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「〜〜♪」

 昼下がり、家の側にある草原に寝っ転がり、最近覚えた曲を歌う。誰もいないので恥ずかしがる必要もなく、ふんふふんと余計な音も交える。今作はベースがカッコよかった。

「B+Pの最新盤だ。今回の曲はベースがかっこいいよね」

 突然他人の声が聞こえた。――――え、他人の声?

「………」

 おそるおそる、首を横に向ける。見知らぬ男の子だ、記憶にはあるけど現実には知らない、だから見知らぬ男の子がそこにいた。遠くに高級車が見える。スーツの人がいるが、あれはどう見てもマフィア関係者だろう。

 いや、そんな話はどうでもよくて。

「僕は入江正一。君は、宮間柚乃と名乗っていた女の子だよね」

 記憶よりも高い声だが、見覚えのある笑顔。

「初めまして。――――また会えて嬉しいよ」

 わ、私宛の、客…客?!

「ひ、」
「?」
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 私は逃げ出した。




「お、お母様ぁ!!!」

 人生で一番叫んでいる、それ以外の真っ当な感想を考える余裕もなしに家へ駆け込んだ。コーヒーか何かが入ったマグカップを持って一服しているお母様がこちらを見る。

「どうして?!来客!しかも私の名乗る予定だった名前を知ってる!」
「落ち着きなさい、良い子だから」
「それはどっちが!」
「それはどっちも。はい深呼吸」

 お母様は会話をイタリア語から日本語に切り替える。後ろを向けば見知らぬ男の子。やだ、どんなホラー?!いや、知ってるんだけど!不確かな記憶だし、現実に会ったことが無いし!

「初めまして、入江君。ボンゴレの九代目から聞いているわ」
「あ、えっと…宮間さんのお母さん?」
「アリアです。よろしくね」
「入江正一です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 その見知らぬ男の子とお母様がにこやかに会話を始めてしまった。私だけが置いて行かれている。どうして…?

「あら、私は知っていたわよ?」
「どうして教えてくれなかったのですか」
「教えたら逃げるでしょう」
「………」

 お母様の何でもお見通しというところには私は最後まで敵わないらしい。図星をつかれて抵抗できなくなった私は、おとなしくお母様の隣に座った。

 どうして、どうして彼がここにいるの?

 何故、私の名前を知っているの?覚えている?思い出した?どうやって、どうして?

 思考が巡って止まらない。完全に堂々巡りを始めてしまった私に彼が声をかける。

「…ユノ」

 ああなんてこと。本名も知っているのか。

「ごめん、突然来ちゃって…混乱するよね。明日、帰る前にもう一度来てもいいかな」
「なっ何でよ?!」
「僕は君と話したいことがあるから」
「私にはな、むぐっ」
「ええ、いらっしゃい。待っているわね」

 私の口をふさいでお母様が返事をした。彼は頭を下げ、家から出て行った。お母様がいい笑顔で見送って、彼の乗ったであろう車が離れていく音を聞いて初めて、私の口を解放する。

「ユノ、いい子じゃない」
「でも!」
「私、ああいう子だったら、あなたをお嫁に行かせたっていいわよ?」
「……お母様」
「ごめんね。でもやっぱり、私はあなたがひとりぼっちになるのが心配だわ」

 逃げ出そうとした私を引っ掴む。そのまま抱き寄せられて、私は何も抵抗できなくなってしまう。

「それにね、あなた、本当はもう目覚めることはなかったはずなのよ」

 お母様の声が震える。

「未来の記憶を貰って、真っ先にあなたたちの部屋を確認しに行ったわ。ユニは、すべてを残して魂だけがぱったりといなくなってしまった。ユノ、あなたはね、あなたがいたという形跡すら消えかけていたわ」

 身体が消えかけていたわ。そう言ってから、お母様は呼吸を整える。

「私がどんなにあなたの名前を呼んでも、手を握っても、どんどん透けていくばかりで。日に日に消えていくあなたを、私は助けてあげられなかった。
 でも、ある日突然、あなたの身体がはっきりと実体化したの。なぜかしら…そう思っていたけれど、おそらく、彼があなたを思い出したのよ」

 私を抱きとめていた腕が離れる。お母様の瞳が、私を真っすぐとらえる。

「誰からも必要とされず、ただマーレリングの封印をして忘れ去られて消えていくあなたを、彼は思い出して会いに来てくれた。彼のお陰でボンゴレがあなたを認知した。ユノ、あなたを思い出してくれた人が、たくさんいるの。でもすべては、彼の、入江君のお陰。私はそこまでしてあなたを好いてくれる彼には、感謝してもし足りない」

 私は何も言わない。何も言えない。

「せめて、ちゃんと会話をするくらいはしなさい」

 ただ、頷くことしかできなかった。




 翌日、彼は約束通りやってきた。飛行機の時間があるので、ほんの少ししかいられないと言いつつ、彼は嬉しそうに笑っていた。

「……宮間さん、」
「そんな名前、私は持っていないわ」
「じゃあ、何と呼べばいいかな?」
「…ユノ。そのままでいい」

 何を言えばいいか分からない私に、彼は文通がしたいと言ってきた。仕方がないので住所のやり取りをする。

「どうして」
「?」
「………何でもない…」

 それからは、お互い何を話していいのかも分からず、静かな時間が過ぎていく。

「また会おうね、ユノ」

 そう言って、彼は帰っていった。





いま会いたいから会いに来た