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「#切ない」のBL小説を読む
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 迎えた旅行当日。

「あ、透子ちゃん!」

 私はキャリーバッグに小さいリュックと浮かれた荷物に、眼鏡、ワンピース、スニーカーとこれまたウキウキわくわくレディな姿で駅に立っていた。集合時刻きっかりに現れた透子ちゃんもアロハな柄だったりするので相当浮かれている。

「ごめんごめん。待った?」
「今着いたところ」
「てかメガネ、いつの間に」
「最近視力が落ちたからデビューしたんだ」
「ほほう…相澤の趣味が透けて見えるわ…あの野郎うちの成実に…」
「ちちちち違う!」

 チッ、と透子ちゃんが舌打ちをする。何でそんなに鼻がいいんだよ怖いってば、でも彼女は昔から相澤先輩に対してこんな様子なのでしょうがない部分もある…ので流した。まあこっちだってそれなりに変化はあって…ねえ?

「――――行こう!ほら時間危ないんじゃない?」
「む、そうね。じゃあ乗り場へ」

 自分の恥ずかしくなるような思考も流すために話題を現実の問題へと方向転換する。先導する透子ちゃんについていく形で移動を開始した。
 旅行の手配はすべて透子ちゃんだ。今回の旅行は彼女の思うままに設計され、彼女の思うところで予約を組み、彼女の思う場所で楽しむ。つまり私は何も知らない状態で今日を迎え、現場に来ている。なんてリスキーで非合理的、と誰かに言われそうだが、私はこれが楽しいので良いのだ。

「えーっとね、今回の旅行先なんだけど、『森』だ。私は自然を楽しみたい。普段いる地域では味わえぬ緑豊かな景色、森の香りがする空気、そこでしか楽しめないレジャー、すべてが欲しい。ただ、成実が夏嫌いなことも配慮し、高原で比較的涼しいことも考慮して場所は設定した。ついでに虫も少なくなった。これは私が嬉しい」
「はい。うん、ありがとう。よかったね」

 森…雑だあ…、と医者らしからぬ適当さで語られる説明を聞いていく。荷物の中にアクティビティな着替えを指定された理由が判明した。他にもいろいろ説明された中で事前に言われた情報と合致するものが出てきたので、あーこれするのかなー等と想像を膨らませていく。

「あと喜べ、そこにはサポート器具製作者にして我ら問題児トリオが1人、組立造里がいるぞ!」
「やったあ!!!――――えっ本当?!捕まったの?」
「予定が奇跡的に合った。捕らえた。私を讃えよ」
「ありがとう透子ちゃん本当に女神!」

 胸を張った透子ちゃんに拍手喝采を送る。ついでに献上品として道中のおやつにしようと持ってきたお菓子を差し出し、2人で食べる。
 組立造里――――くみたてつくり、雄英高校サポート科出身だ。彼女の作るサポートアイテムやコスチュームはとても性能が良く、サポート界隈ではかなりの有名人になってしまった友人。有名になりすぎて嫌になったため人の多い都会から脱走し、人気の全くない地域に作った工房で引きこもりながら仕事をこなしている。注目されすぎると死ぬらしいが、現時点で彼女は死んでいないため、おそらくそんなことはない。なお、はぐれメタルのごとく会える確率は低く、逃げ足が速い。

「造里ちゃん、何作ってるんだろうなあ」
「知らないけど、昨日まで工房を出て森の中で仕事してたらしいのよ。今日から何日か空きがあるって言うから、無理矢理ねじ込んだわ」
「まじ透子ちゃん優秀」

 息をするように彼女を誉め、ふと荷物の中に個性コントロールの練習で高校時代に使っていた人形が入っていることを思い出す。今回の荷物に指定された一つだった。

「あ、人形って造里ちゃんが来るよって意味だったのか」
「そうよー、忘れてないわよね」

 もちろんこの通り、と人形をリュックから取り出す。何度も伸縮させられくたびれた人形は、それでもなお私の個性に反応する。

「ふふ。懐かしいわ」

 透子ちゃんは人形の頬をつついて、嬉しそうに笑った。


 『森』の最寄り駅に降り立つ。標高が上がって空気が薄い気がするが、いつもと違う匂いに気分が上がる。

「あー、2人ともー。こっちこっちー」
「造里ちゃんだー!」

 呼ばれて振り返れば、想像よりもまともな、一般的な社会において浮くことのない清潔なツナギ姿の友人が車に寄りかかってこちらに手を振っている。卒業以来数えるほどしか直接会えていないレアキャラにテンションが上がる。

「ちゃんと来たわね」
「まーなんとか起きれたよー」
「服装がまとも…!」
「そこは成長したよー」

 車に乗り込み、道の駅や地元のスーパー等で食料や酒を買い込みながら宿へ向かう。夜勤明けの透子ちゃんに合わせて集合が遅い時間だったため、今日はもうこれで終了である。アクティビティは明日だ。
 チェックインを済ませ、部屋に入る。森に囲まれた宿から見える景色はひたすら緑で、深い緑、淡い緑、黄色味の深い緑など様々な色合いがあった。私としては苔むした石が好きなので、ずっと眺めていられる。だがまあずっとそんなことをしているわけにもいかないため、3人で温泉に浸かり、浴衣をああだこうだ言いながら着用し、夕食から始まる今日の本番――――酒の時間である。購入した食料を食べつつも各々好きな酒を飲み、良い感じに酔いが回り始める。

「あー…なんか高校に戻った気分」
「高校時代にこんな思い出は無いんだけどね〜、学科違うし」
「そもそもよく出会ったよね、私と透子ちゃんと造里ちゃん」
「どう見たって普通じゃなかったわよね、私たち」

 本当に、と同意する。

「造里ちゃんが作ったサポートアイテムもといロボットが暴走して、その軌道上に飛び出した猫を助けようとした透子ちゃんが猫を抱きかかえたものの足を滑らせて動けなくなり、偶然居合わせた私が個性暴走寸前のフルスロットルで木端微塵にした」
「当事者だった私が言うのもあれだけど、この集団だけにそれなりの出会いだったと思うんだあ」

 『雄英の問題児トリオ』と呼ばれた私たちだ。『雄英の』、と付くのは私たちが雄英でも珍しい学科を越えて仲良くし続けた集団だからだろう。現に高校1年生から今に至るまで関係良好である。経営科がいればコンプリートだった。

「あの時対応してくれた先生が根津先生で良かったよねえ、成実の過去も個性も知っている人だから大事にならなかった」
「高校の友人で初めて私の過去を知ったのも、私の個性の本性を目の当たりにしたのも2人だったね」
「成実、最初はそりゃもう真っ青で何言われるかわかったもんじゃないって顔だったわよ…」
「確かに」

 仕方ないだろう。私は個性を制御できないし、恐れていたのだから。過去だって今でこそこうやって乗り越えてはいるが、当時はかなり苦しく辛いものだった。

「透子ちゃんはずっとそばにいてくれたし、造里ちゃんは私の個性が上手く使えるようにってたくさん器具を作ってくれたもんね」
「当たり前じゃない。何も知らない周りの奴らと違って私は成実のいいところを知っていたんだから」
「成実は容赦なく破壊してくれるから、わりと何でもやり放題だったしあの頃に耐久性を本気で考えるようになって良かったと思うんだ」
「半分まとも半分気狂いな感想ありがとう」

 出会いの事件直後、私は個性が止まらなくなってひたすら水を生み出し始めてしまった。ずぶ濡れになった根津先生監視のもと造里ちゃんが生み出した大量のゴミを破壊し続け、ストックがなくなる頃に疲れて寝たおかげで事なきを得ている。それを見て以来、高校在籍中にタイミングが合えば彼女は生み出したゴミを私に処分させるようになった。いい練習ではあったが気分は複雑である。
 なお、疲れ切って眠ってしまった私の面倒を見てくれたのは透子ちゃんである。この頃から透子ちゃんは透子ちゃんだった。その後に「これは何が原因でこんな状態になるのだ」と聞かれ、私は校長に勧められて2人に事情を話すことになるのだ。もしかしたら、校長は初めからこれを狙っていたのかもしれない――――でも。

「最初にできた友達が透子ちゃんと造里ちゃんでよかった」
「やだもう、成実大好き!」
「私も入れてー」
「ひぎゃあ」

 酔っ払い3人が抱き着く様はとてもじゃないが見せられたものではない。だが、それが幸せで、私は笑った。


旅の友は生涯の友


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