×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 2日後の夕方。日曜日という休みを終え、月曜日を迎えた明澄は、学校で早々の実力テストを受け終わった。そして案の定誰よりも早く校舎を出ると、駅ではなく裏道、公道からの死角に入る。監視カメラがあるのを確認して、明澄はスマホを取り出すと"いつものところ"に連絡をかける。

「もしもし響子さん?――はいそうです。これから"跳ぶ"ので監視カメラお願いします」

 そして、ネクタイを緩めワイシャツのボタンを一つ外す。中から細い鎖を指に引っ掛け、青色のロケットペンシルを引き出すとそれを胸元に垂らす。

――座標、九重寺。

 サイオンを込めてBS魔法を発動、明澄は目を閉じた。




 1秒とかからず次に目を開けた時は横浜の裏道でも何でもなく、寺の境内と飛んでくる足が見えた。

「!」

 寺のお坊さんに取り囲まれている状態だ。認識しながら明澄はそれを間一髪で避けると魔法無しの体術で応戦する。次の拳を捌いて道着の首元を両手で掴み、こちらに向かってきたスピードを生かして左に振り回し、背後からくる別の人に向かってハンマー投げの要領で手を離す。すると勢いよく向かってきたその人は明澄に振り回された人と激突し、2人揃ってダウンする。残り1人――明澄は慣れた様子で先ほどの攻撃による後退を一歩下がって緩和する。それと同時にそこを狙ってきた最後の1人の攻撃範囲に入ったことを察知し、もう一歩大きく下がる。下がりながら右腕を引き、前に体重を一気にかけるとちょうど避けた場所に到達した敵の脇腹を思いっきり殴る。相手が同じくらいの身長(彼女は割と背が高い)だったので、ひるんだ隙に首を掴んで足を払い、地面に叩きつける。

「いっちょあがり、ってね」

 パンパンと服の汚れを払っていると、歩いてくる人影を見つけ、おーいと手を振る。

「こんにちは師匠ー」
「やあ明澄ちゃん。暫くぶり。慣れない制服でよくそこまで動き回ったね」

 九重八雲――この寺の住職にして明澄の師匠。相変わらずニコニコしながら胸元を見てくるのでとりあえず殴る。

「いやー…だって組手を制覇しないと刻印術式を布地に組み込んでくれないじゃないですか」

 それを受け止められた上、捻られる。

「まあねー。割安にしてあげてるんだからそれくらいはさ」

 ギブギブ、と悲鳴をあげると、まだまだだねぇと力を緩められる。

「むう…」
「それで?今日はどうしたの」

「あーそうそう。靴に刻印術式を入れて欲しくてきました」

 明澄は両の手の平を八雲に見せるように差し出し、そこに自宅の玄関から転送した箱が現れる。

「ふむ。ローファーね」

 驚くこともなく箱を開けた八雲は中身を確認すると蓋を閉じ、箱を受け取る。

「やってあげるよ。そのブーツはやらなくていいのかい?」
「あー…でも履く靴なくなっちゃいますし」
「いいよそのままでも。明日の朝には出来てるからさ」

 明澄はジロリと変態師匠の顔を見る。とりあえずキモい。しかし刻印術式は欲しい。暫く悩んで、ひらめく。

 おもむろにスマホを取り出して電話をかける。そして出た相手は――

「もしもし、深雪?」
『あら明澄じゃない。どうしたの?』

 一高の首席入学者にして夜の女王の姪、司波深雪。明澄は端的に事情を説明し、

「だから私のブーツを新品同様キレイにして欲しいのよ」
『なるほどね。明澄の魔法ではちょっと難しいところだから私に電話をかけてきたと』

深雪は納得した。ちょっと待ってね、という言葉の後、お兄様と呼ぶ声が聞こえる。もしかしてイチャイチャタイム邪魔したかなぁと不安になっていると、達也くんの声で明澄、とスマホから流れ出す。

『明日の早朝、そこに来れるか』
「うん」
『今日は預けられる方を預けて帰り、明日その靴を履いて過ごしてくれ。今履いてる方は明日の朝預ける、ということでどうだ』
「分かった。ありがとう達也くん。深雪にも」
『ああ。それではまた明日』
「うん」

 電話が切れるのを待ち、ぷつりと切れた音を確認してからスマホをしまう。そして、ジト目で師匠を睨みつけながら返事を出す。

「今日はそれだけを預けます。続きはまた明日」
「うーん残念。じゃあこれは預かるね。お代はブーツとまとめて請求するから」
「はい。刻印術式のデータはこれでお願いします」

 師匠に、いや取引相手にデータの入ったSDカードを渡して軽く頭をさげる。師匠は相変わらずニコニコしながら、まあ明日を待っててよ、と言ったので間違いなく明日の朝には完成している。明澄は では失礼します、と寺の境内から自宅の玄関へ歩くことなく直行した。

「いやー、変態に磨きがかかってたなぁ」

 煩悩とは無縁じゃないのかよ。玄関先でため息をつきながら、ブーツを脱いでソファーにダイブ。そして結った髪を解きながら、明日の朝楽しみだなぁ、と一人呟く明澄であった。

たまには師匠に顔を見せましょう


戻る