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 体育祭当日。今日という日は客席で観戦するか保健室でリカバリーガールの手伝いをするしか仕事のない私は、客席通路にて世間で二番目の男と対峙していた。手には大きな風呂敷包みを持って、立ちっぱなしで。

「久々だな、佐倉成実」
「…エンデヴァー、お久しぶりですね」

 No.2ヒーローのエンデヴァー。またの名を轟炎司。私のヒーロー名と個性を知る多くない人間の一人。私のことを気にかけてくれる人で、育て親、相澤先輩たち、根津先生たち…の次くらいに世話になっている、たぶん。

「まさかまだ教師をやっているとはな。ヒーロー活動としての名前は聞くし、とうの昔に正体がばれてやめたかと思っていた」
「びっくりですよね。私もまだやれてるのかと驚いています。正体の方もまだ割れてないみたいで」

 うふふ、と笑いかけると、眉間にしわを寄せ揺らぐ炎を増量させる。多分これは、お前はなぁ…と言わんばかりの表情だ。ツンドラのようなツンデレ具合にはもう慣れていますとも。だが、今日は少しそこから発展したらしい、心配そうな声音の返事が返ってくる。

「気をつけろよ、佐倉」
「はい?」
「秘匿主義も度が過ぎると自分の首を締める」
「………」

 それは私のヒーロー名ですか?個性ですか?過去ですか?
 そんなことは言えず、ただ、

「ーー善処します」

とだけ返すしか私には能がない。その様子を見ていたエンデヴァーも、深くは追及してこない。それでも少し気は遣ったらしい。

「まあ万一、行き場がなくなったら俺に言え。部屋くらいは貸してやる」
「あら、サイドキックに勧誘してくださらないのですか?」
「お前はもう充分ヒーローで食っていけるだろ」
「随分と買ってくださりますねぇ…」
「実力が無いわけではないからな」

 いつにない褒めっぷり。

「期待してくださるのは構いませんが」

 だが、それは私だからいいのであって。

「お子さんにまでその期待を背負わせないようにしてくださいね。ーー少々重いですから」

 私の諫言に対し、フンと鼻を鳴らしてエンデヴァーもとい、轟焦凍くんの父親は去っていった。
 私も切り替えねば、と頭を振り、ずっと手に持っていた風呂敷包みを持ち直して階段を上がっていった。


 目的地は放送室。マイク先輩の昼休憩を知らせる放送を聞いてから、ドアを開ける。

「マイク先輩、相澤先輩、お昼食べませんか?」
「食べる食べるー!!!ほらイレイザーヘッド、行こうぜ!!レッツゴー!!」
「寝る」

 マイク先輩がしょんぼりよん…ではなく、相変わらずハイテンションでしつこく誘い続ける。よく砕けることもくじけることもせず高校時代から友達やってるよなぁ、と思ったのは内緒だ。

「今年は運動会気分を味わおうと思ってお弁当作ってきました。だから買わずして食べれます」

 個性で深緑色のビニールシートを作り上げ、靴を脱いで座り込むと真ん中に風呂敷に包まれていた弁当を置く。今日は洋風のおかずが入った弁当で、主食もサンドイッチにしてある。おにぎりを入れたかったが、弁当箱にくっついたり手にくっついたりするのを面倒に思う人が確実に一人いるのでやめた。

「神か…?!佐倉ちゃん、アーユーゴッド?!!!」
「No。 睡先輩にも手伝ってもらいました。彼女ももうすぐここにきます。ーーほら、相澤先輩にはこれ。絶対ご飯食べないで寝るって言いはじめると思ったので、とりあえず栄養価の高いスープ作ってきました」

 飲むだけだから楽でしょう?とスープの入った保温カップを差し出す。中身は人参、押麦、もやし、鳥の骨つき手羽元、えのき、タマネギを煮込み、塩・胡椒で味付けしたコンソメスープ。このメニューは手羽元の骨や野菜の栄養素がスープに溶け出ているので、野菜とかも食べるがそれはサブで、主な目的はスープを飲むことになる。スープの中の肉は保温カップに詰め替える時に骨を取っておいたから安心だね!

「ん、悪い」
「今度何かおごってください」
「…お前がごり押すフルーツワインで」
「じゃあ梅を」

 謎の取引を成立させたとき、申し訳程度に開いていたドアが音を立てて全開になる。反射的に振り返れば、そこには、

「成実ちゃーん!!ご飯食べましょ!!」
「睡先輩!お待ちしてました!」

大好きな同性の先輩、ミッドナイトの姿。キャーと言ってたった3時間、されど3時間の会えなかった時間を埋めるかのように再会の抱擁をする。あほかよ、とほったらかしにされた相澤先輩のぼやきが聞こえるがそんなものは無視。

「あーもうお腹すいたわ!マイクは作った私に礼も言わず食べてるし!」
「あ?悪かったな!そしてありがとよミッドナイト!でもイレイザーだってもう食ってるぜ?!」
「そのスープは成実ちゃんが別メニューで作ったから関係無いわ」
「別メニューでもなんでも無いって、普通の食事よ」
「全く照れちゃってもう」
「いやあ眩しいねぇ!!」

 勝手にまぶしがる先輩たちを横目に、相澤先輩はさっさと容器を開けると私に渡してくる。温かいものを飲んだからか、先ほどより色付きの良い頬をしている彼は、

「ご馳走様。ーー寝る」

そう言って捕縛道具の次に手から離さない寝袋に入って夢の世界へ旅立った。それを見る私も、

「はい、おやすみなさい」

そう言って満足しながら容器のふたを閉めた。いつものことだ。
 お前ら夫婦かよ…そんなぼやきを後ろに聞くのは慣れたことだ。


体育祭当日の出来事


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