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だが、何にせよ僕には関係のないこと。
心療内科も犯罪も、所詮心の弱い人間にだけ起こり得ることであって、該当しない僕とは無縁の話題だ。
異国の地の話のようにすら思う。
そんなことを考えて、エスカレーターにできた長蛇の列に並びながらぼんやりと先を眺めていると、僕の三つ前で男女が揉めていることに気付いた。
周囲の人の注目を一気に集めてしまっているほど、二人の声は大きい。
「ちょっとアンタ……! 目おかしいんじゃないの!? 私の方が先に並んでたのよ……!」
「ちげぇよババア! こっちの列が本物なんだよ!」
どうやら、男性が列に横入りしたらしい。
ただし、列が二つできているあたり、どちらが横入りにしたことになるのかは甚だ疑問だが。
それはさておいても、こんな些細なことでここまで派手に言い合えるとは。
「馬鹿らしい……階段でいこ」
ポツリと呟いた僕は、エスカレーターの横にある階段を下りた。
この先は、副都心線のホームになっている。
階段を下り終えると、冷たい風がどこからか吹き込んできた。
もちろん、ホームにも人が溢れていて、誰がどの乗車口に並んでいるのか見極めることはほとんど不可能に近い。
しかし、この光景に幾分慣れたように思う。
いつものように、電車を二本見送ってから、乗車した。
この過程にも、ストレスを感じることはなくなっていた。
吐き気すら覚える人の多さを除いては。
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