×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



 たくさんの人が殺されていく。黒い制服、白い制服、どちらの制服も人を殺していく。殺されている理由は、おそらく、裏も表も関係なく、ただ、頂点に立つ人間の目的とそれを実行する歩兵の快楽のために。

 酷い世界だ。抵抗の術を持つ人も、抵抗の術を持たない人も、片っ端からだ。"見て"いるだけなのに血の匂いが充満するかのような錯覚を得る。気持ちが悪いが、それでも、目をそらすことは許されない。

 場面が変わる。アルコバレーノ達が誰かと戦っている。その誰かは天使のように真っ白な出で立ちをしながら、悪魔のように彼らをなぶり殺しにする。妹は、妹はどこ。あの子だってアルコバレーノだ。このままでは、妹も。

『ユニは?!――――っ、ぐ』

 急に身体が言うことを聞かなくなり、地面に倒れる。呼吸が上手くできない。指先一つを動かすのに途轍もない労力がかかる。どうして、急に、こんな。
 視界がかすむ。身体が熱に焼かれる感覚があるのに、寒くて寒くてしょうがない。

『全く君は。いや、君の意思ではないとしても、少々不運が強すぎやしないかね』

 誰の声だ。その誰かから何かを左手に握らされる。すると身体の不調が嘘のように消えた。右手を引き上げられながら立ち上がり、救ってくれた人間の服を見て、見覚えのある和服であることを認識して、

『あなたは――――ふげっ』
『はーい見ないの。私はまだミステリアスな存在だからね』

跳ね上げた顔を強制的にタオルで埋められる。何も見えない。臭いもしない、ただ柔らかくくすぐったい感触だけがそこにある。

『それはずっと持ってなさい。君がこれからを生き抜くのに欠かせなくなりそうだからね。そうだな、腕時計の形にしてあげよう。腕に着けてなさい』

 手に握らされていた石か何かが左手首に移動し、変化する。不思議と軽いそれを着けることに不満はなかった。

『ありがとうございます』
『死を背負った君への手向けだ。気にすることはない』

 ほらもうおやすみ。

「…………」 

 見慣れない天井、ホテルの天井だ。私は少し重たくなった左手首を持ち上げる。

「……思ったよりおしゃれだけど」

 見知らぬ男からの贈り物ってところだけが不満だ。まあ、これが無くては大変なことになるらしいから、仕方がない。

 再度寝るには時間が足りないし、何故だか汗ぐっしょりになっているから、朝風呂しよう。
 久方ぶりのベッドから降り、同室のクラスメイトを起こさないように荷物を漁り、シャワールームへ閉じこもった。


 目覚めは最悪だ。しかし、それでも楽しいことはやってくる。

「わあ…!」

 高校二年生のビッグイベント、修学旅行。そのおかげで現在私は人生初の日本旅行をしている。行き先は京都・広島と日本人にとっては「お馴染みテンプレ人によっては人生3回目のコース設定」らしいが、私にとっては人生初回のコース設定。しかもしかも、ずっと行ってみたいと思っていた広島の宮島がコースに入っている。

「入江君!すごいわ!本当にお顔のような形をしているのね!」
「あんまり乗り出したら海に落ちるって…!」

 フェリーから眺める宮島の弥山は美しく、ひたすらに携帯のカメラで写真を撮る。海の上に鳥居が見える。それもパシャリ。たった10分の船旅で3回入江君に首根っこを掴まれ、1回買ったばかりの穴子弁当を落としかけたがこれもまた入江君が引っ掴んでくれた。ありがたい。

 イタリアにはない鳥居、しかも水上に浮かぶ鳥居だ。平清盛によって建立された厳島神社は日本では珍しく能楽殿や神楽殿が水の上にある。能や舞を見ることが叶わないのは残念だが、水上に浮かぶ社殿の朱色と白のコントラストが目に入った時点でもう跳ね上がるテンションは止まらない。

「È bello! La migliore vista! Sono felice!」
「称賛も歓喜も全部分かったからとりあえず自由行動開始まではじっとしていてくれ!」
【もう!どうして入江君はそんなに落ち着いているのよ!】
【人生二回目だからだよ…家族旅行でも来たことがあるから、見覚えがある】

 ああ…ごめんね入江君。君も重複の民だったとは知らなかったんだよ。




 それから十数分後、引率の教師から班単位での自由行動開始を告げられる。私は一刻も早く厳島神社を眺めに行きたかったが、

「落ち着け」「昼食」「神社は逃げない」

最近世代交代をした新生合唱部の女部長、演劇部の伊達役者、入江君に冷静に止められてとりあえず穴子弁当を食べた。これもまた美味なり。屋外のベンチで食べていたのだが、油断すると鹿に襲われる。時々逃げたり、叫んだり、弁当を奪われたりしながらも昼食タイムを終え、時は満ちた。

「厳島神社…!」
「はいはい、おまたせ」

 四人で出店を眺めたり、引き潮の砂地に現れた鳥居まで近づいてみたり、ほどよく時間をかけて神社へ到着。参拝料を納めて社殿へとお邪魔する。

「うわ…床が浮いてるし、隙間から地面の砂が見えるわ」
「浮かせないと海に沈むし、隙間がないと波が高い時に建物が全損するからね。床板は外れるのよ」
「そうなのね…不思議なつくり」
「流石は部長、物知りだね」
「もっと褒めてくれたっていいのよ、理科部」

 合唱部部長の遺構知識解説を聞きながら、馴染みのなさすぎる建築様式を眺める。イタリアでは遺構は石造りが多いが、日本は木製が多い。しかも太くてどっしりとした柱が多いから、この神社は相当な財と権力をつぎ込まれて作られた権威の象徴なのだとなんとなく思った。しかし、とても美しい象徴だ。

 ひたすら写真を撮りながら眺めるだけ眺めまくり、満足したところで次は弥山を登る。ロープウェーからの景色は瀬戸内海とそれに浮かぶ島々で、緑と青がとても綺麗に映えていた。

「日本は本当に島国なのね…大きい島から小さい島までたくさんあって、どこの国とも国境が陸続きでないなんて、初めてよ」
「イタリアは陸続きだから、鉄道で国境越えられちゃうのか」
「気軽でしょう?通勤している人だっているわ」

 パシャリ、と携帯カメラを構えてスイッチ。ああ、もっと大きく、美しく写せたらいいのに。しかしこれが現代技術の限界だと言うのだからしょうがない。

【宮間さん、もしかしてあまり旅行の経験はない?】
【どうして?】
【僕たちに比べてはしゃぐし、やたら同じ写真を撮ってるから。こういう経験が少ないから、写真を撮ることも楽しいのかなって】 
【写真が下手と言ってくれてよかったのよ?】
【そこは、人のセンスだから】
【中途半端にお優しいのね】

 潮風が来日時より伸びた髪を揺らす。
 そう、私は旅行自体あまり経験がない。母は仕事が仕事であったから家族旅行は難しかったし、マフィアと引き離されて育った私は親の仕事についていくなんてことも無かった。

【お母さんにも見せてあげたかったなあ…】
【写真、送ってあげなよ】
【……うん、そうする】

 もう何年も会っていない母親を思い出して、少し涙がにじんだ。入江君が気づかないことをいいことに涙を拭い、また携帯のカメラを構える。

【いつか、入江君にもイタリアの風景を見てほしいわ】
【――――っ、…そうだね。一緒に見れるといい】
 
 そのいつかはきっと来ないだろうけれど、でも。

「そうだといいな」

 そう願うことくらいは、運命だって許してくれると思う。



明日のこと、世界のこと