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 朝。アッシュは椅子に座り、机に並ぶ目前の物を見て目を輝かせていた。

「凄い…一度作ってみたいと思っていたパルス料理がたくさん…!」

 目をキラキラさせつつ、椅子に座ってウズウズしている。しかし姿勢を崩さず、マナー良く座っているところはアッシュが教育されている事を物語っていた。それだけではない。所作の節々に丁寧さと教育のかけらが見える。テーブルマナーも良くできている、とヴァフリーズは評価した。

 使用人達が準備を終え、ダリューンが少し遅れてやってくる。ヴァフリーズは笑みを浮かべて言った。

「では、いただこう」
「いただきます」

「いただきます!」

 アッシュは幸せそうに食事の挨拶をすると、料理を観察し始める。匂いを嗅ぎ、食べて味を確認する。材料に何が使われているのかをしきりに聞いてきて、答えてやれば嬉しそうに笑うのだ。これにはダリューンもヴァフリーズも驚きを隠せない。ここに来て一度も素直な笑顔を見せなかったアッシュがそれを連発しているのだから。

「叔父上。…なんだかんだ、こういう所は普通の子供ですね」
「そうだな…境遇のせいか暗い影を落とした表情をする事はあるが、これならどうにかなるやもしれん」

 好奇心の塊と化したアッシュに捕まった使用人も気恥ずかしそうな笑みを浮かべながらも丁寧に教えていく。分からないところは後で料理人に聞くらしい。

 そんなこんなで賑やかな食事を終え、食後の挨拶を済ませる。すると、ヴァフリーズは真剣な面持ちでダリューンとアッシュへ声をかける。

「話がある、二人とも私の部屋に来なさい。ああ、アッシュは、少し部屋で休んでからでいい。後で呼びに行かせる」

「分かりました」


 あてがわれた部屋に戻ったアッシュは、ベッドに腰掛けると履物を脱いで膝を抱えた。

――これから、どうしようか。

 多分ヴァフリーズ様の用件とは、私の今後についてだ。私がルシタニアから逃亡した事も、帰る場所がないのも知っている。となると、これから何をしたいかによって、私の運命は変わる。

――旅をしてみたい。様々な場所に行き、見聞を広めるのはいいだろう。剣も弓も程々に使えるから、どこかでしばらく傭兵をするのもいいかも。あと、私の血筋は流浪の民だという話をいつの日か聞いた。仲間を探すのも一手。

 夢が膨らむが、アッシュはふと気づく。

「…どんなに自由でも私、ひとりぼっちじゃないか」

 急に心を孤独が支配する。また、改めて自分が独り立ちするには早すぎる年齢だということを思い出す。そう考えると、私に残されたのは今までに得た知識と武器の技術、奪い取ったこの二つの武装、少量のルシタニア貨幣だけだ。

『アッシュ、お前は頭がいい』

 あの時は褒めてくれたのに。
 次の時にはナイフだった。

『悪魔の子め!この異教徒が!』

 幸せだった頃と、つい最近まで続いていた地獄の記憶が蘇る。同じ登場人物なのに、雰囲気が違いすぎて笑える。血の繋がった親子という関係をもってしても、異教徒であれば簡単に断ち切れる絆だったらしい。

「…ははっ、」

 乾いた笑いが口から漏れる。だが、涙が溢れそうになるのを必死に抑える。私は、あんな人生のために泣くわけにはいかない。これから待つ楽しい人生のひと時のためにとっておくのだ。悲しみより、喜びの涙を流せるように。
 アッシュが涙を堪えるために上を向いた時、自分の名前を呼ばれる。

「主人がお呼びです」

「…はい。案内をお願いします」





朝食


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