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 復帰1日目、朝一番から校長室の扉をノックしようとして、

「あら成実ちゃん、校長は今日遅出よ。そんなことより保健室行きましょう?…それとも、私とでは不満かしら?」
「最高ですどこまでもお供します」
「んー、流石!」

艶めかしいポーズを決めた睡先輩のハニトラに自ら降伏して保健室にいた。

「おはようございます、リカバリーガール。連れてきましたよ」
「ありがとうミッドナイト。…やれ、まだ骨が危ないんじゃあないのかね」
「何故知ってるんですか?」
「私くらいになるとどこからでも情報は入ってくるものだよ」

 リカバリーガールの治療を受け、ズキズキしていた部分が一気に回復し、代償として疲労が襲ってくる。ペッツではなくおにぎりを差し出され、それを食べる。

「おいひいへふ」
「1万円だよ」
「はらへまへん」
「冗談にマジレス返しちゃだめよ成実ちゃん」

 しょうがないじゃないか、疲れているんだもの。そんな目で睡先輩と先生を見れば、睡先輩はくつくつ笑い、先生はやれやれと杖で私の膝をつついた。空いている左手でポケットから炭素を取り出し、空気中の水分を利用してショ糖もといべっこう飴を作り出し、薬包紙に乗せる。2人が口に放り込み、おいしいと笑顔になったのを見てこちらも笑う。

「…聞いたよ。人の傷口を埋めたんだってね」

 リカバリーガールの瞳がこちらをとらえる。私はおにぎりを飲み込み、真っすぐその瞳を見つめる。

「……はい。出血が続くよりはいいかなって思ったので」
「実際に見たけれど、上出来だったよ」
「ありがとうございます」

 褒められる。なあんだ、本題はこっちだったか。

 実際その通りだったらしく、用が済んだリカバリーガールに保健室から睡先輩と2人追い出された。

 職員室へと戻る。もういい時間なのだが、相澤先輩とオールマイトの姿がない。オールマイトは引退関連で忙しいのだろうか。

 相澤先輩は、どうして?昨日、私が『個性の扱いを教えることにします』ってメールしたら『徐々に慣れていこう』ってお返事くれたけど。もしかして忙しかったところに決意メールを入れてしまっただろうか。

「睡先輩、相澤先輩は?」
「今日からオールマイトと外回り。生徒たちの寮生活の許可を父兄に取りに行くのよ」
「ああ…」

 知らない間に話が進んでいる…だが、先輩に迷惑はかけてなさそうなのでいい。他にもいろいろと伝えられ、忙しなく情報を処理する。

「そうそう、あなたが手配してくれてたカウンセリングももう済んでるから、今日からは寮生活の話を詰めていかないと。あと、エルセロム」

 はい?と睡先輩を見る。彼女は至って真剣な面持ちで告げた。

「神野の件で生徒があなたを心配していたわ。テレビであなたを見つけたみたい。…だからちゃんと、次の登校日に顔を見せてあげるのよ」
「……はい」
「逃げないこと」
「大丈夫です。私はエルセロムですから」

 私も真剣に返事をする。そうすれば、ならば良し!と背中を叩かれた。…頑張らないとなあ。

 午後、出勤してきた校長にかくかくしかじかと説明をしたところ、満面の笑みで承認され、私のヒーローとしての教師生活開始が決まった。

「じゃあ、どんどんやっていかないとね!」

 地獄の一声で大量の資料がデスクに置かれた。生徒が入寮するまでの間は仕事の合間にそれを熟読して生活し、時々周囲に分からないところを質問しては答えを書き記して置いたり、とにかく頭脳面で忙しくなって糖分を大量に消費している。

 また、この件を親友たちにも報告したところ、メカニックの方からは大量のサポートアイテム、医者の方からは大量のサプリメントが送られてきた。ありがたくいただく。今度お礼をしないと。


 そうしてやってきた生徒の入寮日、私は顔を出した先々で生徒に囲まれやんのやんの騒がれることになった。もみくちゃにされた私を見た先輩の一言は「ツケが回ってきたんだろ」。なんてかわいいツケ。しかし、これはまだ大した変化ではない。

 一番変わったのは、私が身のこなし方を指導するようになったこと。

「あ、心操くん」

 先輩に呼ばれて普通科の寮までやってきた。彼は体育祭の時に目を付けて以来久々に見たなあ。ちょっと忙しすぎて普通科まで見る余裕がなかった…。

「近接格闘の稽古をつけてやってくれ」

 聞けば、心操くんは転入試験を受ける予定になったらしい。彼の個性は直接戦えるタイプではないから、近距離戦闘技術を磨いていかないと死んでしまう。だが、人選ミスだろう。心操くんだって想定外の人間の登場に首を傾げている。

「何言ってんだ。――――心操、こいつの世代、雄英高校で近接格闘って言えばこいつだったんだぞ」
「そうなんですか」
「今より凶悪な敵が少ない時代だったとはいえ、可能な限り個性を使わずして敵を制圧する様はヒーローというより格闘家だな」
「そんなぁジョークですよ――――ふぎゃ」

 先輩の捕縛布が容赦なく口をふさいだ。何だか嫌な予感がする。

「こいつの知名度が低い原因、実は高校時代と今とで戦闘スタイルが変化しているという点がかなり大きい。高校2年目の体育祭映像見てみろ、個性は使っているがほとんどが格闘で決着着いてる」
「あああああ見ないで!!!!」

 その予感はドンピシャで、小恥ずかしいことを真顔で話し始めて、さらに端末まで持ち出した彼に、私は捕縛布を分解して掴みかかる。何その布教活動みたいな。

「個性のアピールに繋がらなかったから3位なのに指名が全然入らなかったのはいまだに笑える」
「高校生のときから美人ですね」
「ひぎゃあ」

 伸ばした手は避けられたので、端末を蹴り飛ばそうとしたら端末は心操くんへ投げられ、爪先も空を切った。しかもご丁寧に映像を見せられる。高校生の自分が見える。

 やだやだやだ!と心操くんへ手を伸ばしたところで足を捕縛布で縛られ、そのまま全身巻き巻きミノムシのように木につるし上げられる。

「まって、まってよお、どんな罰だよお…もうやだ帰りたい」
「帰っても敷地内だぞ」
「逃げられない!!!」

 たっぷり30分は映像を閲覧され、最終的に心操くんに「これからよろしくお願いします」と頭を下げられた。相澤先輩は満足そうだが、絶対他にやり方があったと思う。

 そんなこんなで、エルセロムの初担当は心操くんとなった。頑張ろうね!


ファンが増えたな良いことだ


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