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 真田と柳が仲良く帰る――のではなくて上司に連れ去られたそのしばらく後、昼食後に彼女はやってきた。

「明澄ちゃん!」
「あ!きょーこさんだ!」

 響子はしゃがむと、嬉しそうに駆け寄ってきた明澄を抱きしめる。

「うーん、今日も可愛いわぁ。この前あげた服着てくれたのね、よく似合ってる」
「きょうもきれいだね!おようふくありがと、とてもすき!」
「あーもう可愛い…」
「きょーこさんびじんー」

 うへへへへー、と二人揃って同じような弛み顔を見せながら幸せそうに笑う。

 電子の魔女も可愛い子供を前にすれば形無しだということが判明する。ちなみに、彼女は軍服を着ていない。どうやってここまで来たのかは…謎である。
 まあ正直、明澄にはどうでも良いことだ。

「可愛いわぁ…――私いつか、こんな可愛い娘が欲しい」
「じゃあケッコンしなきゃ」
「そうねぇ…明澄ちゃん、髪結んであげる」
「わーい」

 明澄はその場で響子に背中を向けて座ると、響子は二つ結びのゴムを取り外し、カバンから櫛を出して髪を梳く。

「今日はどうしましょうかねー」
「きょーこさんがやってくれるなら何でも!」

 嬉しそうにそんなことを言うので、響子は思わずにやける。明澄に会っている時点で藤林の令嬢である事などとうにどうでもよくなっている。だが、それでも素直な表情は明澄の雰囲気や人柄がなせる技か。

――明澄ちゃんも栗本大尉に似て、相当人を引き寄せる力があるわよねぇ…

 まあ栗本大尉が「来る者選別去る人追わず、されど弱みは握るべし」だから、明澄ちゃんも「来る者選別去る人追わず」くらいにはなるのだろうけど。そう考えながら、手際よく髪を編んで結んでいく。

「出来たわ」

 鏡を明澄に持たせる。すると、ただの二つ結びだったものが頭の両横に編み込みを追加した二つ結びに変わっていた。

「すごい!!!」

 鏡に映る明澄の瞳はキラキラしていて、とても嬉しそうな顔をしてこちらを向く。

「気に入った?」
「とっても!」

 そのまま持ってきたカメラでツーショットを撮り、後日送ることを約束する。

「じゃあそろそろ帰るわね。――怒られそうだし」

 そう言って響子は部屋を出て行く。去り際に笑顔で挨拶するのは忘れなかった。明澄はニコニコ顔でまたね、と見送った。

 それからの時間はゴロゴロしたり、うとうとしつつも警戒心から寝ないよう全力で睡魔と格闘しながら過ごす。

 そして夜。

「明澄ー。帰っぞー」

 父親、栗本大尉こと栗本明人と風間大尉こと風間玄信が入ってくる。娘、栗本明澄は飛び跳ねるように起き上がると、入り口付近の二人に駆け寄り、父親にダイブする。父親は娘のダイブを受け止めて抱き上げた。娘はあのねあのね!と主張したいことを言い始める。

「おとーさん!かざまさん!みて、きょーこさんにやってもらった!」
「おおー、すごいな。凝っている」

 風間は素直にその凝った髪型を褒めつつ、
――また藤林響子は不法侵入したのか!!!
 内心でキレた。まあ、明澄がいるときはもう絶対にやってくるのでもう諦めてはいるが。

「かわいいでしょー」
「うちの明澄は何やっても似合うからいいねぇ」
「出た、親バカ」

 うふふふーと気味の悪い…否、デレデレした表情で娘に頬ずりする明人の姿はもう見慣れたものだ。彼は明澄と同じ色の髪の下からやはり同じ色の瞳をこちらに向ける。軍で活躍している時には見せない笑顔も、だいぶ見慣れたもので。

「風間も妻帯者になってしばらくすれば分かるよ。こんな可愛いものはないさ」

そう言って明澄の頭を撫でる彼は完全に軍人ではなく父親だ。いつの間にか明澄は明人の腕の中で眠ってしまっている。彼女を抱え直して、彼はドアへと足を向けた。

「じゃあな風間、また明日」
「明人は明日もよろしく。明澄にはよろしく言っといてくれ」

 ドアが開き、彼が外に出る。互いに手を振り、ドアが閉まって見えなくなる。一人になった風間は、ぼんやりとした後、

「…明澄みたいな娘だったら、きっと可愛いんだろうなぁ」

彼らしからぬぼやきを残して、部屋は無人になる。そしてしばらくしないうちに照明が落ち、その部屋は今日の働きを終えた。

幼少期の彼女と将来の一〇一メンバー 2


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