すがるようにキスして「ごめん、オレ、もう行かなきゃ」
「行かなきゃって、どこに…？」
突き放された子供のような目をして、ミヤビちゃんはオレの腕を抱くようにして引き留めた。
「ごめん」
「やだ…」
こんなに聞き分けのないミヤビちゃんは初めてだった。
今にも泣き出しそうなくらい顔を歪めて、てこでも離さないとでも言いたげにぎゅうとオレの腕を抱き続ける。
罪悪感が身体中を満たしていくのが分かった。
「嘘つき……っ」
「ごめん、ミヤビちゃん」
ごめんしか言えないオレのこと、許してくれるわけがないね。
旅の通過点にしかなり得ないこんな町で出会った君のことを好きになるなんて、これっぽっちも思っていなかったんだ。
無責任なこと言ったなって、今さら思うよ。
「好きって言ったの、ファイなのに」
ついには泣き出してしまう君を抱き締めるのも無責任なのだろう。
「嫌いになった？」としゃくり上げながら尋ねてくるのには、オレまでもが心を締め付けられ、悲しくなる。
「やめてよ、離してよぉ……」
「嫌いになんかならないよ、ずっと好き」
「でも、行っちゃうんでしょ…？」
オレの胸の中で顔を上げ、濡れた瞳で見つめてくるミヤビちゃんにドキリと胸が高鳴る。
しばらくドキドキしたまま見つめ合うけど、溢れてきた涙を拭うためにか再び胸に顔を埋めようとしたミヤビちゃんの頬に手を添えてそれを妨げた。
「もっと顔見せて」
「……」
「今はやらなきゃいけないことがあるから行かなきゃいけないけど、また会いに来るよ。必ず」
ミヤビちゃんの頬に伝う涙を指で拭いながら諭すように言い聞かせた。
「ほんとに？」
「うん、ほんと」
だって、オレのほうだって別れるのは悲しいんだから。
「ね」
それでもどこか信じきれずにいたミヤビちゃんの唇を奪って、より強く抱き締めた。
ミヤビ苦しげに呻いたのもつかの間、あとはオレの背中に手をまわして応えてくれた。
「続きはまた今度、また会ったときにね」
「…ええ」
温もりが離れていくのはとても切ないことだけれど、最後じゃないって誓ったから。
「またね、ミヤビちゃん」
「……うん。またね、…ファイ」
(了)
※お題配布元…確かに恋だった 様
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