×
「#切ない」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

「…眠い」

 朝、イシュラーナはいつもと同じ時間に目を覚ました。ふあ、とあくびをしながら伸びをしてベッドから降りる。顔を洗って髪をとかし、いつも通りの私服に手を伸ばそうとして――

「あ、」

 いつものクローゼットよりも右側に手を伸ばす。その先にあったのはフォレストグリーンの布地を基調とした上衣と白を基調とするズボンだった。この前取りに行った新しい服。イシュラーナはゴソゴソと着替え、同じくおろしたてのブーツを履けば支度は終わる。

「おはようございます、イシュラーナ様」
「おはようございます、皆さん」

 リビングへと向かえば、使用人の皆から声をかけられる。それに応え、準備してもらった朝食を眺めながら義父と従兄を待つ。そう時間のかからないうちに待ち人二人はやってきた。

「おはようございます、父さん、兄さん」
「おはよう」「おはよう、イサラ」
「似合いますか?これ」

 イシュラーナは嬉しそうに立ち上がると、新しい服を自慢するかのようにくるりと回って見せる。服だけ見ると男の子のように見える―実際男装なのだ―が、ほかにも日常着や女物の服も買い込んである。その中から今日それを選んで着たのにはわけがある。

「王宮に行くにはばっちりだ」

 ヴァフリーズの言う通り、王宮へ行くのである。
 イシュラーナは義理とはいえ"大将軍ヴァフリーズ"の娘となった。それは王宮に出入りを許される貴族の娘になったということを意味する。となっては一度は王と王妃、王太子に謁見して自己紹介をしておく必要があるのだ。

――まぁそれに、将来の職場となるやもしれぬ…

 この娘は頭が良い。普通の貴族の娘のように裁縫、テーブルマナー、淑女としての云々などをやって過ごすような娘でもない。確かにそれらも教えてはいる為平均以上にはできるのだが、それよりも勉学、剣術、戦術に興味を示す。この娘が将来、家で普通の貴族女性をやるよりも文官もしくは騎士として働くほうがしっくりくるはずだ、とヴァフリーズは考えていた。

「どうですか、ダリューン兄さん」
「似合っているぞ、イサラ」
「なんか昔に絵本で読んだ勇者様みたいなんですよこれ!」

 キャッキャと喜ぶイシュラーナを落ち着かせて席に座らせると、食前のあいさつを済ませて朝食を開始する。

「イシュラーナ、今日は王宮へ行くが…」
「はい。いつも父さんと兄さんが働きに行っている場所ですよね」
「まぁそうだ。食事しながらで悪いが少し説明をと思ってな」

 わかりました、とうなずいたイシュラーナへヴァフリーズは解説を始める。

「今日お会いする王族の方は三人。まず初めにアンドラゴラス国王陛下、次にタハミーネ王妃。あいさつ程度で済む予定だが、質問等があればできる範囲で答えればよい」
「はい」
「そして最後にアルスラーン王太子。殿下にはわしが剣術を教えている。この三人はバラバラで謁見する予定なので、疲れるかもしれぬが一日頑張ってほしい」
「分かりました」

 イシュラーナは脳内で三人の名前を反復して覚える中、手を止めてふと思った。

――王族…ということは家族なのよね?なのに何で謁見のタイミングがバラバラなのかしら…

「何か質問はあるか?」

 ヴァフリーズが問いかけてくるが、イシュラーナは首を横に振り、いいえと反応を返した。

――まぁ、会えば分かるか

 嫌な予感を振り払いながら、彼女は再び朝食を再開した。

王宮へ行く


戻る