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 7月29日
 富士演習場

「うぎぎ…ついたー…」

 短パンにタンクトップ、パーカー姿の明澄はうあー、と言いながら身体を伸ばす。コキコキと小気味いい音を感じながら軍用車から降りれば、ジリジリとした日差しが髪や肌を焼き付けてくる。それを感じながら、明澄は後ろに立った人間へと回し蹴りを食らわせようとして、

「おっと」

失敗した。

「なんで距離とって避けるんですか真田さん」
「サンダルが足とともに飛んできたから」
「先に人へ膝カックン食らわせようとしたのは真田さんじゃないですか」
「事実を見てもいないのに決めつけるのやめようか」
「日頃の行いを見直すなら考えてやりますが」
「日頃こんなにも礼儀正しい人間いる?」
「何言ってんですかこの腹黒士官」

 グギギ…とにらみ合い、もしくは絡みを続ける2人を、風間が中間に立つことで止める。ため息を吐いた風間は、日光に焼かれる明澄の頭にツバ広の帽子をかぶせた。

「とにかく部屋に行くぞ。ダンボールの機材やらを運ぶのを頼む」
「転送していいですか?」
「自分の力でやれ」
「はーい。…面倒くさい」

 明澄はキャリーバッグを片手に、空いているもう片方で持てそうな箱を持った。やれ、多分もう一往復しないといけないんだろうなぁ。そう思うとサボりたくなるが、仕事の一環なので大人しくやることにした。



 大隊にあてがわれた広くもない部屋にたどり着き、機材を置いてをもう1サイクル繰り返してから、自分に割り当てられた部屋に向かう。びっくりなことだが、私と響子さんの一まとめで一部屋ではなく、各々に部屋を割り振ってくれた。私の部屋は富士の山と森がよく見える綺麗な景色を堪能できる箇所にあって、到着した瞬間キャリーバッグを投げ捨ててベランダに出て、スマホで写真をパシャパシャ撮り始めたのはもう生理現象だ。ありがとうお偉いさん、ありがとう税金、ありがとう国民。
 …キッチンがないのが残念だなぁ。

 そんなこんなしているうちに我に返り、大人しくきちんとした服に着替えた。といっても軍人の皆様のように堅苦しいものではなく、オフィスカジュアルな格好だ。ブラウスにカーディガン、ペンシルスカートにハイヒール。髪は全てギブソンタックに纏め、コームで留める。まるで大人だね!
 キャリーバッグに詰まっていた私服やフォーマルな服やらをクローゼットにかけ、満足してからちょちょっと荷物を整理して廊下に出る。そして幾人もの軍人さんの横を通り抜けて、大隊の待機部屋にたどり着いた。

「あら、明澄ちゃん。ーーよく似合うわ」
「えへへ、ありがとうございます」

 響子さんが機材のセッティングを進める中、私は支給された武装を詰め込んだケースをダンボール箱から引きずり出す。手早く点検を済ませ、問題がないことを確認してケースに再度仕舞うと、忘れ物を取りに自室へ戻る。



 数分後。
 忘れ物ーー3DS、PSP、PSvitaという名の暇つぶしグッズを充電器まできっちり部屋から持ち出す。部隊室に戻ると、ディスプレイが設置されており、富士演習場の各会場が映し出されていた。それを見るなり、

「いいなー、九校戦」

明澄は席に座って机にゲーム機を置き、机にぺたりと張り付く。それを見て笑いながら隣に座った響子は明澄の頭を撫でながら問いかける。

「あら、明澄ちゃん何に出たかったの?」
「魔法特性的にはミラージ・バットかクラウド・ボール、性格的にはモノリス・コードですね」

 その言葉にほう、と声を出したのは柳だった。

「確かに、テレポートを使うなら妖精かクラウドだな。妖精ならひたすらテレポートしては叩きを繰り返せるし、クラウドならどうせテレポートで好きなところに落とすだろう。あ、モノリスはノーコメントだ」
「モノリスの件には同意します。ーー妖精はわかりますけど、クラウドはそう簡単にいかないのでは?」

 うーむ、と柳と響子が唸った時、やってきた風間が苦笑しながら部下の会話に入る。

「実を言うと、中学生の時に私と一度やったことがあるんだ。…明澄の奴、全部認識して全部思い思いの所に落としてくれたよ」
「ええっ…」

 響子がドン引きするような目で犯人を見ると、犯人は顔を上げてヘラリと嗤う。

「えげつないことするのは大好きですー」

 …そう言ってまたぺたりと机に張り付いた。

「ルール違反にもならなかった。というよりは想定外なのだろうが」

 風間がため息をつきながら響子の淹れた紅茶に口をつける。そして紅茶を求めてか、届きもしない手を伸ばしてきた明澄に近くの綺麗なカップを立ち上がって手渡すと、響子が気を利かせてポットの紅茶を注ぎ、柳が紅茶のカップに角砂糖を一つ落とす。機嫌が、というより気分が良くない彼女を復帰させるには紅茶と砂糖が要ると知っている一〇一のメンバーの連携プレーは流石である。

「…なんか、すべての種目にルール改正が必要になりそうね」

 しばらくして紅茶を溢さず器用にむくりと起き上がり、砂糖の溶けきった紅茶を飲んだ明澄は、笑みを浮かべる。

「そういう意味では私のBS魔法はチートですからね。みんな欲しくてたまらないでしょう?ね?ね?」

 はあ、とこめかみを押さえながら、響子は明澄の頭をより一層優しく撫でた。

「あなたが普通科で本当に良かったと今になって思うわ。ーー魔法科に入ってたら、いろんな意味で世界が崩壊しそうね」

 その様子を見て微笑んだ風間が続ける。

「確かに。そういう意味では、明澄自体が戦略級認定されるのも頷ける」
「あ、ひどーい」

 あははは、と愉快な笑い声が部屋に響いた。響子、明澄、風間と柳も、楽しそうに声を上げていた。

文化祭が終わったのでお仕事します


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