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「#甘々」のBL小説を読む
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- ナノ -

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 書けない理由…どちらも普通の人生を歩めそうにないから。
 書かない理由…もはや主要メンバーがいなくても事足りそうだから。

 数年分の努力をここで供養。いや、何でこんなの考えちゃったんだい?
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☆  (  )⇒ランカー/北上 瑤子(きたがみ ようこ)
 14歳→16歳
 槍使いのソロプレイヤー。名前が見た通りの空白で呼び名に困られたので便宜上『ランカー』と呼ばれる。ハルに決闘で勝ち、旅の護衛を頼む。
 所持するユニークスキルは”短槍”、本人曰く「おそらくエクストラ」「槍カンスト、あと何だろう…日常系スキルだとは思う」。日常系は吟唱スキルと料理スキルがカンスト。
 そのスキルに対応した唯一の武装は”ショートランス・バルサ”。飾り気のないシンプルな短めの槍で、製作者はリズベット。このことから、リズベットとは秘密共有者兼友人。
 勉強もゲームも優秀。一人っ子。一番得意なゲームはSRPG。好きなタイトルはFE。穏やかなアルトボイス。
 東京都立川市民。父は自衛隊のちょっと言えないところ所属の偉い人、母は専業主婦。
 プレイ時に名前を空白にしてみたら通ってしまった。ただ本当に致命的なエラーなのは彼女自身が呼吸器に異常を持っていること。大発作が起こると危ない。
 父に(こっそり)戦術や銃火器の扱いの理論を教わる。また、ゲームで射撃の練習も積んだ結果、元々のスペックもあってVR限定でのチート級民間人爆誕。
 自分の病気を思うと将来を考えることが苦しい。調子が悪くなっても生きていることはできるだろうが、現実で労働することは難しいのではないだろうかと思っている。しかし、ユウキたちがVRで長い時間を生活したように、それと同じことをすれば肉体の退化は確実で、それは死につながる。どうしたらいいんだろう――――というのに漬け込んで治療がてらUWで利用されていたら面白そうじゃないか…。

★ハル(Haru)/春坂 篤(はるさか あつし)
 14歳→16歳
 一匹狼だったがランカーと契約を交わして一緒にデスゲーム内で旅をすることになった攻略組。キリト達とは友人。バランスよく戦えるタイプだが、本当に得意なのは暗殺。そのため、ランカーと組む前は秘密裏に依頼を受けてPK等の犯罪集団を物理的に殲滅してきた罪深い男。片手剣スキル、投剣スキル、料理スキルはカンスト。ランカーと旅を始めてからは何故か裁縫スキルを取り始めた。
 山梨県民。春坂家祖父母と母が農家、父は技術系会社員で、祖父と母と彼に関しては狩猟が可能。故に野山を駆け回る生活なので身体能力は現代人の平均をはるかに凌駕するリアルモンスターハンター。SAOでは大体彼の身体能力でなんでも斬ってしまうため、最早彼がシステム外スキル。

 SAOで得たユニークスキルは"黒鉄宮の剣"。本人曰く「おそらくエクストラ」「ソードスキル、チュートリアルの強制使用以外で使ったことねーんだわ」。ただし、こちらは本当のユニークスキルであり、茅場曰く「ソードスキルを使わず自分の強さだけで生き残る怪物のような君に、特権を与えてみたかった」「しかし君はそれで驕ることも無ければ罪なき人間を斬ることも無かった」。
 そのスキルで斬り殺した相手を殺された事実も記憶もなく監獄エリアに送るというもの。つまり、相手はゲージ破損の事実も記憶もなく気絶から復帰したら牢獄にいる驚きを、ハルは相手を斬り殺した感覚を味わうスキル。このスキルのお陰でハルはオレンジプレイヤーになったことが無く、リアル罪状も無い。つまり無辜の民だよ!
 ヒースクリフは「ただ犯罪者を捌く為だけに」そのスキルを使い続ける彼に依頼する形で暗殺稼業をさせていた(ハル自身も自己犠牲の善意で請け負ってしまう)。この事実はヒースクリフが茅場であることをキリトに看破された際に茅場の口から伝えられ、最後の最後にハルは『殺人者』から『黒鉄宮の番人』となる。


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 VRMMORPG ソード・アート・オンライン。通称SAO。2022年11月6日午後1時にサービスを開始したこのゲームは、午後5時30分のチュートリアルをもってゲームの死が現実の死となるデスゲームへと変貌した。それを聞いた時の感想はというと、

『ほーん…なーんだ、ただの現実じゃん。家族や友人に会えないだけで』

 幸運なことに、俺のナーヴギアは祖父母両親親戚友人一同に強制パージされることなく現実の頭に存在し続けているらしい。いや、もしかしたら冬支度が忙しすぎて俺がこっそり物置部屋の一角でナーヴギアを被っていることすら気づかれていないかもしれない。まあいいか――――そんななので文字通り焦ることなく、持ち前の狩猟スキル(現実仕様)で雑魚を刈りまくってレベルを上げ、ひたすら殴って蹴って殴って斬って気づけば攻略組のソロプレイヤーになっていた。アサシンなのにレベルを上げて正面から殴り、ソードスキルは性に合わないのでチュートリアルの強制使用以外で使ったことの無い変態スタイル。どうやら有名人らしい。まあ、俺は俺だから気にしない。

 攻略したりお仕事をこなしたりして長いこと暮らし続けたある日、第22層主街区を外れた森の中。罠(現実仕様)を張りまくったおかげで進みこそ遅いがレベルが勝手に上がるしモンスターがたどり着けない最高の現状をいいことに、だらだら昼寝をしよう――――そう思っていたのは数分前まで。

「こんにちは、お兄さん」
「…あ?」

 他者の声に跳ね起きる。

「ここいら罠を張りまくってるんだけどお嬢さんどうやって来たの?」
「杖で前方を確認するかのごとく来ました。おかげで予備の槍を2本ダメにしましたね」
「それは申し訳ない」
「いえ、良い経験でした」

 爽やかな笑顔で返されるけどこのお嬢さん物騒極まりない。何で本気で隠した罠を槍2本だけで突破されなきゃならないんだ?野生動物か何かなのお前?でも野生動物以上の察知能力だからつまりは人間様?
 そんな失礼な内容を発することもできず、静かにフードの中を伺おうとすると、相手が口を開く。

「お兄さんを雇いたいのですが、あいにく持ち合わせがありません」
「なら無理じゃん」
「なので、私がこの武器1つであなたに勝ったら、私のお願いを1つ聞いていただけませんか?」
「俺が勝ったら?」
「好きなようにして」
「……それ、絶対他で言うなよ?悪意持った人間には特に」
「あら…?ゲームではよくあるテンプレじゃあないかしら?」
「現実を知ってくれ…!」

 何だか頭が痛くなってくるが持ち前の根性で無視して、デュエルの状況を整える。そして始まりの合図とともに、一合目の激突。

「お前、どっかで見たことあるような格好してるな」
「攻略会議で何度かお会いしていますよ」

 下がって体勢を整え、剣を横に薙ぐ。回避して体勢を崩した相手の隙間を縫うように剣を突き出したが、相手は軟体動物張りの柔軟さで体をひねって回避してみせる。

「っ、と」
「おいおいマジかよ……」

 突き出した剣を引き寄せて距離をとる。また振出しに戻ったかのような距離感。そこからひたすら、制限時間を設定しなかったのをいいことに長期戦が始まる。しばらく駆け引きのついでに打ち合い、一撃をどちらも当てられずに時が過ぎていった。

 だが、状況はある一瞬で変わった。振った剣の先、ポリゴンよろしく壊れていくフードを背景に、俺は見た。

「――――っ」

 喰われる、そう感じるほどの鋭い光を灯すその目と、靡く長い黒髪に目を奪われる。
 その隙、空気を切り裂く一撃が襲いかかった。鋭い光に剣が弾かれ、手から抜けて飛んでいく。膝裏を石突で叩かれて足から力が抜け、そのまま尻餅をつく流れで転ばされた俺は、痛みと衝撃で目を閉じる。次に光を映した時には、目前に槍の穂先が突きつけられる光景が広がっていて。

「私の勝ちね」

 そう言って相手――――見た目ならば間違いなく女性であるその人間は槍の穂先を引っ込めると、代わりというように右手を差し出してくる。

「私と一緒に、旅をしませんか?――――バディを探しているんです」
「…俺より強いくせに、相方が必要なご身分なのかよ」
「はい。だって、旅をするなら1人より2人の方が心強いですし、寂しくないではないですか」

 そう言ってニコニコ笑う朗らかな彼女と、先程までの槍を手繰っていた鋭い視線の彼女が果たして同一人物なのか疑いたくなる。だが、勝負に負けた以上、俺に準備された答えは一つしかない。

「はあ…分かった。俺はお前の護衛をする契約を結んでやる」

 差し出された右手を、右手で握る。引き上げるように軽く引っ張られた細い手に続いて俺も立ち上がる。俺の視線より下にある彼女の瞳は喜色をにじませた。

「はい、確かに。――――よろしくお願いしますね、ハルさん」

 穏やかなアルトボイスによって、俺――――SAO名"ハル"の命運は彼女に縛られることになった。




 とりあえず場所を移し、最前線の第49層、ミュージェンの宿屋。
 あの後フードを被り直し、さらりとした長いポニーテールを仕舞いこんだ彼女は見事に性別不明、顔も不明の1プレイヤーになった。確かに攻略会議で見た覚えがあるが、どうにも思い出せない。

「今日の宿…というか、私の拠点はここになります」
「俺も一部屋取る」

 そう言って宿泊地を決め、見事に隣人になる。金はキャンプ生活の賜物でかなり貯まっているので問題ない。ん?普通の人はキャンプ生活しない?気にしたら負けだ。

「とりあえずフレンド登録か」
「そうですね」

「なあ、もしかして空白とかそういうわけじゃないよな?表示されないんだけど」
「ああ、空白です。キャラ作成の時にふざけて空白5マス打ち込んで4マス消して、2マス打ち込んで1マス消して決定したらそれで通ってしまって」
「バグじゃねえかよ」
「やっぱり?」
「確実にそうだろ…事故だな」

「で、空白さんよ。なんて呼べばいい」
「普段はランカーと呼ばれています」

「ふーん、ランカー……ん?ランカー?ランカー………?!」

「――――お前もしかして!!攻略組の"ランカー"か?!槍使いの!!」
「?ええ。攻略組です」
「お前あの、いっつもフード被ってどんな顔してるかもわからない上に名前も不明で、とりあえず通名としてランカーって呼ばれてるあの槍使いなのか?!」
「はい」

「…………まじかよ」
「はい。内緒ですよ?」

 これは墓場まで持っていかないと殺されるかもしれない。

「とりあえず、ハルさん。これからよろしくお願いします」
「呼び捨てでいいよ…よろしく。ランカー」



「さて、これからどうするんだ?」
「んー…とりあえず、48層から下の層で私がまだ詳細までマッピングできてないところを探検しに行きたいんですよ」
「はーそうか…え?まじ?」


「お前攻略組だろ?装備的に見ても、技量的に見ても」
「はい」
「それが下層攻略するってどういう」

「言ったじゃないですか。『旅がしたい』って」


「私は旅がしたい。確かに攻略しないと現実に帰れないし、いつまでもデスゲームは続く。でも、同じ閉じ込められた世界なら、私はこの限りある空間全体を楽しみながら旅して攻略したい。どこにでも行けるように、ちゃんと装備もしっかりして、技量だってつけて、どこでも楽しさを味わえるようにしないと。――――ほら、旅は危ないですからね。現実も旅する場所によっては武装したりするでしょう?」


「……まじかよ……ああ、でも、」

「それは楽しそうだ、とてもいい。ゲーマーって感じする。――――ははっ、そうだな!」

 すっかり忘れていた。
 ゲームの醍醐味は、未知との遭遇にあることを。
 この用意された世界を俺は、攻略したり、ゴミを三枚おろしにすることしか考えずに生きてきたらしい。この世界は、死がゲームでないだけで、舞台はゲームなのだ。
 彼女は言った。旅して攻略したい、と。

「賛成だ。とりあえず食料の準備か。あとポーションは一通りそろえておこう」
「あら、ノリノリですね」
「だって、俺はゲーマーだからな。――――忘れていたけど」

「俺はバグを見つけて楽しむタイプだった。思い出したからこれからやっていく」
「あら、私もバグ探しは結構好き」
「奇遇だな」
「あの法に触れてる感じが楽しくて」
「………」

 なんだかとんでもないやつとコンビ組んだ。

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「静かに」
「?」

「あそこ…ウサギだよな」
「おお?――――ウサギだあ」

「食えるかな」
「思考回路が野生児」
「ちょっと待ってろ」

 ナイフを投げて一発。

「……ビューティフォー」
「やったぜ、流石は俺」



「今日の晩飯は焼肉にしたい」

「VR世界だとわざわざ血抜きとか熟成とかしなくとも肉が食えるのはいい」
「やったことあるの?」
「ある。野山でイノシシやらシカを罠で捕まえて、その命をありがたく頂く。すぐに血抜きをして、皮は丁寧に剥いで加工に。内臓を抜いて流水で肉の熱を取ったら寒い納屋で3日以上熟成する。そうすると柔らかくて美味い肉が食べられる」
「ワイルドだねえ」
「じいちゃんや母さんは猟銃引っ提げて山に行くし、ばあちゃんは容赦なく解体するし、父さんはただの会社員だが山菜取りに行ける程度の男」
「なんだか現代を感じさせる言葉が会社員しかなかったのだけれど」
「ん?お前さては都会人だな?」
「そうよ。生まれてこの方東京住まい、他県で暮らしたことはない」

(美味なご飯と地元の話)

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「こんにちはー。リズー、リズベットー」
「ちょっと待っててー」


「お待たせー…うわ、本当に人連れてきてる……?!」
「そんな驚かなくても、私もついにソロじゃなくなったってことよ」

「私の武装一式、あと彼の剣のメンテナンスを頼みたいの」
「分かった」


「ランカー、待ち時間外にいていいか?買いたいものがある」
「うん。私はリズと久々に話したいからここにいる」
「分かった」



「ちょっと!ランカー、あんたあいつが誰か知っていて一緒にいるの?」
「うん。プレイヤー名はハル。攻略組」
「そうだけど、そうじゃない噂あるでしょう?知らないの?!」
「知ってるよ。『殺人者』だって話でしょう?」
「それを否定する人だっているけど、でも火のない所に煙は立たないのよ!」

「大丈夫よ。だって、私あの人に勝ったから」
「は?」
「私が勝ったら護衛になることを条件にデュエルして勝ったの。だから、あの人は私の護衛」




 先の出来事。

「お前は…攻略組のランカーか?!」

「やれ、なかなか帰ってこないと探せば街にいないし、掲示板に煽り文があったのでまさかと思って指定の場所に来てみればまあ――――私の護衛に何をしてくれているのですか」
「ランカー、お前知らねえのか?こいつの正体」
「やめてくれ!そいつは何も関係ないし知らない!」

「こいつは暗殺者、人殺しだ!俺みたいなグリーンですら殺して顔色一つ変えない、本物の犯罪者だよ!」

「ごめんなさい。私は知っています。まず、口うるさいお前はPKギルドのメンバーであること、次に、ここは犯罪者集団のギルドであること。最後に私の護衛は現在進行形で"殺し"で有名な暗殺者であること」

「でもね、ハル。知っていて、私はあなたに護衛を頼みたいと思いました」

 死ぬかもしれないと思ったあの日。私に伸ばされた汚い手を斬り落とし、私にかけられた状態異常を解いてくれた。

「私は、あなたに救われた1人です」

 あなたは私や私たちの目の前で、何人もの人間を斬り殺した。相手がグリーンでもオレンジでも斬り殺して変わらないアイコンの色、確実に相手が死んでいる感触を味わっているはずなのに躊躇の無い動き。
 皆が恐れ、嫌悪したあなたの所業は、黒鉄宮の蘇生者の間ではなく、監獄エリアで見ることが出来た。

「誰も殺してはいない。おそらく、スキルの発動状態下で行うゲージ破損の斬撃が黒鉄宮転送の条件なのでしょう」
「ランカー…」
「ハル、私知ってるのよ。知っている」

 皆がその行動に恐れをなして目を背けていく中、事実を知った私はあなたから目を離せなくなった。誰よりも血腥い行動をしているのに、誰よりも人を救うあなたから。
 そして教えてあげたかった。誰よりもボロボロの心を抱えたあなたに、あなたのお陰で助かった人間が、助かることになった人間がたくさんいることを。私もそうだということを。

「あなたが私の味方であるように、私はあなたの味方です」

 小さな真実はいつだって大きい嘘の中に紛れてしまう。彼に救われた私たちがどんなに声をあげても、何故か潰される。だったら、彼を私の隣に置けばいい。そして、私の力で。

「"ショートランス・バルサ"――――今度は私が、あなたを守る」

 あなたを殺人者たらしめる奴らから、守ってみせるわ。




「だめだ、殺すな!」
「…昏倒させます」

 すべての敵を伸して、ランカーが俺にかけられた状態異常を解く。剣を抜いたところで彼女が短槍を構えたので制する。

「汚れるのは俺だけでいい」
「っ…!」
「秘密を話す。だから動かず聞いてくれ、ランカー」

 彼女が渋々引き下がったのを見ながら、スキルを発動する。片手剣が剣先から柄まですべて、漆黒に染まる。そして昏倒した男たちすべての首を斬った。
 ポリゴンが散りゆく中、俺は話す。

「『黒鉄宮の剣』――――相手はゲージ破損の事実も記憶もなく気絶から復帰したら牢獄にいる驚きを、俺は相手を斬り殺した感覚を味わうスキル。発動成功率は100%、確実に投獄できる」
「……どうして、そんなスキル、」
「分からない。気づいたらスロットに入っていて、しかも固定されていた。その日から、俺は相手を斬り殺しても、斬り殺せなくなった」

「現実には死なない、斬られた相手もその事実と記憶がないから牢獄に堕ちるだけ――――だが、俺は斬った感触と、彼らを牢獄に落とした事実が残る。それを見られていれば、俺は殺人者に見えるだろう」
「でも、私やあなたに助けられた人は『投獄されている』って知ってるのよ?なのに何でこんなことに」
「さあな。誰かが情報を操作しているのか、何なのか………俺にはもう、どうだっていい」

「それ、依頼人がいるのね」
「ああ」
「もうやめなさい。やらなくていい」
「だが、俺がやらなかったら誰がやる?また傷つく人が出てくる」
「でも、あなたの方がもうボロボロじゃない!」

 だが、と食いつく俺の膝裏をランカーの槍がヒットする。そのまま崩れ落ちて膝をつき、顔面を地面とコンニチワ――――とはならなかった。

「誰が許さなくても、私がそう言ってるからいいの。いいことにしなさい」

 ランカーのフードが見える。俺が頬をつけているのは彼女の肩で、俺の背中に触れるのは彼女の手で。

「自分の心を、もっと大切にして。あなたが犠牲になる必要なんてない」
「……でも、俺は、『殺せる』人間だ」

 通じるだろうか。

「兵士として魅力的なのは分かる。でも、あなた、本当は猟師だったんじゃないの?」

 恐ろしい。通じた。こういう時、彼女の知識の幅広さは言葉不足の俺を救う。

「俺は、兵士の中でも稀な、殺すことに抵抗がない部類の奴なのに」
「多分違う、そういう部類じゃないわ。そういう人は、――――本物は、こうやってボロボロにならない」
「…俺、ボロボロなのか?」
「そうよ。……だってあなた、泣いてるじゃない」

 言われてハッとする。恐る恐る頬に触れると、手袋が水滴で湿った。意識するとそれは止まらなくなって、ランカーのローブを濡らしていく。

「――――っ、」

 汚してしまう、と思って身を引こうとしたところを止められる。頭を撫でられ、優しく背中をさすられ、俺は何も抵抗できなくなる。
 そうして俺は、このデスゲームで初めて泣いた。






「ランカー、待たせた」
「んー?今終わったところだよ。ほら、着てみなって」

「………リズベットさん、あんたは腕がいい」
「お褒めに預かり光栄よ。あと、敬称要らない」
 

「……なんか、事情は知らないけど、ランカーが問題ないの一点張りになる理由が分かった気がするわ。どうも私たちの知る情報と真実は違うみたいね」

「ハル、ランカーをよろしくね」
「ああ」
「じゃあね、リズ。また会いに来るわ」
「ええ、待ってる」


「ランカー」
「何よ、ハル?」


「俺の心を守ってくれてありがとう」
「こちらこそ、私のことを守ってくれてありがとう」

(2人だけの過去)


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「なあ、ストレージ操作しなくても瞬時に別の武器を取り出せるバグ見つけた」
「は?え?はい?」
「まあ見ててよ」

 こうして、こう。まさかの歩法で発動するバグの手順を見せてもらいながら、何もない空間から唐突に彼のサブ――――短剣が飛び出してくるのは驚きだ。私も試しに歩法をおっかなびっくり踏み、手を伸ばしてみると2本目の槍が飛び出した。試しに手元で遊ばせてみるが、特にグラフィック、機能ともに問題はない。

「すごいね、これ」
「内緒な?結構これ大事」
「うん…絶対誰にも教えないわ…やっばいわこれ」


(これでこの2人は付き合ってないんだぜ?)

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「ランカーさん、ハル君。ぜひ、我ら血盟騎士団に入団しないか?歓迎する」

「ヒースクリフ、雇用形態の説明をお願いします」

「ランカーさんもハル君も、入団後は中隊の長になってもらいたい。君たちは強く、そして賢い。だからこそ、同じ攻略組の力になってもらえたら嬉しい」
「お断りします」
「ハル君は?」
「……俺はランカーに命運を握られた身なんで、ランカーが入らないなら俺もお断りしますね」



「では、ランカー。君に決闘を申し込む」



「ルールは初撃決着モード。私が勝ったらランカーとハル君には血盟騎士団へ入団してもらう」
「私に利益がありません。故に私が決闘を受ける理由はない」
「君が勝ったらもう二度と、君たち二人を勧誘しない。――――それとも、自分が負けてハル君の雇用主でなくなることが嫌かな」

 その言葉にランカーが反応する。心なしか冷えた空間。ただならぬ怒りに震えた手が、ぎゅっと握りこまれた。踵を返してヒースクリフへ向きなおろうとした彼女の肩を左手で制する。

「ランカー、無理して受けなくていい」
「……ハル、」
「お前に、俺たちに利益のない決闘だ。どうせこれからも誘われたって俺たちが入団することはないし」

「受けます」
「ランカー!」


「私はハルの雇用主であることに誇りを持っているわけではない。私は、ハルと一緒に旅をしている喜びを守ることに誇りを持っている。決して、ハルを使役して裏の仕事をさせていたお前のようになり下がるつもりはない」
「ランカーに雇用主について言ったっけ?」
「聞いてない。でも、ハルはヒースクリフの話題で顔色が悪くなる」
「……まじ?」
「嘘よ。今知った」

「私が勝ったら、私とハルに対するヒースクリフ以下血盟騎士団からの入団勧誘と仕事依頼を一切取りやめなさい」
「いいだろう」





 判定としてはノーヒット。しかし、ランカーのフードはポリゴンとなって霧散し、長い黒髪と顔があらわになる。彼女の舌打ちと盾への石突による力でゴリ押しの薙ぎ払いが、ヒースクリフの盾を外側へ押しのけその身をさらさせる。
 そうして偶然にして生まれた一瞬の隙を、彼の左足目掛けたランカーの一撃が埋める――――はずだった。

「………!」

 ハルは一瞬の誤差をまばたきや油断で見逃すことはしなかった。むしろ類稀なる野生のカンと同じく類稀なる動体視力で注視して、自分の感じた違和感を舐めるように確認した。
 ランカーの槍は本来押しのけられたままのはずであった盾によって軌道を変え、地面を抉る。確実に脛を捕らえたはずの穂先はランカー視点で足首より左数センチを進んだ。彼女はというとその事実に目を見開いて、

「ランカーしゃがめ!!!」

唐突にしゃがんだ。ハルの叫びに本能が下した行動は、ヒースクリフが振るった首狙い、横薙ぎの一撃を寸でのところで回避させる。ランカーは槍を回収して後退すると思いきや、槍を手放して独特な歩法で後ろへ回り込む。

「それは想像の範囲だ」

 持ち手を返して突き出された神聖剣。

「なめんな…!」

 それをノーモーションで現れる2本目の槍が受け流す。それは先日ハルが見つけた、武器取り出しのバグ。彼の下した、ランカーとヒースクリフの差。ランカーにだけ教えた、彼とっておきの秘密は、

「――――っ、は」

石突による首への容赦ない一撃となってヒースクリフのゲージを削る。

Winner   !!!

 空間に示されるはランカーの勝利。先ほどまであり得ないといわれていたヒースクリフの敗北に、空間が鎮まる。あるのは荒い息を整える呼吸音と、多少の衣擦れの音。そして、たっぷり1分は静かだった空間に、ランカーの声が響く。

「いくら神聖剣の持ち主でも、首を取られたら死んでしまうのではないかしら」

 その声を皮切りに、動揺や驚きのざわめきが周囲を埋め尽くす。

「ランカー!けがは?!」
「無いよ。心配かけてごめんね」
「っはあ…良かった…」



「ははっ、負けたよ。でも、君のフードの中はようやく見ることができた」

「ランカー、君、本当に女性だったんだね」
「問題がありますか?」
「いや、何もないよ。アスナくんがすんなり心を開いた理由が分かっただけさ」
「………」


「ハル、帰るよ」
「おう」


「気づかなかった?あいつ、私が一撃食らわせようとした時、寸で間に合わないからってタンクではありえないスピードで防いだの」
「…やっぱりあれ、見間違いじゃなかったのか」


「キリトくんもあれで負けて血盟騎士団に入ったはず。だって、あれぐらいの技術だったらキリトくんが勝ってるはずよ」

「………まさか、チートでもしているとか?」
「管理者権限かも」


「「まさかね〜」」


(この後、事実を知って驚愕したのは言うまでも無かった)


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(現実に帰って仮想現実の話)


「オーグナー…これメガネかけてる人嫌がりそうな形だよねって初見で思った」
「お前初見でそれかよ、って感じだったよな。他になんかないの?わー、すごーいとか」
「サー◯ルちゃんかわいいよね」
「それな」
「お前ら、戻ってこい。2人で話を逸らすな。行方不明になる」
「ごめんねキリトくん」「すまん」

 ALOのホームで3人、だらだらと時間を過ごす。

「ついにお前らしかこの家に来なくなるとは…拡張現実すごいな」
「そうだな。素質がある奴は皆あれをやりたがって今や大人気だもんなあ…俺も瑤子も素質はあるにはあるが、やる気にならん」
「私のこと気にしないでやってもいいのに」
「お前いないのにやる理由なんてないし、ゲリラクエストやってる間に誘拐でもされたら俺がお前の父親に殺される」
「確かにリアルの身体を動かすから、北上には向いてないな」
「そうなの。それにあの、リアルでの報酬で釣ってくるあの感じがなんとも、その、気に入らないといいますか、嫌な予感がするというか」
「北上、話が合うな」
「俺もそれに賛同してるからやらないってのもあるんだけどな。それにフルダイブだと家にいても瑤子に会える。それは最高だ」
「そうね、長距離通学ボーイ」
「ああそうだよ近距離通学ガール」

「…しかし、俺が一番気になるのは、サバイバーがやたらオーディナルスケールに集められている感覚がすることだな。歌姫が出る試合?は大抵サバイバーがいるんじゃねえのかとか考えちまう。俺が一回だけ参加した時、当然のように歌姫が出てきた」
「…そういえば、明日奈たちも遭遇率高いはずだ」



「…ねえ、」

「歌姫の歌詞。――――まるで、2年間の最前線みたいじゃない?」
「………」

「偶然だと思うか?」
「さあね。でも、一考の余地ありな気がするわ」


(さすがに現実に戻ってからはお付き合いしてる)
(やたら勘が当たる女、北上瑤子)



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「お前のために死ねるなら本望。――――まあ、どうせ死なねえけどな?野生児だし」

「現にあれだけのダメージを食らって天命がアホみたいに残ってるのが奇跡らしいぞ。俺はついにこの世界でも現実同様のモンスターハンターらしい」
「アサシンやってる人間がどうしてそんなことになるのよ…!」

(ついに仮想世界でも恋人ムーブ)
(UWでも現実でもなかなか死なない男、春坂篤)


SAOに規格外の男女をぶち込む話


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