2095年3月某日
日本旧茨城県土浦某所、風間家一室
少し家具が少なくて殺風景な感じがする以外は何の変哲もない室内に、一人の男と一人の少女がテーブルをはさんで座っていた。少女――明澄は何とも言い難い表情で、呆れるような、わかっていたような声を上げた。
「………いや、ね。うん。わかってはいたけどさぁ」
彼女が手にしているのは二つの高校入試結果通知。一つは魔法科、もう一つは文科の高校から送られてきたものだった。宛先に書かれた名前は栗本明澄。とうに封は切られ、受取人に内容を読まれている。
「とりあえず早く結果を言いなさい。わかってはいるがやはり気になるものだろう」
「わかってるなら聞かなくていいじゃないですか」
「兎に角言いなさい。これは命令だ」
「はい隊長」
明澄の前に座る大人――風間は、こころなしか緊張した面持ちでそう言い、明澄は姿勢を正して風間を見た。
「国立魔法大学付属第一高校は落ちました。ご想像の通りです」
「うむ。で、次を」
「旧神奈川県立の文科高校は…首席入学だそうです。信じられないことに」
風間は思わず口を開いた。しばらく動かずに沈黙して、目前の少女を見る。そうですよね信じられませんよね――そう呆れ顔をする明澄も、風間を見返す。
「………本当か?読み違えではないのか?」
「そうですね。首席入学者に対する入学式での答辞の依頼も入ってます」
ぺらり、と差し出されたひらひらの紙一枚を風間が受け取る。確かにその紙には『首席入学者への新入生総代による答辞依頼』と書かれており、『栗本明澄様には――』といった内容の書面があった。
「この学校って旧県内トップ、最高峰…だったな?」
「はい」
「名前間違ってないか?」
「間違えてませんねぇ。風間ではなくちゃんと栗本って書きました」
「………」
「なんならコネ使って調べますか?いや、コネ使わなくても響子さんに頼めば一発ですけど」
「いや、いい」
はぁ、とため息が漏れる。一度下がった目線を上げれば、心なしか顔色が良く、嬉しそうな明澄の顔があった。その顔を見てようやく真実を飲み込んだ風間は、保護者として面倒を見ている少女に向かって微笑んだ。
「まぁとりあえず…首席入学おめでとう。これからも励めよ」
「はい隊長――いえ、風間さん。これから頑張ります」
栗本明澄、魔法師の端くれ。
魔法科高校に落ちた彼女は文科高校に行くことになった。