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「#切ない」のBL小説を読む
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 翌日。
 私は出勤しようとした。打撲、擦過傷エトセトラに加え極度の疲労状態であることは間違いなかったが、私は出勤しようとした。大事だから2回言った。
 鞭打って私服に着替えて、なんとか10秒チャージ飯を摂取して、いつもよりかなり早いけれど歩行速度の低下を鑑みいざ行かんと扉を開けたところで、

「寝てろ馬鹿」
「あっダメ骨が!!!」

 相澤先輩の捕縛道具に御用された。


 カバンを奪われ、玄関を制圧され、私は大人しく布団に座る。

「なんで先輩いるんですか…」
「テレビで活躍は見た。で、連絡付かねえから朝っぱらから様子見に来てやったんだよ。ベル鳴らそうとしたら出てきたのはお前だろ?スマホすら確認できないくせに出勤しようとするな」
「でも、」
「雄英から現場に出たのはオールマイトとお前だけだ。人数的には何とかなる」

 ほら脱げ、とジャケットを引っぺがされそうになったのを避け――――たが取っ捕まって無理矢理脱がされる。ああ、ダメですそれがないと私!

「包帯まみれのミイラになっちゃうじゃないですか!」
「そんな状態でよく病院送りにならなかったな」
「なりましたけど比較的軽傷だったので帰してもらえました」
「次から帰してもらうな、入院してろ」
「病院溢れちゃいますよ」

 絶対寝てろ。はい。
 そのようなやり取りをして、先輩は出勤していった。

 次はお家デートか、なんて思った時はあったけどさ、このような形は全く想像してなかったよね…とぼやいたのは別の話。

「…スマホ」

 先ほど先輩に言われた通り、まったく確認していなかったスマホを手に取る。

 鬼のような着信履歴。養父母、相澤先輩、その他いろいろ。メッセージもいくらか。友人たちに加え、ヒーローからも連絡が入っていた。

 どれにも対応する元気がなくて、一括で生存報告だけ送った。元気が出たら、ちゃんと返事をしようと思う。

 眠たいが寝たくないという矛盾した欲求を抱えながら、ニュースを流し読みしていく。
 一晩明けた世間は騒然としている。神野区の半壊、平和の象徴が隠していた正体と事実上の引退、多くのヒーローの負傷。敵の脅威は今だ拭い去れてはいない。ただ、敵が狙った信頼についてはかろうじて繋ぎ止められている状況だ。
 身動ぎに失敗してずきりと身体が痛む。打撲は打撲でも骨にヒビ入る3秒前のような状態らしいので確かに痛いところはかなり痛い。

「………私もいつか、壊れていくのね」

 この状況を見て、ヒーローのうちどれだけのヒーローがちゃんとヒーローを出来るだろうか。
 私たちヒーローの行く末は血塗れだ。命を張って綺麗事をする仕事だが、成果は綺麗事でもその手は傷付き血塗れで、状況によっては壊れていく。それを恐れた人間、そうしてまで今の社会を守れないと感じた人間から、ヒーローではなくなっていってしまう。今の社会から外れた思想を持った人間も、果たしてヒーローでいられるのかわからない。
 ヒーロー科の生徒たちが頭に浮かぶ。社会の授業でかかわりを持つ彼らの学ぶ姿はいつも未来に光を見ている人間の姿だ。彼らは今回の事件を見て、本当にヒーローを目指すだろうか。彼らの家族は、それを応援できるだろうか。

 難しい問題だ。おそらく、血腥い道を歩まずに活動できるヒーローもいるだろう。だが、雄英高校ヒーロー科に進学できる子たちの能力が、個性が、そしてヒーローを志すだけのその気持ちが、それを許してくれるかは分からない。私だって普通に活動していたはずなのに、このような状況になっている。社会情勢が変わったのは事実だが、私が今回の血腥い現場に呼ばれたのはそれだけの能力、実力があると認められて呼ばれた。あの子たちだって同じ立場に立たされる可能性は低くない、………。

「――――……?」

 気づけば眠っていたらしい。窓から差し込む光が傾いでいる。
 スマホの画面を点けると時間がかなり進んでいて、新着の留守電メッセージを知らせた。着信があったらしい。画面をタップすれば、音声が流れ始める。

『エルセロム、塚内だ。いろいろ…そうだな、本当にいろいろあったが、とにかくひとまずはお疲れ様。問題は山積だが、どうにかしていくしかない。頑張らなくてはいけないな』

 そうですね、と呟く。

『で、本題はこれじゃあないんだ。――――どうぞ』

 しばらく無音になる。ぼーっとし始めた時、声が乗る。

『あの、私、助けてもらったんですけど……その、迷惑かもしれないって思ったんですけど、どうしても一言伝えたくて』

 お姉さんの声だった。必死に何かを言いたい、そういった雰囲気を感じる。悲しみではなく、とても明るい感情。

『助けてくれてありがとう、エルセロム。これからも無事にヒーローをやってほしい、応援してる』
「………!」

 以上だそうだ、と塚内さんの声に戻り、留守電メッセージは終了する。 

――――無事にヒーローを、……。

 ああ、私はヒーローなんだ。誰かのヒーローに私はなっている。私は誰かを守れている。血腥くとも、血塗れだろうとも、私をヒーローと認めて応援してくれる人がいる。
 ヒーローとして誰かを守れるなら、私はきっと、ヒーローになることを決めた彼らも守れるようになれるのではなかろうか。

「エルセロムを、教師にしよう」

 誰かを守れるようになった、もといヒーローになった私が、ヒーローになる覚悟を決めた卵を守っていこう。守って、育てて、次世代を支えていこう。その仕事は、ヒーローの中でも教師にしかできない。私はヒーローで、教師だ。

 この社会情勢でその選択をすることによって、私はいつか壊れて、いなくなるのかもしれない。近い将来そうなったっておかしくはない。
 なら、何もできなくなるその日まで、やれることをやっていこう。私はいつだってそうあるしかないじゃないか。

 決めたら眠くなった。うとうとしながら、私は瞼を閉じた。


壊れる過程を変えていく


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