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 目を開ける。白い天井、白い壁。
 カレンダーを見る。良く知る日付――――それこそ、何年も前から。

「……今日、か」

 今日、私の運命が終わる。残された時間はもうない。

 涙は出なかった。もう散々泣いた。それ以上に、充分楽しんできた。

「さあ、頑張ろう」

 誰かの未来を、救えるように。





「よーしみんな揃ったね!」

 入江君が指揮を執る。ボンゴレ匣を置いて行ってもらうやら、最後の別れやら、どこまでもやることは多い。
 私はというと、アルコバレーノになってから初めての大仕事である『奥義』のために、大先輩たちと一緒に過去のマーレリングの封印に向かう。

「ユノ、緊張しているのか?」

 スカルさんが声をかけてくれる。

「ええ、まあ…何せ、今までは一般人だったものですから」
「大丈夫だ、すぐ慣れるぞ!」
「だといいですね」

 おしゃぶりを握りしめる。ユニの炎が温かい。

【重たいわね、とても】

 妹は、これをずっと抱えて生きてきた。母はもっと長い年月を生きていた。…私は、本当に。

【幸せだったわ】

 入江君がお別れタイムを打ち切る。そして、ボタンを押す。
 帰りゆく彼らへ、私は告げる。

「ありがとう、若きボンゴレの皆さん。――――ユニのことを、よろしくね」




 奥義はつつがなく発動した。少しだけ地殻に影響を与えつつも、記憶を伝えるべき人へ伝え、ボンゴレたちにはご褒美として指輪型ボンゴレ匣を贈った。マーレリングは無事に封印され、私たちは未来へ帰る。

――――…あれ?

 私だけなぜか精神世界に立たされている。立たされると言っても地に足がつくことはなく、景色も暗くて何もない無の空間だ。

【よくやった、運命の子よ】

――――まって、行かないで、

【感謝する】


 景色が暗転、そして再度明転する。

「――――!?」

 地に足をつけて立っている。どうやら帰り着いたらしい。装置は開いて機能を止めていて、これはすでに未来、つまり本来のボンゴレたちが目覚め、解散した後のようだ。

「おかえり、宮間さん!一人だけ遅れてたから心配したんだよ」
「………ごめん、入江君」

 アルコバレーノ達ももういない。聞けば、地上の片付けに向かったらしい。そうか、なら、二人きりだ。何故だか入江君がそわそわしている。私も正直、何から言えばいいのかわからないので落ち着かない。
 ふと、この光景がどこかで見た覚えのあるものだということに気付く。それは、そう――――最初に"見た"。

「宮間さん。…片付けとか、全部終わったら、その、二人でどこか行かないかい?たくさん、話したいことがあるんだ」
「……うれしい。私も、話したいことがたくさんあるし。でも、その時間は無さそうだなあ…」

 手を持ち上げる。手先が光っては透けていく。光の砂となって散りゆく自分の身体に、自分の定めがついに終わることを悟る。

「宮間さん!?」
「不思議なことはないわ。マーレリングの封印と共に、白蘭の悪事がすべて消える。つまり、彼の成したことで生まれた、本来ならいるはずのないアルコバレーノだって消えるの」

 絶句する入江君に、私はようやく説明をする。

「私はね、8兆分の1の確率で現れる定め。マーレリングの封印に成功して、過去に塗り替えられて消える未来がある世界にしか、私はいない」

 自分の運命の話。逃れることのできない定め。

「ありがとう、入江君。あなたのお陰で、私はこの10年を本当に楽しく生きてくることが出来た」

 笑う。零れる涙をそのままに。

「あなたは凄いわ。私に趣味を語らせてくれたり、語ってくれたり、勉強を教えてくれたりしたもの。イタリア語講座はなかなかいい経験になったわ。アメリカで振り回したこともあったし、ミルフィオーレでも一緒にいたわね。…そう、前に貰った万年筆、大切にしているの。最近のラペルピンもとても嬉しかった。
 とにかく、いろいろたくさんのことを一緒にやったけれど、どれも良かったの。大切な思い出、宝物、あなたがいなければ得ることのなかったものがたくさんある」

 きっと、私が最初に"見た"夢でまっすぐ見つめてくれていたのは、入江君だったんだわ。
 それが分かって、私はとても嬉しい。

「大好き。――――この世の誰よりも」

 だから、お願い。

「Non dimenticarti di me」

 入江君が必死に伸ばしてくれた手を、私は掴まなかった。




おやすみなさいの祈り