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――私は死んでいるのですね。父のように、母のように、もう還らぬ人となったのですね。ドックタグは残っていますか?CADもどきや刻印だらけの私の武装も残っていますか?遺物が私の部屋の大量のゲーム類や楽器だけだったらそれほど最悪なことはないでしょうから、せめて何か残っていてほしいものです。

 しかしなんともまあ不思議な気分です。私は今こうして、学校の臨時休校という暇をもてあそびながら手紙を、しかも遺書を書いているわけですが、何で死んでもいないのに死んだときのことを書かなくてはいけないのでしょう。まあ、死んだら書けないからと言われてしまっては何も言えないのですけれど。
 思い返せば風間さんとは長い時間を一緒に過ごしましたね。小さいころ、まだ真田も柳さんも知り合いではなくて、寂しく時間をつぶしていた時に相手をしてくださったのはかなり若い時の風間さんでした。よく覚えています。私が鬼ごっこをしたいと言えば忍術で逃げ回ってくれましたし、私がお飯事をしたいといえばお父さん役を買って出てくれました――何故か父がお母さん役をノリノリでやっていたのは未だに疑問ですが、父はそういう趣味だったのでしょうか――し、私が寝そうになると嫌がることなく抱っこしてくれました。風間さんはとても温かくて、父や母が私の相手をできなくても、風間さんがいてくれれば寂しくないと子供の私は思っていました。外でなかなか寝付けない私が、風間さんの傍にいるときはすんなり眠れてしまうというのも、その証拠だったのでしょう。
 だから、両親が死んだとき、私は風間さんが引き取り手で本当に良かったと思っています。風間さんだって悲しいはずなのに、不安や悲しみで押しつぶされそうな私を面倒くさがることなく慰めたり甘やかしたりしてくれました。できるだけ十師族の面倒事にかかわらなくていいように動いてくれていたことも知っています。私が寂しくないように、真田や柳さん、不法侵入してきた響子さんやようやっと正式に軍属になった響子さんと引き合わせては遊ばせてくれたことも。風間さんは、いつも私のことを考えてくれているのが嬉しくて、私は風間さんのことが大好きでした。そうでなかったら、私は沖縄で軍属になることは無かったでしょうし、そもそもそんな覚悟も決めなかったと今でも思います。――ええ、私はあれだけ理由を並べても、結局は風間さんの傍にいたくてあれだけのことを成し遂げてしまったわけでして。だって、自分の知らぬところで風間さんが死んでしまうのだけは嫌だったものですから。
 風間さんは、私にとって第二の父親です。一緒にいる時間は実の親より長くなるはずですから、育ての親というのでしょう。気恥ずかしくてお父さんと呼べた試しは現時点ではありませんが。でも、本当に私にとっては大切なお父さんで、かけがえのない唯一の家族です。

 私は、あなたの娘になれたでしょうか。

 確かに戸籍上は違いますが、でも、こころのつながりとして、私はちゃんと、あなたの娘になれたでしょうか。もしかしたら、この程度で(どの程度かは知りません)死ぬなんて俺の娘じゃねぇとか思っていたらどうしよう…とかいろいろ思います。そんな人ではないと信じていますが。

 娘になれたと信じて、その前提で書きます。

 本当は、あなたの最後のその日まで私が娘として傍にいたかったです。人生の先輩として先に行くあなたをちゃんと看取って、娘として見送りたかったです。でもそれより先にちゃんとお父さんと呼びたかったし、お父さんと一緒にバージンロードも歩きたかったです。これはまあ結婚したいというより、これが私のお父さんだ!と主張したいだけです。
 でも、それができなくてごめんなさい。私はお父さんからいろいろなものをもらったのに、私は何一つ返せないままでした。
 私はあなたのおかげで、ここまで生きてこられたし、私の周りに年の離れた腐れ縁から同い年の特殊な友人まで多くの人に囲まれるいい人生を歩めました。
私はあなたのおかげで、幸せな子供でいられました。
本当に、ありがとうございました。

お父さんへ

娘より

大切なお父さんへ


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