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 僕がリボーンさんに相談してから幾日経ったある日の放課後。

「入江正一くんだね?イタリアへご案内します」
「え、――――え?????」

 状況もよくわからぬまま、僕は飛行機(しかもボンゴレ手配の目的地最寄り空港直行便)に乗った。荷物も何も準備していなかったが、そこはうまくやったらしく、僕をご案内してくれた黒スーツの男性から、母によって荷造りされたボストンバッグが渡された。母には僕が塾の合宿に行っていることになっているらしい。

 飛行機に詰め込まれる前のテレビ電話を思い出す。

「リ、リボーンさん!どういうことなんですか?!」
『宮間柚乃として日本の学校に転入予定だった生徒のデータを見つけた。オメーの言っていた、いるかいないかも分からない彼女は実在したんだ』

 息を飲む。…本当に実在した。他人が認めた。

『だがオレの力ではそのデータの持ち主が分からなくてな』
『じゃから、わしが手助けしたんじゃよ』

 ひょこっと現れたのはご老人。柔らかな笑顔は大空を彷彿とさせる。

「…すみません、どなたでしょうか?」
『ボンゴレ九代目だぞ』
「………?」
『ツナ君が世話になっているね。未来では、随分と助けられたようだ』
「え」

 本日二番目の衝撃が身体を走る。今日の僕は強い影響を他人から受けすぎではなかろうか。

『君の言っていた宮間柚乃、本名をユノという女の子の話を聞いて、ちょっと思うことがあったんじゃよ』
『その話を聞いていたから、助けてもらったんだがな』

 ほほ、と笑って、ボンゴレ九代目は話を続ける。 

『未来の記憶を貰ったあの夢には、ユニの優しい炎を感じた…だからこそ夢の内容を信じているわけじゃが、あの炎にはどうも少し違うものも混ざっている感覚があってね。寂しさ…を含んだ炎、と言えばいいじゃろうか。だから二人分と聞いて納得した。別物の大空がいたなら炎もああなるじゃろうての』

 …僕だけじゃない。他にも気づいてくれている人がいたのか。

『はっきりと思い出した入江のお陰だぞ』
『そうとも。――――君の大切な友人、会えるといいな』

 二人の笑顔を最後に、テレビ電話は切れた。


 移動は正直暇だ。目的地への移動時間は飛行機、車を合わせて休憩抜きで約二十時間だと言われた。つまり休憩を挟めばもっとかかる。中学生には信じられない、とんでもない移動だ。宿題をして、食事をして、予習をして、七時間の時差を考慮して仮眠をとる。

 飛行機を降りてから本格的に眠ったのだが、移動の車でも眠ってしまった。

 その眠り、夢の中で、記憶を見る。



 大学二年生の長期休暇も終わり、学業の合間に一人郵便局で小包の国際郵便を依頼していた。可愛らしい小包――――だったのだが、更に梱包した方がいいと言われたので、仕上がった郵便物はかなり厳重に梱包されてごつく仕上がっている。

『恋人にかい?』
『いえ』
『ま、大切に搬送してやるよ』

 宛名が別姓の女性であることが分かったらしい受付担当に冷やかしを受けつつ、提示された料金を支払う。

『幸運を祈るよ!』
『祈られてもなあ…』

 郵便局を出る。不安半分、恥ずかしさのようなもの半分で構成された気持ちを抱えながら、午後の講義に向かった。

 柄にもないことをしたきっかけは長期休暇中の一幕。

『…まさか彼氏?』
『独り身だよ』

 先日、宮間さんにこんな質問をしてしまった。即答で答えが返ってきたので『彼氏いないのか…』と驚き、そしてその内容に安堵した自分がいたことにも驚いた。驚いて、しばらく云々と考えたのだが自分の思考に明確な言葉をつけることはできず――――そうは言いつつ、どう見ても彼女のセンスではない腕時計が彼女の腕についていることに不満がある。

 友情なのか恋情なのか、僕は彼女とどうありたいのかいまいち決めきれない。ただ、傍にいたい。今は住む国が違っているが、メールなどのやり取りは比較的コンスタントに続いている…と思う。先日の日本滞在時にも会った。来年、彼女はこちらに遊びに来るらしく、その間に会う約束もした。当然のように二人。

『そこに他人はいないという感覚なんだよなあ』

 ぽつりとつぶやいて、見えぬ答えに頭を振った。

 とにかく送ってしまったのだ。ペン先細め、クラシカルデザインの万年筆とラベンダーの香りがする青インクのボトル。デザインも香りも、きっと似合うと思う。太陽のように幸せそうな顔をするくせに、どこか冷めた部分がある彼女には、青がしっくりくる…多分。まともに贈り物をしたことの無い経験値の低さが仇にならないといいが。

 大学構内に入り、教室のある棟の階段を上る。廊下を歩いているその時、白蘭サンの姿が見える。

「あ、正チャン。次一緒だね」
「――――そうだね」

 "入江くん"から"正チャン"に切り替える。そこに余計なことを考える余裕はなく、彼女のことは記憶の奥へと押し込められる。

 僕は今日も、考えることをやめる。それよりも、自分の罪で失われた未来を取り戻す方がよほど重要だった。



 涙を流して、目を覚ます。

 零れた涙を拭う。……これは僕の涙ではない。一度目の僕の涙だ。彼は終わってしまった。だが僕はこれから始まるのだ。

 気合い入れろ、僕。

 見慣れぬ車窓から見える景色は、のどかな田舎町と緑豊かな森だった。




終わりません始まるまでは