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じ、とその男の背中を見つめる。筋骨隆々では無いが、頼りなくは無い。年季の入った何かを思わせる背中だった。

「四木さん」
「何ですか」
「俺って男の中ではいいほうですかね、抱くのに」
「さあ、そうなんじゃないですか」

無意味な問い。では何故それを聞いたのかと言われればそれは、結局諦め切れていないから聞いたのだが。何を、とは言わない。
「そうですか。よかったです」

無言。睦言が無いのは二人は恋人な訳ではないから当然と言えば当然だが。間もなく四木が上衣に手を伸ばしたので、臨也もそろそろ起き上がる事にした。ああ、無意味だ。放られた服に手を伸ばすのも面倒だった。視界に現実味がない、のは、日常生活が観察行為である臨也にとってはある意味常にの事であったかも知れないが、この現実味の無さは違え様も無く、現実から生まれてくる類のものだった。
目前の服に伸ばされる自分の手。


ああ、無意味。







「シズちゃんさあ、ほんっと公衆の害だよねえ。いくら物壊せば気が済む訳?」
「うるせえ。手前も全く人の事言えねえだろうが!!」
ブォン、という音と共に、咄嗟に横に避けた臨也の傍を道路標識が通過する。避けた勢いそのままに再び走り出した。ああ、不毛だ。しかし無意味ではない。やめてはならない。この不毛な追い駆けっこはやめてはならない。そう、無意味ではない。しかし不毛だ。途中、携帯が鳴った。しかし無視だ。今重要なのはそれではない。後ろからは相変わらず静雄が追い掛けて来る。角を曲がるタイミングで、ナイフを投擲。どうせ刺さらないし掴まれるだろうし意味ないけど、まあ、挑発だ。更に角を曲がって路地を走り、走り、走り。
そして今日はなんとか、撒いた。






玄関を潜ると、どっと疲れが押し寄せて来た。体を引っ張る様に歩いて、ソファーに倒れる。薄汚れたコートと手の掠り傷が目に入った。頭が、痛い。胸が、痛い。息が、苦しい。いつまでも続く不毛。しかしいつ突然終わるやも分からない。終わっても終わらなくてもどちらにせよ終着点は見えない。ああ、現実味が無い。頭が痛い。彼は今何をしているだろうか。あの先輩の田中トムと後輩のヴァローナと仕事を再開しているのだろう、多分。週末にはもしかしたらまたヴァローナとケーキでも食べに行くのだろうか。粟楠茜と遊んでやったりするのだろうか。賑やかだ。



閉じたままの口が開いて息を紡ぐ。




『シズちゃん』





…ああ、頭が痛い。










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