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 早朝。いつものように目をさます。目の前に見える男の肩を揺らして声をかけた。

「おはよう、俊典。起きて朝」
「ん…あ、おはよう。起きたよ。気持ちのいい朝だ」

 彼が伸びをしたのを見て、私もガサゴソと布団から起き上がる。

 朝ごはんを作らないと。今日はきっとたくさん動くから、栄養価がいつも以上に高めのものを作ってあげよう。

 長い髪を梳いて後ろで束ね、キッチンへ向かうとエプロンをつける。下ごしらえして冷凍しておいたしじみを、昆布と魚節で旨みを一晩染み出させただし汁に入れて火にかける。また、土鍋で十二分に吸水させた押し麦で麦ごはんを作ろうと、これもまた火にかけた。
 その間に野菜と果物を一緒にミキサーにかけてスムージーにしたり、作り置きのコンポートを取り出しておいたりする。洋食と和食が混じっているが、まあ気にしない。気にしたら負けだ。

 ふと、脳内を1つの光景がよぎる。その光景は、今日以外のここ最近、1年2ヶ月の間、毎日夢で見たもの。これは私の個性ーー予知夢が見せた未来のワンシーンであり、その夢を見なかった日、すなわち今日は、その予知夢が実現する日で。

 目が熱くなる。それを私はまばたきで誤魔化して、いつの間にか下がっていた顔を上げた。

 煮立ったしじみ汁に自家製の味噌を溶かし、結構満足な味付けができたことににやけながら、次はご飯を確認する。だいぶいいバランスで柔らかくなった。いい感じ。
 しじみ汁と麦ごはんをそれぞれ盛ってテーブルに置いた。梅干しはお好みで。
 続けてお弁当ーー今日は麦ごはんを使ったおにぎりを作る。食べる時間があればいいけど。焼き明太子と野沢菜の二種類。汗をかくだろうからと、塩気を少し強めにした。持たせる飲み物はおにぎりに合う渋めの紅茶にしよう。私の好みだ。

「いい匂いだ!朝から麦飯とは気合い入ってるな!」

 お弁当を作り終えてすぐに、スーツ姿の俊典がリビングへと入ってくる。今日もいつも通りだ。そこにどこか安心しながら、私はテーブルに置く物の準備をする。彼は私がすでに沸かしたお湯で緑茶を入れ、残ったお湯で紅茶を淹れた。緑茶は彼の分、紅茶は私の分。

「だって今日は忙しい日でしょう?雄英はこの前の件で会見だし、俊典は敵の本拠地に殴り込みだし」
「んん、まあそうだが」
「相澤くん、タチの悪いメディアの挑発に乗らないといいけど…」
「心配するのそこ?!」
「さ、食べましょう」

 私が髪を下ろし、エプロンも定位置にかけてちゃっかり席に着けば、彼もコーヒーのマグカップと紅茶の入ったカップを持ってこちらにきて座る。

「いや待て待て、待てよ」

 そんなことを言いつつ、紅茶に付け合わせのジャムを置いてくれたあたり、私が次に言う言葉はわかっているのだろう。

「いただきます」
「ぐぬっ…いただきます」

私のペースに振り回される俊典。私は思わず笑ってしまった。


 朝日によって明るい室内で、黙々と食事をする。響くのは時折鳴る食器と箸がぶつかる音だけで、基本的にテレビや音楽などの雑音はしない。その静けさを破るのは高確率で俊典の声だが、今日は私。

「俊典」
「何だい?」
「今日の問題がひと段落ついたら、久々に星を見に行きたいわ」

 目線を食器から彼の顔にあげれば、驚いたような顔をしてこちらを見ている。あ、麦ごはんが落ちるーー茶碗に落ちてよかった。

「…そういえばしばらく見に行ってなかったね。最後に行ったのは5年前だったか。ーーよし、休みが取れたら星を見に行こう。軽井沢がいいかな」

 そう言って笑う彼の笑顔は眩しい。いつも通りの眩しさに、私は頬を緩ませる。

「いいわね。避暑にもなるし、空気がきれいだから心地よく過ごせそう」

 そうしてしばらく喋りながらご飯を食べると、彼が出る直前の身支度をしている間にお弁当を鞄へ詰めた。中に入っていたヒーローコスチュームを見て、また目が熱くなるのをこらえる。そして鞄を取りに来た彼に、何事もなかったかのように手渡して、玄関まで送る。

「じゃあ、行ってくるよ」

 にこりと笑って手を振る。

「行ってらっしゃい。ーー気ぃつけてな」

 扉が開く。真夏の蒸し暑い空気が彼と入れ替わるように一瞬だけ入り込み、扉が閉じた。
 足音が遠ざかるのを確認して、知らずのうちに詰めていた息を吐いた。

ーー涙を流さず、笑って送り出せた。

 その安堵感で、私は思わず顔を手で覆った。

残り火の消える日――朝


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