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 6月中旬
 神奈川県某所 文科高校


 今日も今日とて降り続ける雨を窓の向こうに見ながら、明澄は退屈な話を聞いていた。

 内容は文化祭の準備やら委員の役割やら雑用その他、文化祭の運営に必要なこと。手元の資料を見ればわかるのではないかというような内容だが、なんせその資料に重要なことが全く載っていない。

「だからって俺にメモらせるのかよ…」
「悪いね荻野くん。シャーペン教室に置いてきた」
「お前なぁ」

 何のための資料だか、と呆れながら話は聞いているがやはり言われる内容も肝心な中身に欠け、トップの首をすげ替えた方が絶対良いとそんなことを考える。

――そういえば、

 トップという言葉で思い出した十師族というワード。今朝、またポストに"二の家"からの縁談申し込みの手紙が入っていた。これで私は一と二、四、七、九の家から縁談を申し込まれたわけで。

――十師族も何でまた、普通の高校の人間である私を欲しがるんだか…

 謎だ。私には自慢できる魔法能力も財力もコネも無い。そういえば戦略級魔法師の肩書きはあったけどそれも存在感は無いに等しい。濃いのは一〇一所属の徳守秋速だけ。
 つまり…やっぱり何で欲しいのかわからないですね!

 一度風間さんに聞いたことがある。それはもうストレートに。

『風間さん、私が嫁ぐことで婿側が得られるメリットって何ですか?』
『――!』

 懐かしい。たしか、動揺しまくって咳き込んでたな。落ち着いてから彼はこう答えた。

『主に子供だな。栗本の血筋による固有魔法の発現率アップ、サイオン量の増加、場合によっては明澄の持ってるサイオン操作の才能――つまり脳の素質も欲しいところは欲しいのだろう』
『えー…そんなに欲しいものですかそれ』
『…お前はあくまでも戦略級魔法師だ。その実力を是非という家は多いだろう』
『うへぇマジか』


――正直結婚とか考えてないよ…独り身でいいわ…

 ああ、とうなだれる。本当のただの高校生なら、今頃こんな無駄話も適当に付き合って、楽しく過ごすのだろう。どう考えても、深夜に軍にお呼び出しされたり、八雲師匠の訓練を受けたりなんてしない。普通に部活して、ほどほどに勉強して、ゲームやチャットで1日を終えるのだ。

――でも、それも覚悟のうちだったから、

 だから中学生のあの日に私は武力をとった。逃げずに戦って、確かな力と賢さを求めた。そして戦略級の認定を受けたし、刻印術式もいいものになったし、この高校に入った。あの日覚悟を決めなければないものだらけだ。学力だって、あの時はただの真ん中、平凡、普通だった。努力は人を変えるっていうけど、あれは真実だ。
でも時々、全部手放したくなったりもするのは仕方ないよなあって思ったり――

「――栗本!!」
「うわっえっはい!!!」

 びっくりした。急に名前を呼ばれて思考を現実に引き戻すと、荻野が仁王立ちでイライラしている。ひええこわいね。

「終わったぞ」
「ああ、…ごめん。全く認識してなかった」
「だろうな。ほら行くぞ」
「うん」

 ああダメだなあ今日。もう寝たほうがいいかもしれない。
 そう思ったが、どうやら心の声はダダ漏れだったらしい。

「ああそうだな、寝たほうがいい」
「え、あ、私何か言ってた?」
「もう寝たほうがいいかも、と言っていた。――何を思い悩んでそんな死んだ顔をしているのかは知らん。だが、無意識でそのようなことを言うくらいだ、寝たほうがいい」

 荻野はこちらを向くことなくすたすた廊下を歩いていく。しかし歩幅は完璧に私に合わせてあり、自分が普段よりいくらかだらだらと歩いているのが分かった。この荻野という男はぶっきらぼうだが間違いなく気の利くいい男だと、今日初めて知った。今まで気づかなかったとは、私も見る目が甘かったらしい。

「……あー、心配かけたね。分かった」
「分かったら寝ろ。四時間目は倫理だ、寝たって問題はない」
「ウイッス」

 とにかく、彼のいう事には一理ある。そう思ったので次の授業は容赦なく寝た。
 そして元気になった明澄は、

「みなぎる体力!」
「「「「もうやめてくれ!!!!」」」」

 そのあとの体育でやはり運動部を負かせ、最近地味に噂される運動部キラーの異名をまた轟かせたとかなんとか。

雨降る日、鬱な思考は止まらないから困る


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