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 司波深雪は言った。

「明澄、いつもより顔が赤いわ」

 山積みにされたゲームソフトのケースや本、漫画、そしてギターやリコーダー、鍵盤リコーダーといった楽器類等々、家具よりも間違いなく趣味の道具が多い横浜市某所のマンションにある栗本明澄の部屋で、旧型3DSを操作する司波深雪はそんな混沌空間を背景に心配そうな顔で言い切った。そして、二人の間に座り、新型3DSを操作する司波達也はいつもの表情の薄い顔で断言する。

「お前、確実に調子悪いだろう」

 一方、深雪に対面するかのように座り、テレビや据え置き型ハードのゲーム機、ゲーミングパソコン、なぜか放置されたハーモニカを背景に、手元で達也と同じ3DSを操作していた明澄は、

「そんなことない…はず」

とどこかへ視線をそらしながら答えた。確かにその顔は赤く、目はどこかトロンとしている。いつもの表情より遥かに弱い印象。そこに起きている異変に、もう3年も付き合いのある彼らが気付かないわけがなかった。

「だって、いつもより怪物狩りもガバガバプレーじゃない」
「深雪の言う通りだ。明澄らしくもない」
「ソ、ソンナコトナイヨー?」

 片言の日本語で返す分かりやすい明澄に、達也はため息をついて想像した答えを述べる。

「もしかして、昨日雨に濡れてそのままにしたのか?」
「ギクッ」
「そんな!かなりの豪雨だったじゃないの!何をしていたのよ明澄ったら!」
「い、いや、ね?お風呂入る前に制服洗濯したりゲームしたり…ほら、一人暮らしだし」
「で、その間はずっと濡れた髪に冷えた体か?」
「着替えたからセ―フ」
「どう見ても今のお前はアウトだ」「どう見ても明澄はアウトよ」
「いや!平気だし!紅茶だって淹れてこれる――」

 突然立ち上がり、紅茶を淹れんとキッチンへ向かおうとした頭の軌道が地面に向かって綺麗な弧を描きーー彼女の意識は飛んだ。


 暗闇の中、意識が浮上する。目を閉じたまま、明澄は己の状態を把握する。
 変な感じだ。熱いのに寒く感じる。やたら身体が重いし、頭がガンガン異常を訴える。額に手を置いてみればかなりの熱を持っていて、喉はかなり腫れている。目を開けると、自分の部屋の天井が見えた。
 すん、と無意識に鼻をすする。すると鼻腔をおかゆのいい香りが満たし、ふと、小学生の自分が体調を崩した際に誰かしらが粥を作ってくれたことを思い出した。最後にこの匂いを嗅いだのは、確か両親が死んですぐ、風間さんが作ってくれた梅干の粥を食べた時。

「……おとうさん…いや、風間さん…むむ…」

 一人そうぼやくとため息が聞こえた。音源の方向へ顔を向ければ、呆れ顔の達也くんがいる。何それ気付かなかった。

「それは本人に直接言ってやれ」
「うげ、…聞いてた?」
「ばっちり聞いたぞ。最初は俺を見て勘違いしたのかと」

 うわ、恥ずかしい。布団を引き寄せて顔を隠す。さらに熱くなってきた気がする。

「深雪は聞いてないから安心しろ」
「何処が安心できるんだか…」

 恥ずかしさに目を泳がせると、達也くんが傍に来て、額に手をのせる。

「……2時間前よりはましか」
「え、そんな寝てたの私…」
「今は夕方の5時だ」
「……あー、ごめん…」
「気にしなくていい。今日はどうせ暇だからな」

 達也くんが起きれるか?と背中を支えて起こしてくれる。何ぞや、と思ったのもつかの間、深雪が湯気の立つお椀や水の入ったコップなどを持ってこちらへ向かってきた。狭い部屋にもかかわらず状況も読み取れないとは、相当私は弱っているらしい。

「明澄。食べれる?」
「……戦場で好き嫌いせずかつ時間を選ばず食べる訓練はしてるよ」
「そうじゃないわよ」

 でもまあ変なこと言えるから食べれるわよね、そう言って深雪は私の傍までやってくると、真っ先に水を差しだしてきた。

「喉渇いてるでしょ?」
「うん。ありがとう」

 そう言って手を伸ばし、コップを手に取ろうとして――そのコップは私の手をすり抜けた。深雪のせいで。何故、という疑問が頭に浮かんだ時にはすでに遅く、深雪の手によって私は水を飲まされていた。

「…?!」
「病人は大人しくしてなさい」

 それちょっと違くない?そう思いつつも仕方がないので口の中に入ってくる程よく冷たい水を飲み込む。喉が腫れているから飲み込むのも一苦労だ。おそろしくきれいな笑みでその動作を成し遂げた深雪は、私が水を適量飲んだタイミングを見計らってコップを私の口から離し、次にお椀を手に取ると匙で粥を掬い取る。そして、

「はい、明澄。あーん」

そう言って満面の笑みで匙を突き出してきたので私はのけ反った。私の脳内で深雪におかゆを食べさせてもらう恥ずかしくかつ百合百合しいイメージが沸き上がった。熱で頭がおかしくなったわけではない、これは深雪がおかしい。そう思いたい。

「待って深雪…自分で食べれる」
「何を言っているのかさっぱりだわ。――はい、」

――はいじゃないって!
 全力でのけ反りながら背中を支えてくれている深雪の兄へと助けを求めに視線を送る。何が面白い、笑うなそこの秘匿された戦略級魔法師…あ、私もだ。

「ほら、冷めちゃうでしょう?」
「いやだから自分で」
「明澄?」
「いやだってそんな恥ずかしいし!ねぇ達也くん?」
「明澄は病人だから大人しくしていろ。何なら俺が食べさせる」
「いやそれは…」

 ついに達也くんからも破格の待遇を申し出されるとは一体私が何をした?!しかも何その彼氏に食べさせてもらうみたいな構図?!ってか私の彼氏じゃなくて深雪のお兄様だし?!ほら深雪の背景が一気に氷点下だよ、これこそ私の健康に悪いから!

「すみません深雪様からありがたく頂戴して食べますそんなブリザードしないで」
「分かればよろしいのよ」

 怖い…やっぱり真夜さんの姪だよ、笑顔が完全に女王様してるよ。しかしもう逆らえないのはわかったので大人しく差し出される粥の乗った匙を口に受け入れる。くそう…

「美味しい…でもめっちゃ恥ずい…」

 何がうれしくてこんな百合百合しい介抱を受け、それを片っぽの兄である達也君に微笑ましいといわんばかりの顔で見られなくちゃならないんだ…しかも背中に腕回してくれてるし。なにこれほんと。深雪がどんどん粥を運んできてくれるが、そのたびに私の羞恥心は跳ねあがっていく。繰り返すことしばらく、ようやっと粥を食べ終えた私は両手で顔を覆った。

「何この羞恥プレイ…」
「これに懲りたらちゃんと身体は大事にすることね」
「……え、これ罰だったの?」

 手から顔を開放し、深雪の顔を見れば彼女は大層満足した表情でこちらを見る。そういえばこの子、お兄様の世話とか甲斐甲斐しく焼くタイプだったな…。

「さすがに一度思いっきり恥ずかしい思いをしたら二度と同じことする気にはならないでしょう?」
「ウイッス……司波兄妹の悪趣味…」
「俺はなかなか楽しかったぞ。明澄が大層恥ずかしそうにしているのはなかなか新鮮だったし、明澄の思わぬ言葉も聞けたしな」
「………ぐうの音も出ないぜ…」

 もう何も言えない。完全に撃沈された私は布団に突っ伏した。そんな私を達也くんが引きはがすように起こし、深雪が私の額に冷えピタを貼った。

「とりあえずもう寝てるだけだし、悪化しそうにもないから俺たちは帰るよ」
「そうですね、お兄様。――じゃあね、明澄。ちゃんと寝てるのよ?ゲームはしてもいいけど10時にはやめてもう消灯するのよ?」
「う…はい、わかりました…」

 なんだかいろいろ説教をされたりベタベタに介抱されたりしたが、とりあえず彼女らは今日の私の恩人なので、玄関まで送ろうと布団を出ようとしたが、達也くんに制される。

「オートロックだし、ここでいい。ちゃんと休むんだぞ」
「……もう何から何まで、ありがとう二人とも」
「いいのよ、だって明澄だもの!――じゃあね、また今度遊びましょ」

 その深雪の言葉を最後に二人は手を振って玄関を出て行った。残された彼女はというと、おとなしく布団に入り、顔を布団に押し付ける。そして、

「もう…風邪はひかん…」

一人羞恥に焼かれていた。ちなみに翌朝、明澄は元気に登校した。

彼女だって風邪をひく


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