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「#甘々」のBL小説を読む
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「そうだ!おぬしらを殿下に紹介せねば!」

 ナルサスが思い出したかのように後からやってきた女神官と楽師風の男を紹介する。先にアルスラーンの前に出たのは女神官で、長い黒髪に白い肌、絶世の美女と言ってもおかしくない美貌だ。

「我が名はファランギース。フゼスターンのミスラ神の神殿に仕えていた者でございます。先代の女神官長の遺言により参上いたしました」

――綺麗な人だなあ…

 ダリューンとナルサスの間に立ち、キラキラした瞳でフードの下からファランギースを見つめる。するとファランギースの横に楽師風の男も膝をつき、アルスラーンに礼をする。

「我が名はギーヴ。王都エクバターナより"殿下にお仕えするために"脱出してまいりました」

――うわあ胡散臭い…

 思わずげんなりしてナルサスとダリューンの顔を見上げると、ナルサスはニコニコとしており、ダリューンは警戒してむっすりしている。

「…えっと、まあ…5人が7人になりましたね、兄さん、ナルサスさん」
「まあ戦力が約5割増大したわけではあるが果たして信頼をよせていいものかな。
 ――特にあの男」
「腕は確かだぞ。ルシタニア軍が30万いるとして、1人で4万とちょっと片付ければいいわけだ」
「む……たしかに約5万なら俺1人でなんとか…」

「(本当にやりそうだなこの男…)」
「(本当にやりそうですね兄さん…)」

 1人でブツブツ考える黒衣の騎士を生暖かい目で見守りながら、ナルサスと2人で呆れる。

「それで、二人の影に隠れているフードの人間は誰だ?女なのはわかるが」

 ギーヴが立ち上がり、つかつかと寄ってくる。いや、何もしてないのになんで女だってわかるんだよ「俺は可愛い女の子は見逃さない主義でね」

――心読んでる?!

 イシュラーナが慄いていると、ギーヴは周囲をチラチラ確認する。そして何もいないという判定をしたらしい、綺麗で整った甘い笑みを浮かべ、不審なものはいないからフードを外してみろという。

――でもなんか視線を感じるんだよなぁ…

「……後じゃだめですか」
「今がいい」
「………」
「それとも何か外せない事情でもおありかねおごふっ」

 得意顔というかキラキラした笑みというか、ギーヴがそのような表情で詰め寄ってくるのをダリューンとナルサスが鉄拳制裁する。そりゃあそうだ。二人に挟まれた状態のところに突っ込んできて、さらに無理強いをするようなら義従兄からはもちろん、軍(現在7人)を統率する幹部の一員である軍師――宮廷画家たるナルサスからも制裁されるのは見えている。
 地面に突っ伏す羽目となったギーヴは、涙目につぶやく。

「なんでこんな…」

 しかし意外にも、返答はギーヴの後ろ、女神官から飛んでくる。

「そりゃあそうだ。おぬしのような変態に素顔は見せたくなかろう。それに…」

 ファランギースが横を向けば、皆もつられて横を向く。そして、

「変な気配がしたが…逃げられたのう」

彼女の目線の先で、何やら黒い影が散ってゆく。なんだか気持ちの悪い感じのする気配の元凶はそれだったらしい。

「ほれ、もうこれで言えるじゃろ」

 何かを感じたらしいファランギースがこちらを見て微笑む。絶世の美女の笑みを向けられたイシュラーナは、

――何これかっこよいまじ美人!!!

一瞬で陥落した。まあ、敵意やその他煩雑な感情が向けられた感覚がしなかったというのも大きいだろうが、これで彼女が美人の笑みに弱いことが判明する。イシュラーナはダリューン、ナルサスの元から離れてギーヴを、

「ぐはっ」

容赦なく踏みつけるとファランギースの元へ向かい、フードを外して頭をさげる。そして頭を上げるなりキラキラした、憧れを隠さぬ瞳でファランギースを見上げた。

「イシュラーナです!ダリューンの義理の従妹で、殿下にお仕えしています!」

 獣がなついた時に似た、尻尾を振るかのような雰囲気に周りは思わず苦笑する。当の女神官はくすりと微笑みながらよろしく頼む、と返す。

「お、俺は…?」

 こちらを見ているギーヴがかすれた声で問いかけてくるのを、

「はいはいよろしくお願いいたしますねギーヴさん」

さらっとあしらってファランギースに話しかける彼女の姿はもはや飼い犬のようである。というかなつきすぎである。
 そして、物の見事に撃墜されたギーヴは地面に突っ伏し、己の敗北を嘆いていたとか。




「よかったな。やっと新しく女性が入ったから、彼女もホッとするところがあったんだろう」

 ナルサスが呟けば、隣から同意される。そしてお互い顔を見合わせると同じことを考えていたことに笑う。

「もうナルサスも完全にお兄さん気分だろう」
「そうかもしれん。どこぞのいとこ同士のやりとりを見ていたらそりゃあな」

 ギーヴからイシュラーナを守るファランギース、ファランギースにべったりなイシュラーナ、イシュラーナに寄り付こうとしてファランギースに殴られるギーヴ。一部剣呑なようで穏やかな様子を見て安心したらしい、ダリューンは笑顔で義従妹を見ている。彼だけでなくアルスラーンやエラムも楽しそうに笑っている。

――いい風潮だ。新しい二人がいい風を吹き込ませたな…

 ナルサスも良い雰囲気に頬を緩ませる。そしてどこか緩んではいるがキリッと良い顔になると、ダリューンに宣言する。

「まあさておき…行くか、エクバターナへ!」
「ああ、行こう」


 悲しい別れを受け入れつつ、どんどん味方を増やしていく王子アルスラーン。アルスラーン一行は王都、そしてパルスをルシタニアから奪還するべく進撃してゆく。
 彼らの行く先はパルスの復興か、死後の地獄か。
 それを知るものは未だいない。

彼女は○○に弱い


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