「5組か」
非常に面倒な入学式が終わり、明澄は1人掲示板でクラスを確認していた。電光掲示板に載る自分の名前を見て、自分のクラスの位置もついでに把握した明澄はスタスタと廊下を歩き、5番目の教室ー5組に入る。すると、クラスメイトの人間の目が一斉にこちらを向く。
「………どうもこんにちは」
笑顔を見せて一言言うと、明澄は割り当てられた一番後ろの席についた。正直、非常に居心地が悪い。入学初日にして凄まじいストレスを得ながら、興味本位で寄ってくるクラスメイトに挨拶と軽い会話をしていく。
そうしていると、1人の男子がやってきた。明澄の周りに群がる生徒を見ると、
「俺の席、そこなんだけど」
と言った。その睨みのおかげか、生徒はそそくさとはけていき、男子生徒を席に誘導するように道を作る。男子生徒はそれを当たり前のように進み、何事もなかったかのように席についた。
――この人、面白そうだなぁ
明澄は再び繰り広げられる一方的な話しかけを聞いているようで無視しながら、目の前に座る男子生徒の背中を見る。いつか声をかけてみよう、と思っているうちに、教師がやってきた。
その教師はスーツをきちんと着こなしているようで似合わず、姿勢はどこかダルそうだ。そして、やる気のなさそうな目つきで教卓の前に立つと、ふあ、と欠伸をする。あまりのやる気のなさに活気のある雰囲気だった教室は鎮火され、生徒は割と冷めた目で教師を見る。その視線をグッサグッサと浴びながら、気にもならぬという体でその教師は口を開く。
「どうも初めまして。俺は佐藤です。君たちの担任。まあ皆、せいぜい楽しい3年間を各々過ごしやがれ。
で、これからだけど、やってもらうことあるから」
そう言って机に備え付けられている機材の電源を入れるよう命じて、佐藤も自分の教卓に備え付けられた機材に電源を入れ、作業を始める。かったるそうだが速い作業スピードに、明澄はほう、とその教師を見る。
――この人は効率主義でわりとサバサバしてそう。作業も速いし、悪くない人かも。
自分の端末が起動されてすぐ、記入要項のデータやらを送ってくる作業の早さに感嘆しながら、与えられた作業を黙々と進める。
そんなこんなするうちに作業が終わり、しばしのフリータイムを与えられる。よしきた、と明澄は前の男子生徒に声をかける。
「ねぇねぇ」
「……何?」
くるりと後ろを向いた生徒に、明澄は手を差し出す。
「私は栗本明澄といいます。よろしく、前の座席の方」
「…俺は荻野慶太。よろしく頼む」
とりあえず握手を交わし、定番のやり取りをする。そこに、やはり暇になったらしい明澄の隣席に座る男子が入ってくる。どうやら荻野くんの友人らしい、慣れたように彼は乱入者を見る。
「荻野ー、こいつは誰だ?」
「入学式で挨拶してた奴だ」
「ああ!お前だったのか、ごめん。寝てたから話聞いてない」
申し訳なさそう…というわけもなく頭を掻いた彼に荻野はため息をつき、明澄は思わず笑う。
「あははっ、面白い人ね!荻野くん、紹介してよ」
「…こいつは斉藤悠。端的に言うと幼馴染のアホだ」
「アホではないけど斉藤だ。はるって名前は苦手なんだ、苗字で呼んでくれ」
「分かったわ。私は栗本明澄。よろしく、斉藤くん」
互いから右手を出し、握手をすることで友好を結ぶ証とする。
「明澄ちゃんでいい?」
「いきなり名前か」
「だって面倒だから」
「…荻野くん、こいつ感覚おかしいわね」
「言ったろ?アホだって」
アホじゃないですー、独特っていうんですー。悠と慶太のやり取りを聞きながら明澄は笑う。
家の方向は2人とも明澄とは逆。慶太はサッカー部に、悠はバスケ部に入部することを考えていること。明澄は帰宅部になる気満々であることなど様々な情報をやり取りする。そうしてどうやら彼らは楽しい人のようだ、と彼らに評価を下しながら、フリータイムを満喫した。
その後、再び課題を配られ、作業を終え次第解散となった。案の定明澄は怒涛の勢いで課題を終わらせ、2人に挨拶すると誰よりも早く校舎を出て行った。
彼女の取り巻きになりたいと願ったクラスメイトの一部は、取り巻くどころか挨拶もしてもらえないということを察知する羽目になった。