食用花の色です。一応毒見をしていただければ不安なく食べられると思います」

 そう言って侍女を呼ぶと毒見をしてもらう。一口食べた侍女は瞬時に目を輝かせ、おいしい、と呟いた。ティンベルのドヤ顔が見えて思わず笑う。

「さ、殿下もダリューン様も、どうぞお食べください」

 そう言われたので焼き菓子に手を伸ばそうとする。その時、背後に気配を感じて焼き菓子の皿を移動させた。すると、自分の左右から焼き菓子を掴み損ねた三人分の手が面白いように空を切る。

「なっ」「オイ」「ちっ」

「皆さん方より先に食べるべきお方がいるでしょう」

 割と本気で背後の三人――キシュワード、クバード、シャプールを睨みつける。殿下に無断で空間に入ってきた上、無断で献上品に手を出し、さらに俺の至福の時間を邪魔するとは何事。キレるぞ。

「まあダリューン、落ち着け」
「そうだぞダリューン。キレたって良いこたぁねえよ」

 キシュワードとクバードがどうどう、と気性の荒い馬を宥めるかのように言ってくるのを不満顔で受け取る。俺は知っている、お前たちがティンベルを良く思っていることはな。特にシャプール!

「まあまあ落ち着いて、ダリューン様。――さあ殿下、是非食べてみてください」

 ティンベルが俺に笑いかける。それだけでこの怒りも収まるのだから本当に不思議だ。これがベタ惚れしたが故の結果なのか。
 とにかく殿下が一つつまんで食べる。すると夜空色の瞳を輝かせ、ティンベルを見る。そして一言、

「美味い」

 それだけで感動が伝わってくる声音で呟いた。またティンベルはドヤ顔が発動した。
アルスラーン殿下は欲のままに二つ三つと食べて、それから紅茶を飲んで落ち着くと、欲しい欲しいオーラ漂う三人の男を見た。

「悪いが三人とも、これは私とダリューンが受け取ったものだ。だからあげることはできない。というか、あげたくない」

 すまぬ、と困ったように笑う殿下に、クバードとキシュワードはまあ仕方ないと引きさがる。よし。残るは一人だ。俺はティンベルに向かって、よかったなと笑いかける。そのまま頭を撫でてやれば、彼女はまた上機嫌ではい!と見えないけれどほんわかする何かを撒き散らし始める。ああ可愛い。彼女に気づかれないようにシャプールを見れば、彼はわなわなと怒りに震え始める。

「お前…!」
「ティンベルは料理が上手だからな。――昔から」

 最後の言葉を強調しておくと、シャプールのこめかみに青筋が浮き出る。
 怒りで今にも暴れだしそうなシャプール、それを嗤う俺、その光景を笑いながら見るクバード殿、そしてどこかへ消えたキシュワード殿と慌てた様子の殿下、その中で完全に浮いている幸せ全開のティンベル。なかなか無いカオスな光景。
 まだまだやってやろうかと思ったが、シャプールが本気で噴火しそうだ。それを感じたらしい殿下はシャプール、と声をかける。

「とりあえず今日はダメだ。私がティンベルに外の話を聞かせてもらう約束だからな。このお菓子も、ダリューンが相席して聞くのもその一環。無くてはつまらない」
「…分かりました」

 シャプールは不完全燃焼なそぶりを見せながら失礼します、と踵を返す。クバード殿がまあまあ!とシャプールにだる絡みしながら離れていくのはいつも通りなので気にしない。
 とりあえずこれで邪魔者は全員排除できた。俺は虫を排除してくれた天使――じゃなくて殿下に頭をさげる。

「殿下、ありがとうございます」
「礼には及ばぬよ。――私が応援してるのはダリューンだからな」

 そう言ってウインクされて照れる。隣にいるティンベルは相変わらず訳が分かっていないようで、私もダリューン様を応援してますよ!とニコニコ顔だ。――今なら多分一人で六万の敵を相手にできるかもしれない。まったく、お前は女神か。

「そうか。俺もティンベルを応援するぞ」
「うふふ、良いですねぇ。こうやって支え合える友人とのんびりできるの。もちろん、殿下も友人です」
「そうだな」

 流れが全くわからない会話になったが、最終的にちゃんとまとまった感があるので良いことにしたい。

▼ダリューンは (殿下に) お邪魔虫を 払っ(てもらっ)た !!

三日目:彼女につく虫を払いのける


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