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 目の前の人間が持つ容姿に思わず固まる。自分と同じ赤い瞳。過去の記憶の中、村人達――ルシタニアの僻地に住む元流浪の民の末裔と同じ深紅の瞳。まさか、この人は、

「ロタ…もしや、ルシタニア語で"賢者の里"という異名を持つ村の先祖ではありませんか?遠い昔に分化した」
「…そうだな。そうだ」
「ああ…そうなのですか。そうなのですね。ならば私もフードを外すべきなのでしょう」

 イシュラーナはぱさり、とフードを外した。現れた紺色の髪と深紅の瞳が温かい色の光に照らされる。表情の薄いシェゾの切れ長の目が限界まで開かれ、信じられないといわんばかりの表情をはっきりと見せた。

「…『―――――――――』」
「?」

 イシュラーナには、シェゾの呟きの意味が理解できなかった。使われた奇妙な響きの言葉が、言語が彼女には分からなかったのだ。

「……お前、知らないのか…?」
「え…?」

 唐突に発せられるさらに信じられないという声音にたじろいだ。しかし相手はかぶりを振って何事もなかったかのように続けた。

「いや、いい。独り言だ。――で、ルシタニアに定住したロタが何故こんなところにいる?」

 次の言葉はパルス語で飛んできた。イシュラーナは思考を中断し、質問に答える。

「あ…えっと、その。道に迷いまして。ルシタニア兵に出会わないでできるだけ早く、可能なら今すぐにでもペシャワールまで行きたいのですが。あとお水が欲しいのです」

 そう言うと眉をしかめかなり嫌そうな顔をしたので、ああだめかな、と諦めの境地に達しそうになる。しかし、実はそうでないのか、意外な返事が返ってくる。

「ペシャワールか。そうか。…ちと遠いが同胞の望みだ、叶えてやろう」
「…っありがとうございます!」

 だが質問に答えてからだ、と明かりを突き出される。近づくなということか。

「お前はなぜここにいる?」

 それは私が何故パルスでパルス人の服を着てパルス軍の装備でパルスの軍事拠点に向かおうとしているのかを問われている、と瞬時に解析し、さらに自分が答えられることを組み合わせて単純化して答える。

「いろいろあって村を出て、今はパルスのアルスラーン殿下に仕えています」

 そう言うと訝しげな顔をした相手は、

「…ギスカールではないのか?」

と問うてくる。さすがは大陸公路を300年も流浪している民だ、得ている情報の範囲が広い。

「いえ、私はルシタニアではなく、パルスに住んでいるので」
「…………」

 沈黙し、今度はあちらが頭を回し始める。しばらくの時が経ち、彼は何かを納得したようで。そして単純化しすぎた回答でよく思考を広げられるなぁとか思ってしまったが、私の元実家の人々はあらゆることを予測し、正答を見つけ出してきた一族。遠い昔に分かれたとしても、その思考が受け継がれている可能性はあるだろう。

「まあいい、付いて来い。馬には乗るなよ?」

 さっきからルシタニアの騎兵がウロチョロしてるからな。そう言って納得したらしい彼は明かりを消した。そして、私に向かって再びよくわからない言葉をつぶやいた。

「…今度は何ですか?」
「おまじない。まあ、今にわかるさ」

 じゃ、行くぞ。
 そう言ってかなり早足に歩き出したシェゾの後ろに、イシュラーナは遅れないよう必死についていくしかなかった。



 しばし歩き、見知らぬ街道が木々の向こうに見えるようになった。そしてそこにたむろするはルシタニア軍。

「いくぞ」
「待ってくださいシェゾさん!ルシタニア軍です、近づかないほうがいいですよ!」
「いいから黙ってろ。余計な物音を立てるなよ」

 焦るイシュラーナに対し、何の不安もなくむしろ焦る彼女を面倒だとでも言わんばかりの反応を返した彼はずかずかと街道を突っ切っていく。イシュラーナは内心で悲鳴をあげつつ、フードの中では冷や汗をダラダラかきながらその後ろについていく。もちろん、その横には手綱を握られた愛馬もいる。
 不安な顔でチラリと愛馬を見やるが、不安な要素など全くないらしい。ふいと知らんふりをして前を歩く男を見続ける。

 ついにルシタニア軍の目前に差し掛かる。ドキドキしながら足を一歩一歩進めていくが、その音にも様子見も見向きもしない兵士達。驚いて彼らを凝視するが、こちらを見向きもしない。

 言葉を失いながらも前に進み、街道を突っ切ることに成功したイシュラーナは、再度森に入りルシタニア軍の目の届かないところに来た時点でシェゾの肩をたたく。シェゾはというとキョロキョロ辺りを見回して安全を確認すると、振り向きざまに小馬鹿にするように言った。

「ほらみろ」
「信じられないんですけど…?!」
「魔法。姿形が認識されないようにした。万一見られても、お前の髪は金髪に見えるし、目は緑に見える。俺もお前も赤目の人間だとは思われない」

 そう言った彼の瞳も青色に変わっている。ロタである証拠も、イシュラーナである証拠も消し去ったという。何という技術だ。

「ロタの中には魔法を僅かながら使える者がいる。暗躍する魔道ではなく、本当の奇跡である魔法が。そんなことまでルシタニアのロタは忘れたというのか」
「…私にそれはできますか?ぶっちゃけますと、私はそんなもの見たことないですね」

 彼は立ち止まってこちらを見つめる。信じられんという驚愕から哀れな表情に変わっていたので少し腹は立ったが、昔のことだ、もはや気にしている時間も暇もありはしない。じっと見つめ返すと、彼は視線をそらした。

「お前には無理だ。だが、ちょっと普通の人間とも違う」
「?」
「いつか分かるさ。…今夜は野宿だ」

 ランプに再度明かりを灯し、それを地面に置く。

「あ…すみません、もしかして拠点に戻る途中を邪魔してしまいましたか」
「そんなことはないから気にするな。どうせ今日は野宿するつもりで出てきてる」
「その割には軽装ですよね」
「食料は現地調達、簡易テントはローブの中に背負ってきた。武器はいらん。見つかることもないしな」
「便利ですねぇ」
「追われる身でもねえし」
「うっ」

 なんか毒々しい言葉ばかり投げられている。切ない気持ちで沈黙していると、簡易テントを渡され、それを設営するよう指示を受ける。了承すると、食料を調達してくるついでに水を採ってきてやると言われて、彼の親切さにテンションが上がった。しかし、

「……あれ、これどうやって組み立てればいいんだ?」

皆目見当もつかないながらに試行錯誤したテントは組みあがらなかった。その後ぼろくそに怒られ、結局地を這うテンションで食事になった。それからは何事もなく就寝となり、レアな相手との出会い一日目は幕を閉じた。


赤目と赤目の邂逅


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