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「#甘々」のBL小説を読む
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「お、ヴァフリーズさんのところのお嬢ちゃん!」
「あ、こんにちは果物屋のおじちゃん」
 
 エクバターナ城下町。退屈で町へ出てきたイシュラーナは知り合いに声をかけられる。彼は果物屋を営んでおり、パルスの新鮮な果物だけでなく大陸公路を遠路はるばるやってきた果物の加工品なども販売している。ヴァフリーズ邸に食品を卸している店の一つで、好奇心の塊イシュラーナにつかまっても嫌な顔一つしない。それどころか果物に関する質問であれば彼女が満足する答えを持っている果物王である。

「ちょうどよかった。新商品なんだよ、味見してくれ」
「やったー」

 干した何かを受け取り、匂いを嗅ぐ。黄色くて輪状、甘い糖類の匂いがする。一口かじってみると、甘味が口の中に広がる。

「おいしい。すごいおいしい」
「まじか。売れそう?」
「これは売れる」
「よっしゃ。明日から売り出すぜ!名前はパイナップルだ!」

 うっへっへ…と怪しげな笑いをするおじさんに、好奇心の塊を発動させたイシュラーナは一つ質問をする。

「これ…パイナップルって何かの料理に使えない?」
「お、いいことを聞いてくるな!これとしょっぱめの下味をつけた肉を葉でくるんで蒸し焼きにしてみろ。うまいぞ」
「…それ本当?」

 イシュラーナの赤い目が輝く。やってやる、という意志さえ見える。その様子を見たおじさんは満面の笑みでこう答えた。

「取引先が食わせてくれたんだがマジだ。いけるぞ」
「…それ、明日うちに卸してくれませんか」
「安心しろ、今日一日早く卸しておいた。家に帰ってみればあるはずだ」

「ありがとおじさん!」

 イシュラーナは踵を返して家へ走り出した。おじさんは「彼女にここまで興味持たせるなら、こりゃマジで売れるな」と一人明日の商売を想像して笑った。

 一方イシュラーナは自宅へ走りつくと手を洗って部屋着に着替える。そして厨房へ早足に向かうと、料理長を呼んだ。

「何ですか、お嬢様」

 中肉中背の料理長はやってきたイシュラーナにお茶を勧める。彼はイシュラーナがまだアッシュだった時にパルス料理を説明した使用人の一人で、よく料理を作ったり習いに来たりする彼女を気に入っている。

「晩御飯の予定はもう立ててしまいましたか?」
「いえ、これからです」
「パイナップル使いますか」
「あれ使い方がわからないんですが…」
「…ちょうどいいです。聞いてもらえませんか?」
「勿論です」

 料理長はイシュラーナが何やら考えていることを理解した。紙を束ねたファイルがたくさん並ぶ棚から新しい紙と筆記用具を取り出し、ペン先にインクをつけて、興味津々そうな表情になる。そして、彼女が厨房へ駆け込んでくるときに必ず言う一言を告げる。

「さあお嬢様。今日の新レシピをどうぞ」




 夜になり、王宮仕えの騎士二人が帰宅を果たす。

「ただいま戻った」
「お帰りなさいませ、ヴァフリーズ様にダリューン様」

 使用人の出迎えを受けながら、二人は異変に気付く。

「イサラはどこだ?」
「お嬢様なら今、厨房にいらっしゃいます」
「また何か作っているのか」
「何でも、パイナップル料理だそうで」

 ダリューン、ヴァフリーズ両人が「なんだそれ」という表情を互いに向けるが、どちらも知るわけはなかった。もちろん使用人も。首をかしげながら二人が着替えるために自室へ戻っていく。

 
 着替え終わってリビングへ向かうと、ちょうど料理を並べ終わったところだった。各人のテーブルのところに、葉に包まったメインディッシュが並んでいる。一人イシュラーナだけが座っていて、見た目からありありとテンションの高さがうかがえる。いつもより一層濃い笑顔が二人を迎える。

「お帰りなさい、父さん兄さん」
「ただいま」
「ただいま、イサラ。…この料理は何だ?」
「気になっちゃいますかー」

 うふふ、とにやけながらイシュラーナは男性二人分のメインディッシュを開く。包まっている葉をどけて、甘い香りが室内に充満する。中には肉とパイナップルの果肉、ソースが見える。

「とりあえず席について食べてみてください」

 言われたとおり男性二人は席に着き、三人そろって食前の祈りをささげる。そして、イシュラーナの期待の視線を受けながらその肉を一口食べた。

 二人の時が止まる。しばらく無言でその肉を味わい、飲み込んだ。先に復活したダリューンが叫ぶ。

「…美味い!美味いぞこれ!」

 がつがつとその肉料理を口に運び続ける。一人目の反応を見ていくらか安堵したイシュラーナは二人目に視線を向ける。その二人目は長い時間を無言で過ごしたのち、

「…美味い」

そう一言つぶやいて、やはり口に肉料理を運ぶ。イシュラーナはにやけ顔で横を向き、ダリューンたちが入ってくるときから心配そうにこちらを見ていた料理長に「やったね!」と合図を送る。料理長は満足そうに頷いた。
肉料理の虜となったダリューンは従妹に問いかける。

「イサラ、この果物?はいったい何だ?とても美味いのだが」
「パイナップルです。果物王が販売より一日早く我が家に卸してくれた新しい果物です」
「すばらしいなパイナップル。マジでこれは美味い」
「よかったです。……うん、おいしい」

 イシュラーナも自分の分のメインディッシュを開封し、中の肉を食べる。肉の臭みが消え、甘みと肉汁が絡まってとてもおいしい。工夫の余地はありそうだが、当分これで食べても満足できるレベルだ。やばい、おいしい。

「恐ろしく美味いな…パイナップルだったか」
「そうです、気に入りましたか?父さん」
「気に入った。これは明日から当分品薄だろう。果物王に感謝だな」

 ヴァフリーズの満足そうな様子に、イシュラーナも満面の笑みを浮かべる。

――果物屋のおじちゃん、明日からきっとヴァフリーズ邸でもパイナップルバカ売れだよ!

 次は何にしてやろうか、と考えながら、イシュラーナは新料理の夕食を楽しんだ。


一つの肉料理による事件《前》


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