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『不思議なことはないわ。マーレリングの封印と共に、白蘭の悪事がすべて消える。つまり、彼の成したことで生まれた、本来ならいるはずのないアルコバレーノだって消えるの』

 言葉を失う僕に、彼女は説明した。

『私はね、八兆分の一の確率で現れる定め。マーレリングの封印に成功して、過去に塗り替えられて消える未来がある世界にしか、私はいない』

 彼女の運命の話。彼女が受け入れて、最期まであきらめなかった定め。

『大切な思い出、宝物、あなたがいなければ得ることのなかったものがたくさんある』

 それは、僕だって同じだ。イタリア語の習得も、趣味を共有することも、何かを贈ることも、貰ったものを大切にすることも、彼女がいたから得たものだ。

『大好き。――――この世の誰よりも』

 待ってくれ。僕にだって言いたいことがある。

『Non dimenticarti di me』

 僕の伸ばした手は、彼女に届かなかった。



 休日の昼間。それはやってきた。

「正ちゃん、手紙。エアメールってあるんだけど」
「!」

 母さんが持ってきた手紙を急いで開ける。差出人はスパナ。未来の記憶を貰った時から文通を始めたが、今回は返事が来る前にもう一通、宮間さんのことを聞きたくて出していた。イタリア語と日本語が混じった手紙を、辞書等を片手に急いで読み進めていく。そして、返答を見つける。

『宮間という女の人の記憶はない。ユニに姉がいたかなんてのも知らないし――――その場にいないから聞いた話だが――――大空のアルコバレーノは三代で途絶えたという記憶を貰った』

「やっぱりか………」

 大方そのような気はした。川平のおじさんは僕が彼女を思い出したことについて喜ぶような反応を見せた。そして、貰えるはずのない僕の記憶、僕しか知ることのない記憶をくれた。何故川平のおじさんがその記憶を保持し、渡してくれるのかははもうこの際どうでもいい。
 今はとにかく、何とかして宮間柚乃という女の子に会いに行かなければならない。

 だが、僕以外誰も彼女を覚えていないのでは、探す手がかりすらないのが現状で。

「あー…人探しって言ったってなあ…」

 未来で消えたアルコバレーノを探してくれと言ったところでそもそも意味が分からないと返されるのがオチである。大空のアルコバレーノ…は確か、三代続けてジッリョネロファミリーの長をしていたようだが、僕からジッリョネロファミリーに連絡を取ろうにも連絡先を知らない。

 部屋を一人うろうろと徘徊する。思考が煮詰まり、ふと見上げた視線の先に、ボヴィーノファミリーの木箱が見えた。ボヴィーノ…ランボさん…ツナ君の家。

「…あ!」

 ツナ君の家にはリボーンさんがいる。彼は晴のアルコバレーノではなかったか。
 記憶をたどれば、彼は三代目となった大空のアルコバレーノのユニとは古くから親交はあったようだし、つまり二代目であるユニの母親についても知っていると予測できる。

 途中まで進めた宿題を放り出し、身支度を整えた後に土曜日の昼間であることだけを認識して外へ飛び出した。走って走って、もうすぐという時にすっ転ぶ。

「………」

 ジンジンとぶつけたところから伝わる痛みで、冷静になる。

 事前のアポなしに僕はリボーンさんに会えるのか?
 リボーンさんが彼女について覚えていなかったら?
 くだらないことを言うなと撥ねられ…はしないだろうが、何も得られなかったら?

 先ほどまでの自信が萎んでいく。思えばここしばらく、僕は彼女のことで躍起になっていたように思うし、いつになく自信があるかのような振舞いをしていた気がする。本来なら、ここまで足を突っ込んだだろうか。いや、でも、自分のしたことで一人の人間の存在が…という話は重過ぎる。それとも、そう思うことがもはやおこがましい?

 思考がグルグルと落ち込んでいく。ああ、僕は、まったく、

「通行の邪魔だぞ」
「へぶっ」

 背中を思いっきり踏まれる。――――待て、この声は。

「…リ、リボーンさん」
「お、入江じゃねーか」
「お時間、よろしいですか!」
「良いが、とりあえず立ったらどうだ」

 彼に言われて現状を理解する。羞恥で死にたくなった。




 場所は変わって沢田家。申し訳ないことに本人不在だが、ツナ君の部屋でリボーンさんに事のあらましを全て話す。僕の記憶も含めた長い話を、質問をはさみつつ聞いてくれた。そして、連絡を取りたいと考えていることまでを話しきったとき、リボーンさんは腕を組んだ。

「俺は奥義発動に向かったわけじゃねーから、正直そんなアルコバレーノがいたっつー感覚も記憶もねえ」
「う……」
「だが、気になることもある。少し待ってくれねーか」
「分かりました」

 ひとまずリボーンさんの協力を得た。ふう、と詰めていた息を吐く。入江、と呼ばれる。

「もしイタリアに彼女がいたらどうする」
「会いに行きたいです」
「向こうには嫌がられるかもしれない」
「…僕の我が儘です。僕は彼女に会いたい」
「そうか」

 僕の言葉に、リボーンさんは了承の返事だけを返した。それがリボーンさんの現時点における限界であり、もうどんなに焦ろうとも、僕の打てる策が尽きたことを示していた。




こんばんはの願い