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「#切ない」のBL小説を読む
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8月2日

 自室に戻ってウイッグとカラコンを取り、シャワーを浴びてから私服に着替える。今日の"コスプレ"をしての任務一つ目(午前中いっぱいを使った格闘訓練)が終わったので、タンクトップにカーディガン、フレアスカートを着込み、髪はいつものシニヨンに結い上げる。そして、遅くなったお昼を取るために軍用エリアから民間エリアに移動する。兵士の移動を民間人の移動にカモフラージュするための工夫を存分に使い、あたかも民間エリアにしかいなかったような形で民間に開放しているロビーに出ると、

「あ、エリカに美月。それにレオくん、幹比古くんも」

 私服姿の友人達に遭遇する。こっそり見せてもらった名簿では彼らは九校戦には無関係のはずだが…。

「明澄?!何でいるの?!」

ーーそれは私が聞きたい!!

 そんなことを言っている場合ではないと切り替えて、おーい、と手を振って駆け寄る。他3人も、同じような顔をしているので、早々に自分の答えを教える。ーー芝居掛かった不満顔を忘れずに。

「皆忘れた?私も魔法師の端くれだって」
「いやそうだけど」
「明澄さん、もしかしてあの恐ろしい倍率を勝ち取ったの…?」

 幹比古くんは引きつった笑みで私を見る。まあ十師族でもない上、彼らとの関わりも深くない人たちは私の苗字が意味するところを知らない。だから、こんなものだろう。

「無理よあんな地獄のような倍率。私は私のコネを使ってきたの」
「…もしかして、バイトする?」
「いや、私はお客様として来たわ。逆にバイトって何?」

 確かに仕事で来ているが"私"はお客様として来た。だから嘘はついていない。
 それより。どうやら私の抱える疑問は解決しそうだ。

「あー…えっと、ね」

 エリカが答えに一瞬詰まる。それで粗方事情は察した。
 彼女はあくまでも千葉家の娘で、その家から役割を与えられてここにいるのだ。
 そんなことまで理解していると知らず、そして一般人の知らないところを考えている予測など全くしていないであろう美月が、エリカの代わりに答えを言う。

「ウェイターさんみたいなことです。裏方業務ですね」
「ああ、九校戦には前夜と最終日にパーティがあるらしいわね」
「そ、そうそう。それでバイトしに来たの」
「なるほど。普通科には無いイベントだわ」

 明澄は頷きながら、ちらりと幹比古の様子を見るが、やはりというべきかーー隠しきれない複雑さが見えた。詳しい事情はそこまで知らずとも、古式の名家である吉田家の人間が二科生にいる時点で、何かあると思うのは明澄のようなある意味情報通の人間には当たり前だろう。

「なあ、明澄。俺ら早いおやつでも食いに行くつもりだったんだけどよ。よかったら一緒にどうだ?」

 ちょっと暗い雰囲気を気にしたのか、今まで黙っていたレオが提案する。それを聞いてエリカや美月、幹比古は賛同の意を返す。そして明澄はというと、

「いいの?!行く行く!!」

先ほどまでの思考など放り出し、目を輝かせて喜んでいた。


 場所は変わってレストラン。6人掛けのテーブル席に座った私たちは各々好きな料理をやってきたウエイターに注文する。そしてメニューがウエイターによって回収されたやいなや、レオの発言を皮切りに会話が始まる。

「しかしまあ不思議な縁だ。たまたま達也たちに声かけられてついていった普通科の文化祭で会った明澄と別の場所で会うなんてな」

 そうね、と冷水の入ったコップを置いて、冷水で冷たくなった口を開く。

「魔法科高校のイベントの会場は割と閉鎖的だよね。警備面もあるのだろうけど、普通科のイベントのように人入り乱れて何てことあんまりないでしょ?」
「確かにそうね。明澄の高校行ったときはいろんな人がいてびっくりしたもの」
「明澄のところの生徒だけでなく、他校の生徒や中学生、小学生、それに父兄の方や卒業生っぽい人も見かけましたし」
「僕たちのところは文化祭や修学旅行もないし、誰かが入ってくることもそうないよね」

 エリカたちの反応を見ながら、私は風間さんにレストランにいます、とメッセージを送る。そうしている間に料理が運ばれてきて、テーブルはしばらく料理をさばくのに意識が向き、ようやく落ち着いて手元を見た時にはすでに返事が返ってきていた。中を見ると、最近流行している可愛らしいミニキャラのスタンプでオッケーと書いてあって、思わず笑う。

「どうしたの?」
「え、ああ、かざ…」

 そこで返事に詰まる。いつものように呼ぶと、彼らには大天狗が親なのかと聞かれて困りそう、しかし隊長と呼ぶにはもっと危険が…となると残るは一つしかない。気恥ずかしい思いをねじ伏せて、懸命に平常を装って返事を返す。

「お父さんからの返事がかわいくて」
「見せて見せて!」
「いいとも!」

 ちゃんと言えた、と安堵しながら、エリカにせがまれるまま風間さんの名前が見えないように画面を見せる。すると意外なことに男性陣が反応する。

「おお!これ流行ってるよな!」
「僕もそれ持ってるよ。最近だと一高の男子とメッセージのやり取りするとだいたいそのスタンプが一回は使われる」
「話には聞いていたけれど、そんな流行してるんですね…」

 まじか一高…と思いながら会話を聞いていたが、よくよく記憶をたどれば、悠と荻野と私のグループでのメッセージルームにおいて、悠が『みてみてー!』と送り付けてきたスタンプたちがこのミニキャラだった気もする。荻野もそのキャラクターを便乗して送り付けるのでなんかすごい絵面になっていたことがだんだんよみがえってくる。
 なんか、

「人間の流行は、壁があろうと変わらないわね…」

そうしみじみ呟くと、美月がそうですね、と返事を返す。

「いつか、力を持つマイノリティと、力を持たないマジョリティの溝が埋まる日が来るといいわね」
「そうだな。そしたら、明澄だって同じ学校だったかもしれねえしな」

 そう言ってレオが複雑そうな顔で笑ったのを見て、本当にそうなってほしい、と心の奥底で願った。





 なお後日。

「明澄」
「なあに達也くん」
「お父さんと呼ぶなら本人の前で本人のために言ってやった方がいいと思うぞ」
「………分かってるよ…」

 よりによって一番言われたくない人にそんなことを言われた。高校生の情報網すごすぎ。

お兄様の愉快な仲間たちと昼食、そして後日


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