『わすれないで、わたしのこと』
瞼を上げる。眦から何かが零れ落ちていく。視界に映るのは自室の天井――――それも、見慣れた天井ではなく、先日越してきたばかりの、木張りの天井。照明から伸びる紐に手を伸ばし、引っ張れば、薄暗い室内が明るくなる。
身体を起こす。先日から使い始めた日本式の布団、床として敷き詰められた畳、その上に転がるCDプレイヤーやヘッドホン、CDケースが見える。頬を伝うぬるい液体を拭い、詰まりかけの鼻をスン、と鳴らす。
嫌な夢だった。顔は良く認識できないけれど、まっすぐ私を見つめてくれている人がいるのに、そう願わずにはいられない。私は誰よりもあの場所でその人からの視線を浴びていたのに、そう言うのだ。
「Non dimenticarti di me...」
なんて寂しいのだろう。
それでも、私の定めだ。
私はそのために、生きていく。