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人間って、なんだろうか――――ぼたぼたと垂れる排水管の水を見ながらそう思った、それは自分の心の多くを占める大切な愛への非常に大きな問題だ、大好きな人、人、人、人全員だ、雨が降る、排水管から水が垂れる、ぼたぼたと垂れるその水の様に垂れ流される人間全員が大好きだ。目下の水がぼたぼたと垂れていくのと同じ様に垂れていく人間全員だ。ちょっとぐらい減ったって何ら問題では無い、代えはいくらでもある。きっと君がいなくなった事なんて誰も知りやしないさ――もしくは誰かの記憶の底に落ちて滲んで馴染んで人生経験の一部にでもなってお終いだ。程度の差こそあれ一人で生きてる人間なんていないのだから皆きっとそうだよ。何て愛に溢れてるんだろう。何て素晴らしいんだろう。それなのに人間というのは一つになる事は決して無い縦の繋がりだ。ああだから人間というのは素晴らしい、何て愛に溢れ何て残酷で何て矛盾して、そしてこの世界は色に満ちている。



満ち満ちている。



だからお前はいらなかった。


いらなかった。



ぼたぼたと垂れ流れていく色々な色の極彩色、に満ち溢れたこの世界以外いらなかったのだ、例外など無かった筈だった、そんなもの無かった筈だった。





左手にナイフ、腕を持ち上げると掠った親指から血が垂れた。真っ赤な血の一滴が嫌にゆっくりともったいぶって落下した、アスファルトの地面に染みを作る間もなく地面に染み込んだ雨に溶けて滲んで分からなくなった。


じっと地面を見つめる、雨がアスファルトを控えめに打つ。じっと、じっと、じっと見つめてそうしたらまるでこの地面と雨と空気の向こう側に飛び込まなければならない様な気持ちになって、それが恐ろしくて走り出した。




ひたすら走る、身体の内の鼓動と口から零れ出る息遣い、そして雨の音が聞こえる、それ以外は全てが遠くにあった。きっと手を伸ばしても届かない遠く――それを打破しようと必死に走る、彼を見つける為に、彼が自分の名前を呼ぶのを聞く為に、彼が離れていかない様に、何故ならなんて理由は至極簡単だ、そんな事もうずっと分かっているのだ、見えすぎていて、だからもう言葉になんてしたくなかった。
それだから、


「いいいいいいいざあああああやああああああ!!!!!!!!!!逃げるなああああああああ!!!!!!!!!」



交差路に出て右を振り向くと静雄がそう叫んで一気に駆け寄ってくる、はっきりとした質量を持ってこちらに向かってくる。それに向かって突っ込んでいく。



ぼすっ、と音がして、静雄の胸の内に入り込んで、抱きついた。抱きついてそのまま、微動だにしない。



そんな事をされた静雄はと言えば臨也が走って来た辺りからその顔に不機嫌を浮かべて溜息を吐いて、そうして案の定胸の内に突進して来た臨也を緩く抱き返した。それから頭を撫でて、背中をさすった。だってこの男はきっと今――能面の様な、泣きそうな顔を、限りなくぐにゃりと歪んだ顔をしているだろうからだ。



「家、寄るか」




少しして雨に濡れた重たそうな、それでいて今すぐにでも握りつぶせる様な頭が縦に振られた。それを見て未だ抱きついている臨也から一歩離れる。臨也は下を向いたままだ。自分も濡れている事は差し置いて、全身が雨に濡れて重そうだと思った。それと同時に雨の中に滲んで消えて行きそうだった。


一歩離れるとぴくりと臨也が反応して、僅か顔を上げて静雄の方へ歩を向ける動きをした。おい、と呼びかける。その後にいつも悪態の様に言う置いていくぞという言葉は発さない、発する筈がない、だってそれはこんなにも立つ場所も分からず立ち尽くす人間に対して言う様な言葉ではなかった。立ち尽くす中でそれでも今歩を向けようとしている人間に向ける言葉では無かった。


だからその言葉の後には間髪入れずにこう言うのだ。






「行くぞ」









灰色に染まる地面の上を、二つの影が歩いて行った。





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