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「#切ない」のBL小説を読む
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- ナノ -

☆水葵(みずあおい) / 呉本 春海
 花言葉:前途洋々
 髪 色:黒鳶
 虹彩色:葡萄茶

 ざくろたちより少し年上の半妖の女。礼儀正しく、教養もある。比較的喋らない。ただ、興味の範疇や知っていることについてはよく喋る。妖人のしきたりには弱いが、人間のしきたりをよく知っている。武装はスペンサー銃で、だいたい狙撃担当。近接戦は苦手。歌わずとも妖力を銃弾とすることができるあたり、妖力は高め(ただしざくろに劣る)。妖力弾は込めた妖力によって飛距離が変動する。通常の銃弾だと約180メートル(約600尺)。
 趣味は読書。知識をつけるのが好きらしい。

 ざくろ達と出会ったのは6年前。彼女の名は櫛松が命名し、未来に希望を、と願いを込めてつけられた名前となっている。

 呉本家は旧幕府派の武家。砲術研究の一族で、その実力には新政府からも目をつけられていたほど。
 そんな家庭において彼女は、家族が半妖であることを受け入れている幸せな生活を送っていた。
 神隠しから逃げ出した母は彼女を産んで亡くなる。狐憑きの母を父も姉も変わらず愛していたし、生まれた半妖の娘を可愛がった。父は彼女を守るために知識を、姉は銃の扱いを教えた。彼らの愛を理解していた春海は、彼らのために耳を隠して生活していた。しかし、戦争で新政府との繋がりの疑いをかけられて父も姉も殺される。姉の機転で耳を晒すことで別人に認識され、逃げ延びた春海の下に遺品として残ったのは父が身に着けさせた学びの楽しさと姉のスペンサー銃だけだった。刺客を殺し、逃亡しているところを櫛松に拾われる。
 彼女の課題は過去。故郷が政府に反旗を翻した時、彼女はどちらを選ぶのか、そもそも、戦いに参戦するのかどうか。



★広瀬 上総(ひろせ かずさ)
 髪色:烏羽
 瞳色:焦茶

 陸軍中尉。新政府における武門の名家、広瀬侯爵家のうら若き当主。というのも、もともと祖父母は亡くなっており、母は離縁、父は病死で彼しか広瀬家はいなくなってしまったため。
 妖人省へは自ら志望した。曰く、人間と妖人の文化の差を理解し、どちらにとっても最善の状況を探りたい。
 軍人としての実力は高く、剣術は妖人省の中でも飛び抜けていて、状況によっては半妖のざくろをも凌ぐ。また、偏差値もトップ。まさに文武両道。ただ、銃が扱えないのでこれから先の時代を見据え完全な後方勤務を目指している。知識に貪欲で本を自室に溜め込んでいるためか、よく水葵に本を貸す。
 射撃以外の戦闘能力は高いので二人組のときの戦闘は彼が担当。ただし、複数コンビで行動する際は双眼鏡を手に水葵の観測手兼護衛を務める。…彼は弓矢など狙いを定めてうつ攻撃が大の苦手である。
 彼の課題は孤独。自分の領域に彼女が踏み込むことを許すのか、また、彼女の手を掴むほど彼女に感情を揺らせるかどうか。


_________


 時は明治、場所は東京。
 官公庁街の一角にそこはある。

 妖人省――――人間と妖人、2つの種族の架け橋となるべく明治政府により設置された、それでいて現時点はあまり重要視されない機関である。実際、護衛も無駄な職員も一切いないが、他のどの省庁にも解決できない仕事を請け負い、居て困ることはないが重用はされない立ち位置に立っている。そんな妖人省の建物には人間4人、半妖5人、妖人8人が暮らし、日々職務を全うする。

 日の出すぐ、早朝。ある一室で薄明かりの中、カチャカチャと金属音が響く。
 狭くも広くもない和室の真ん中、すでに布団が仕舞われた室内に風呂敷と道具が広げられている。それらを手に黙々と作業を続ける人物は、黒鳶色の長い髪、狐の耳を持つ半妖の女性。

 金属パーツの掃除を終え、道具を片付けた彼女は、木材と金属が組み合わさって出来たそれを構える。

 彼女が手に持つのは、ライフル。レバーを引き、曲銃床を肩へ当て、頬付けをしっかりとして安定した姿勢を保つ。猫のように細い虹彩をした葡萄色の瞳が照準越しに障子の木枠を射抜き、彼女が引き金を引けばカチン、と空音を立てた。
 一連の流れを再度繰り返し、不備がないことを確認した彼女が目を閉じて一息つく。その間にどこからともなく現れた黒猫が銃へ触れると、音もなく花付きの桃の枝へと姿を変える。再び目を開けた彼女の虹彩は、人のもの。先ほどまでの鋭さは微塵もない。
 
「今日もよろしくね、菫」

 紫色の瞳を向け、ニャアと一鳴きした黒猫は、桃の枝を咥えて姿を消した。



 日がいくらか昇る頃、妖人省の制服に身を包み、長い髪を二つに分けて三つ編みおさげにした彼女が階段を下る。音もなく廊下を歩き、顔を出したのは炊事場。

「おはようございます」

 おはよう、とぞんざいながらも律儀に挨拶をしたのは三枡に三扇、三葉杏。いつ見てもそっくりな三人のうち、一番大変そうな三枡の側へ寄ると、手慣れたように炊事を手伝い始める。
 暫くそうすればいつもの様に差し出される小皿とホカホカのおかず。

「…ん」

 美味しい、と感想を告げれば、じゃあ盛って、と言われるので、幾枚か皿を取り出し、三枡に置いていかれた菜箸を握り、小分けに盛り付けていく。男性陣――――人間の4人は食事量が多いので多めに。今朝のご飯は雨竜寿様も食べるだろうか。櫛松が昨日の夜には戻られると言っていたから、支度だけしておこうか。
 そんなことを考えていると、廊下がにぎやかになる。

「今日も早いわねー」
「取皿運ぶのを手伝いますわ」
「私は出来た料理を運びますわ」
「私も手伝うね」

 振り向いた彼女の視線の先――――騒がしくも愉快な挨拶と共にぞろぞろと現れ、手伝いに動き始める4人の半妖たち。挨拶を返さねば、そう考えて開こうとした口は重たい。しばらくの沈黙。そして。

「おはようございます、みんな。………ありがとう」

 悩むだけ悩んで、それだけを言った。

 4人の半妖は、皆同じように笑顔になった。




 配膳やらなにやら、食事の支度を終える頃には妖人省に属する人間4人――――軍人達も席についている。

「おはよう」
「おはようございます」

 当たり前だが起きてから一回目の遭遇なので、皆が挨拶を交わしていく。その中で彼女は会釈をして進み、定位置となった端の位置へと座る。隣に座るのは彼女がペアを組む軍人、広瀬上総。

「おはよう。貸した本、どうだった?」
「とても、とても面白かったです。……えっと、おはようございます」


 彼女の名前は水葵。
 妖人省に属する半妖の娘である。


_________


「この…白い、液体は何…」
「牛乳だよ。知らないの?」

 ひぎゃあ。

 朝食の席が阿鼻叫喚の地獄絵図と化したのは明治の東京、妖人省。
 半妖のざくろ、薄蛍、雪洞、鬼灯が真っ青な顔をして眺める湯飲みの中身は正に文明開化の時代にもたらされた、それこそ海外ではよく飲まれるもの――――牛乳。

「牛のお乳なんてゲテものを飲むだなんて気持ち悪い!!」

 響き渡るざくろの悲鳴。軍推奨で飲むことが確定している故、湯飲みに口をつける軍人たち。それを無の表情で見つめる薄蛍。丸竜が披露した知識を誉めつつ引いている雪洞、鬼灯。そしてこれまで何の反応も示さなかった最後の半妖、水葵はというと。

「…………」

 静かに湯飲みを握りしめては眺め、眺めるだけ眺め、ただひたすらに眺め、

「無理をしてはいけない」

上総によって湯飲みを取り上げられそうになったところで口をつけた。

「え、」「あ…」「まあ」「あらあら」

 信じられないものを見たという表情で彼女を眺める半妖4人。その視線を浴びても表情を変えることなくただ牛乳を一口飲む。こくり、と無事咀嚼を果たす。

「み…水葵…?」

 表情に変化もなく、一言も発しない彼女は、ざくろに声をかけられてようやく。

「不味くは…ないけど、………」
「不味くは…ないけど?」
「油が…濃いから、運動量が少ない人ががぶ飲みするものではない…と思う」

 見当違いの感想を述べ、湯飲みを置く。

「そうだな。最初は結構胃に来る。洋食に慣れれば、大した問題ではなくなるが」

 彼女の相棒、広瀬も同じように見当違いの感想を述べ、彼女の湯飲みを掴むと残った牛乳を飲み干す。

「御馳走様。――――水葵、仕事に行こう」
「はい。…ごちそうさまです」


 


「牛乳、本当はどうだったんだ?」

「………」

「当ててやろう。――――油分が多くて飲みにくい。量を取ると気持ち悪くなりそう」
「正解です」
「最初からそう言えばいい」
「………次は、そうします」

「今日の外仕事が終わったら、落雁でも食べよう」
「はい」


_________


 もう何年前に開いたのが最後か分からないメモを供養。
 私はいつまでも新刊を待ち続ける…待ってるからな………


銃使いのおとめ妖怪と華族な陸軍中尉


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