×
「#切ない」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 翌日早朝、目覚ましよりも早くスマホが着信を知らせ、飛び起きて応対する。

『成実ちゃん、ごめんね休暇中に』
「睡先輩、どうなさいましたか」
『林間合宿が襲撃を受けたわ』

「はい…?!」

 布団から立ち上がり、浴衣を脱ぎ捨てる。睡先輩から事のあらましを聞きながら、元々着る予定だったスポーツウエアではなく帰宅用の私服に着替える。

『そういうことで、ちょっと申し訳ないんだけど対応を手伝ってほしいの』
「承知しました。今から向かいます」

 通話を終了し、布団をたたみ、脱ぎ捨てた浴衣もたたんでその上に置いた。出しっぱなしの荷物を全てキャリーバッグに詰め、内線電話でタクシーをお願いしたところで2人を起こす。

「ごめん、2人とも」
「む……呼び出し?」
「うん」

 寝ぼけ眼だった2人が一気に覚醒する。透子ちゃんが目に見えて落ち込んだので、素直に謝る。

「旅行、最後まで一緒にいられなくてごめん」
「残念だけど、しょうがないわね」

 造里ちゃんも、と言葉を続けようとして、彼女は自分の荷物を漁っていたのでしばらく待つ。すると、

「成実、これ」
「人形…え、新しい…?」

可愛らしい人形が差し出された。見た感じ、これは私が使っていた人形の2Pカラーと言わんばかりのデザイン。

「2号機。服は透子が縫った」
「――――え?」

 訳が分からずやたら硬くて重たい人形を凝視していると、急に身体に衝撃が走る。温かくて柔らかい、そう認識したときには2人が私に抱き着いていて。

「お守り」

 私たちも、一緒にいるから。

「1号機は成実と次会った時に返す」
「1号機の服も縫ってあげるわ」

 外から車のエンジン音が近づいてくる。タクシーが来たらしい。2人が離れ、私は荷物を持って靴を履いた。 

「ありがとう。行ってきます」
「行っておいで」「頑張ってね」

 2人と別れ、人形2号機と施設の人が厚意で持たせてくれた朝食を手にタクシーへと乗り込む。
 移動の間、ニュースをひたすら流し読む。それだけで、ヒーローの立ち位置が打って変わって底辺まで落とされてしまったことを知る。

 雄英高校も、ヒーローも、状況は良くない。



 昼過ぎ、雄英高校に到着する。メディアがカメラを構える中を通過して、ようやく。

「――――ミッドナイト!」
「待ってたわ!こっち!」

 電話では話せない、またメディアからは知ることのできない詳細を聞き、怪我人が多数いること、そのうちの幾人かがまだ自宅へ戻れていないこと、爆豪くんが誘拐されたことを知る。
 会議室に連れていかれる。校長は会議と並行してここから指示を飛ばしているようだった。

「遅くなりました、校長」
「ごめんね、佐倉くん。すぐにカウンセリングの準備を整えてほしい」
「承知しました。すぐに、電話で行うことにします」
「頼むよ」

 自分のデスクへ座ると、真っ先にヒーロー科1年生の名簿を取り出す。そこから電話をかける順番を設定し、現時点で入院中の子には後日面談をしましょうという内容のメールを送る。そして、

「雄英高校の佐倉と申します。青山様のお宅で間違いないでしょうか――――」

片っ端から電話をかけ始めた。
 名乗り、命の危険にさらしたことへの謝罪をし、会話をして言葉を引き出し、カウンセリングの一環として傾聴する。それをひたすら繰り返し、気づけば夜も遅くなっていた。

「……うわ、9時…晩御飯食べ損ねている…」

 そうは言ったものの、食べる気がしない。

 電話の反応は、保護者も生徒も、泣き出したり怒り始めたり、冷静だったりそうでなかったりと様々だった。だが、雄英に対する怒りというよりは、敵に対する怒りが多く、私がヒーローであることを知っている生徒、時々保護者からも理解と応援の言葉を貰ったりした。…ありがたかった。ただ、雄英の努力が平和ボケしたものであったことは否めず、私たちはオールマイトに依存しすぎていることを痛感する。

 そしてこれは、雄英高校のヒーロー科という、実情をよく理解してくれている人たちの言葉だ。サポート科、普通科、そして学校の外もとい社会において、これと同じ反応を望むことは難しい。それは確実に。

「お疲れ、佐倉ちゃん」

 声をかけられる。顔をあげれば、サングラスが良く似合う先輩の姿。

「マイク先輩…」
「一緒におにぎり食おうぜ」

 隣の机、またもミッドナイトの机にコンビニのおにぎりがごろごろ転がる。…ああ、心配されている。

「すみません。いただきます」
「いんだよ、前のお弁当の件もあるしな」

 2人でパッケージを引き裂き、パリッと音を立てて1口目を食べる。…梅が美味しい。

「大変だったな。見抜ちゃん達との休暇、切り上げて帰って来たんだろ。あいつら元気か?」
「ええ、まあ。2人とも元気でしたよ。透子ちゃんはいつも通り相澤先輩にキレてましたし、造里ちゃんは変わらず開発狂でしたね」

 カバンからペットボトルのお茶を取り出す。緑茶を買っていてよかった。とても美味しい。
 2個目のおにぎりに手を伸ばす。…鮭だ。マイク先輩は3個目。

「見抜は佐倉ちゃんのこと大好きだからしょーがねーよな!」
「確かにそうですね」
「組立は元気ならいい!……いつも思うけどヤベー集団だよホント」

 おにぎりを食べ終える。満足した。発生したプラスチックごみと空気中の二酸化炭素を分解して、黒鉛と水にする。黒鉛は商売道具にするのでデスクの収納に仕舞った。水は窓を開け、花壇に撒く。

「まあさ、どんなにヤバくてもいい友人たちであることに違いはねえんだろ?どんな状況でヒーローやってても教師やってても不変なんだろ?」
「ええ、それはもう」
「大事にしろよ」
「はい」

 じゃ、俺帰るわ!とマイク先輩が職員室を出ていく。一人になった職員室で、人形2号機を取り出す。…しっかし人形のわりに硬くて重い。

「………」

 大事にしよう。大切なものだ。
 私はそれをヒーローコスチュームのケースへと入れた。




 さらに翌日。
 警察の建物内を私は歩く。案内された部屋に入れば、すでにヒーローたちは集結していた。私が最後か。
 視線を浴びつつインカムを受け取り、ざわめく室内を歩いて、燃え上がるヒーローの隣に立つ。

「こんばんは、エンデヴァー」
「……お前、エルセロムか」
「よく分かりましたね」

 ぎょっとしたエンデヴァーに思わず笑う。そうですよね、びっくりしますよね。

「いいのか」
「はい」

 彼とは大学時代のヒーロー活動からの付き合いだ。ゴーグルこそかけてはいるが、かたくなに姿を隠して約10年、この変化は驚きだろう。

「私は、エルセロムです」

 塚内さんが入ってくる。彼も驚いた顔をしたが、一通り見て納得したのか、笑って頷いてくれる。

「さァ作戦会議を始めよう」

 今の社会に生きる友人を、生徒を、両親を守って、仲間とともに生きるために、私は頑張ろうと思う。


あなたたちのいる未来をみつめる


戻る