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「♪♪♪〜〜〜」

 3月某日の栗本家。一人しかいないこの部屋で、ソファに座って一人クラシックギターをかき鳴らして異国の言葉で歌う少女がいた。曲の種類は中南米音楽フォルクローレ。一人楽しそうに歌い、爪弾きも華麗にこなして、最後にギターをかき鳴らして終える。そして、まだ弾き足らなかったのか、じゃん、とコードを弾く。そして息を吸ったとき、

プルルルルルル――

「あ、」

 ギターを弾く手を止め、立ち上がって座っていたソファにクラシックギターを置く。そして震えるスマホに手を伸ばし、通話ボタンを押す。

「はいもしもしー。――あ、風間さん。どうしたんですか?」
『元気そうだな。なぁ…お前、制服は買ったか?』

 明澄の動きが止まる。顔に冷や汗が浮かび、笑顔がひきつる。

『制服だ、高校の』
「………か、買ってない」

 次の瞬間、明澄は空気が冷えるような感覚を得た。沈黙が痛い。

『…高校生になる気はあるのか?』

――うぎゃあ。

「か、買ってきます!今すぐ!きき切りますよ電話!」
『行ってこい。――そうだ、気をつけろよ。つい先日魔法師が暴れただろ』

 先ほどまでの殺気はどこへやら。一瞬でいつもの風間さんに戻る。もちろん明澄も、冷静に記憶の中を漁る。そういえば、ベイヒルズタワーで事件があったねぇ。

「協会での放火ですね」
『そうだ。最近は物騒だからな。困ったら近くの"大人たち"を頼れよ。…彼らが実力者なのは事実だからな』
「はい。幸い、"目をかけてもらえる人間"ですからね、私は。だから有効活用しますよ」
『なら行ってこい。だらけていたら日が暮れるぞ』
「了解です隊長!では、失礼いたします!」

 スマホなので相手の顔は見えないが、いつもの癖で額の横に揃えた手をもってくる。電話が切れたのを確認して通話画面を閉じた。そして、

「着替えねば」

着替えて慌てて外へと出かけて行った。


 小一時間ほど経ったころ、横浜市内某所の百貨店。その中にある制服専門店に明澄は出没した。受付のおばさんに制服を作りたいことと学校名を伝える。

「まぁ!すごいところに行くのね、お嬢さん」
「え、そんなにですか?――ああ、採寸は簡略でお願いします。オーダーを作る気は無いので」
「じゃあ身長を教えてくれる?」
「167cmです」
「分かったわ、合いそうな見本を持ってくるから試着室で待っていてくださいな」

 ちなみにその学校、この県では頭いいって有名なのよ?という発言を残して受付のおばさんが消える。そんなにすごいところに私は行くのか、と今更ながら凍り付く。
 試着室に向かう短い道を、様々な学校の制服を横目に見てすすむ。セーラー服、ブレザーにプリーツスカート、ボックススカートなど多種類の制服を見ながら楽しんでいたが、最後にあらわれた制服に思わず立ち止まる。

「……着たかったなぁ」

 緑のボレロに白いワンピース、ひらひらしたオーガンジー、黒いネクタイ、タイツ、ブーツで成り立つ制服――国立魔法大学付属第一高校のもの。深雪と達也くんは春からこの制服を着て、この制服を定めた学校に、魔法を学びに通うのだ。私は、この学校に落ちて、日本のあちこちにある文科高校の一つに、知識を学びに通う。そこに魔法はなく、誰でも学べる一般教養しかない。

「栗本さん、持ってきたから試着室に入って」
「あ、はい」

 試着の品をもって来たおばさんに背中を押される形で明澄は試着室へ向かう。困ったような笑みの裏に、悲しさと悔しさをにじませながら。

入学のための準備をしましょう


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