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 黒いセミロングヘアに赤い瞳、そしてすらりと伸びた女性にしては高い背丈。そんな容姿を持つ流浪の民ーーロタの女が私、アッシュである。得意なことは狩猟と商売。パルス国内にいるときの楽しみは、果物を使った保存食の生産。

「アッシュ!今日も頼めるかい?」
「はーい」

 おばちゃんに頼まれ、野営地で今日も今日とて果物の皮をむき、天日干しにかける。今日は林檎か…。ふざけてお花の形とか作りたいけどそれをやると無駄が多くて怒られるんだよなぁーーその怒る人が今日も私と一日保存食を作る相手なのだが。

「シェゾー。ウサギさん作っていい?」
「あ?無駄だ、やめろ」
「シェゾの魔法で立体化してくれたら満足するからー」
「何で要求がグレードアップしてんだ、昨日はまだ普通に作れるモンだったのに」
「だって作らせてくれないしー」
「口動かす暇あったら手を動かせ、手を」

 この優しくない黒髪赤目のシェゾという男。流浪の民ロタの次期長とも期待される有望株の彼は、ロタの中でも希少な魔法を使える人だ。ちなみに私は魔法なんて使えない。なので、知識や技術でロタに貢献するのが私の役目。もうすぐ着くパルス王都、エクバターナでこれらの干し果物を売りさばき、ロタが隣国まで流れゆく資金を獲得するのが当分の仕事だ。

「早くエクバターナ着かないかなー。売りさばきたい」
「…お前は商売しか取り柄無いもんな」
「何を言うか。狩りに料理に洗濯、掃除、裁縫、全部できるし」
「それは基本だ」
「うるせえやい」

 無駄口をたたきつつも作業を進め、陽がてっぺんに上るまでに作業を終えたら、今度は出来上がっている干物を袋に詰めていく。そんな地味だが大切な仕事を黙々と続けて数日後。

「エクバターナ!!金の匂いがすごいする!!」
「落ち着けアッシュ、客が逃げる」

 シェゾをはじめとした数少ないロタの魔法使いによって赤い瞳を青や緑に替えてもらったアッシュとシェゾ、その他数名で商売道具をもって城壁をくぐる。野営地に残ったその他のメンバーのために、何としても売りさばく。目指すは完売、金の山。
 ぱっぱと設営を終え、私を筆頭に声を張って、いざ。

「はーいはいはい!寄ってけ見てけ!あらゆる果物の甘みを凝縮した干し果物だよ!」

 満面の笑みと試食品をサービスしながら、行く客来る客にひたすら商品を勧めていく。値引き交渉にも応じ、いかに利益を引き出すかを考えながらとにかく商品を良い思いと共に買ってもらう。そうすれば次来た時もお客さんはおのずと来てくれる。現に、最初の方に来てくれるお客さんはほとんどリピーター様。彼らの口伝いに商品の評判が広まれば、また商品は飛ぶように売れる。うれしい。

 そうして迎えた最終日、私はとあるお客さんに出会った。銀髪に夜空色の瞳、そして私と同じくらいの背丈、年齢の男性客。出店すると毎回買いに来てくれる常連さん。

「こんにちは。一袋もらえないだろうか」
「いらっしゃい!いつもありがとうございます!」
 
 私は袋を手渡し、引き換えに代金を受け取る。ちょうどあることを確認して、毎度あり!と交渉成立の言葉を述べる。いつもはそれで終わりなのだが、今日は立ち去る気配がない。

「どうしました?」
「なあ、お主はずっとそうやって商売をしているのだよな?」
「はい。これがお仕事ですし、これがないと生きていけませんからね」

「…そうだよな。そうか」

 彼は妙に納得した表情をして、ふわりとほほ笑んだ。

「ありがとう。また来年を楽しみにしているよ」
「はい。また会いましょう!そして、その時にはどうぞ御贔屓に」
「もちろん!」

 来年もまた会えるといいな。遠くなる背中を少しだけ追いかけるように眺めて、私はまた笑顔で別のお客さんに意識をそらした。


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 もしもシリーズ第二弾。なんかもう何でもできそうだけど、多分先天的素質で、かつ本当に貴重なことは彼女にはできない気がする。

もしも彼女が、流浪の民の一行に生まれていたら


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