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ぽたりぽたりと、ゆっくりと滲んで零れるように景色が、視界に色がついていって、静雄は目蓋を開けた。


「シズちゃん、おはよう」


ああ、おはよう。


臨也が笑ってそこに立っている。今日は何をしようか。とりあえずそこのテーブルに着いて、一緒にカフェオレでも飲まないか。


「そうだね」


臨也が言った。抱き寄せれば馴染んだ甘い臨也の体臭と控えめな体温が体を満たす。声にならない吐息を漏らして臨也が恥ずかしそうに、嬉しそうに自分の体に包まれる。
それとなく見上げるそぶりをする臨也に、キス。今度こそ吐息は鼻から抜けた様な声となって、臨也の口から漏れた。
そうしてしばらくしてゆっくりと体を離して、えーと、じゃあ俺が淹れるね、と言った臨也にカフェオレを任せてテーブルに着いた。


コポコポ、コポ。


耳の底に沈む様な、あるいは泡沫の様なあるいは誰も居ない水族館の無音の水中トンネルで聞こえてきそうな音が、コポコポ、コポコポと鳴って、そのコーヒーメーカーの傍では臨也が穏やかに、コーヒーの淹れ終わるのを待っている。
かちゃかちゃと、ひっそりとゆっくりとした音を立てて臨也がマグカップを二つ準備して、細い指でカフェオレを作り始める。


香ばしくて苦いコーヒーの香りが相変わらず漂っていて、その中にカフェオレを作る音。静かに待つ自分。


はい。
おう、ありがとう。


そんな応酬をして、臨也がテーブルに着いて、一息吐く間にカフェオレを一口啜る。甘い、美味しい味がした。


「ねえシズちゃん」



そうだ、今日は朝早くから仕事に行かなければいけない。そう思い出すと、もうあまり時間は無かった。



「もうあんまり時間ないでしょ?俺に構ってないで早く行きなよ、時間なくなるだろ」



そうは言ってもまだカフェオレがあった。甘い、美味しい味の、−−−懐かしい味の、



「カフェオレならこんなのまたいつでも作ってあげるってば。俺のせいで遅れたとか嫌だからね?」



言われて、そんな臨也の相変わらず微妙に素直でない心遣いに感謝と踏ん切りをして、よしじゃあそろそろ、出かけるか、と席を立つ。



「携帯とか忘れてない?…だから、…」



出る前にやっぱりもう一度こいつを抱きしめて目を閉じる。満更でもなさそうな微妙な抗議を適当に宥めて感じる、馴染んだ甘い体臭と控えめな体温、と、懐かしさ、




「はい、ほら、構ってないで行ってらっしゃい」



−−−かまってないで、


ただその言葉だけが川の底の澱の様に耳の底に、静かに残る。




ああ、行ってきます、そう言って目を開けて体を離すその瞬間にコポコポと、さっきの音の様に無音に、感触が滲んで零れて泡沫の様になくなっていってそうして、
夢は終わって、











朝の光を透過した、部屋の空気と見慣れた天井。










なんて事はない清々しい朝だ。いつもと変わらず開かれた目には光の通過する薄いカーテンが入る。朝に弱い体をしばらく放置していると、そうだ、今日はすぐ仕事だったな、そう思って、ようやくベッドから降りて立ちあがり、大きく伸びをする。眠い。
ゴキ、と体を捻って音が出る。そうしている内に少しだけすっきりというかさっぱりして、カフェオレが飲みたくなったが、自分だといまいちうまくできないので作らなかった。
どうせ、さっき飲んだ。少しだけ。




泡沫のような、夢の中。









カーテンを開けて部屋全体に光を入れて、掛け布団のせいでそこら中に舞った埃を見ながらベッドサイドテーブルの上のガラスの写真立てを手に取った。

明らかに照れた様な、それを隠そうとふてくされた様なそんな表情をした、もうこの世から降りていった人間の唯一自分が持つ写真がいつもそこにあって、

















たいようののぼるころには、おはようといってキスをする















(きみはもういないけれど繰り返されて朝日は昇る)















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