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「#切ない」のBL小説を読む
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- ナノ -

8月4日

 ホテルの中にある高級士官用客室。その一室で、明澄はたった今部屋に入ってきた友人に手を振る。

「秋速ーーいや、明澄か」

 うん、と明澄が笑う。すると、

「その通り。今日我々は君を、『戦略級魔法師・大黒竜也特尉』として呼び出したのではなく、我々の友人『司波達也』君として招いたのだ。それは明澄も同様。だから、あまり遠慮されると我々の方が困ってしまう」
「それに君が立ったままだと、話もしにくい。座ってくれないか」

 真田と柳に言われる。明澄の様子もだらけモードなため、達也は一礼して風間の向かい側へ腰を下ろす。

「達也くん、昨日ぶり」
「そうだな」

 隣になった明澄が達也に声をかけ、響子が達也にカップを差し出す。

「あら、そうなの。私とは久しぶりですね。ティーカップでは少し様になりませんが、乾杯といきましょうか」
「藤林少尉。ありがとうございます」

 風間の副官、というよりは秘書役の女性士官からカップを差し出され、達也は黙礼しながらソーサーごと受け取る。今日は全員スーツ上下やシャツ・上着なしの平服姿だ。明澄は学生らしく制服ーーではなく、藤林響子チョイスのレディーススーツ上下を着ている。彼女の場合、制服を着るだけでこの会場内では目立つ存在になるため仕方の無いことだ。ただ、できる女社長みたいな雰囲気があるのはさすが明澄だと達也は思う。

「私も先日会ったばかりだが、まあこの場は藤林君の顔を立てるとしようか」
「無理なさらずともよろしいのですよ、山中先生」
「いや、再会の祝杯に横槍を入れるほど、私は野暮ではないつもりだからな」
「……先生はカップにブランデーを注ぎ足す口実が欲しいだけでは?」
「目出度い席に酒精は付き物。ーー明澄は劇的に酒がダメだから絶対にやらないけどな」
「助かりますね」
「いや、そもそも未成年だろう」

 山中と明澄、柳の3人による漫才のようなやり取りを笑みを浮かべつつ見ていたメンバーだったが、風間の咳払いで空気は漫才モードから通常に戻る。

「柳大尉、藤林少尉、お久しぶりです。真田大尉、先日はありがとうございました」
「いや、こちらの方こそ助かったよ。『サード・アイ』の長距離・微細・精密照準システムは君でなければ手に負えないからね。あと、もう一つの新兵器の照準システムも」
「あのCADはもともと自分用ですから……。新兵器の方は完成が楽しみです」

 隣に座る明澄がきらりん!と目を光らせてこちらを見る。視線が痛い。

「達也くん!なんの新兵器?」
「あー…狙撃銃型のCAD。真田大尉が今作っているんだけど、その照準システムを手伝わせてもらったんだ」
「ほほー!使うのが楽しみだよ!刻印術式でもどうにかなる?」
「ああ。むしろそれで使えるようにしようとしているところだ」
「すごい!うわあ楽しみ!真田さん、とっとと作って私に触らせて!」

 はいはい、と真田が苦笑し、達也も困ったように、それでいて楽しそうな様子。が、彼はすぐ何かを思い出すと一〇一の軍医に話しかける。

「山中先生、そういえば先日の検査結果をまだ頂戴しておりませんが」
「……私だけ扱いが違わないか、達也?」
「先生……面と向かって人体実験をさせろという医者に、好意を持つ人はいないと思いますが」

 山中の抗議に藤林嬢がツッコミを入れれば、山中はわざとらしくそっぽを向く。円卓は笑いに包まれた。それはとても穏やかな空気で。

 しばらく近況報告やら歓談ののち、達也は午後の競技の観戦のために立ち上がったので、円卓のお茶会はお開きとなった。達也、真田、柳、山中は各々の用件で部屋から姿を消し、残った風間は書類に目を通し、明澄と藤林は食器を洗ったり後片付けをして過ごす。

「明澄ちゃん、また手際良くなったわね」
「ふっふっふ。一人暮らしの賜物よ…!」
「おかげで隊長の食生活は不安だわ。まだ軍の食堂があるだけマシだけど」
「うわ…これ私が作りに行ってあげないとやばいですかね?通い妻ならぬ通い娘ですねぇ」
「そこまで悪くない。ちゃんと外食は減らしたし、それに明澄は通いでもなく娘だろう」
「……………照れますなぁ」

 頬まで真っ赤に染めて照れた明澄に、隣で様子を見ていた響子はふふ、と微笑んだ。なお、明澄が食器を落としかけたのは慌てて魔法で止めた。

酒なんて飲んでないですとも


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