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ぽた、




ぽた、ぱた。




真夏は水分が良く蒸発する。
更に言うなら水分が良く凝結する。




先程から彼、折原臨也は床に座り込んで目の前のテーブルに置かれたアイスコーヒーを見つめている。真っ黒い、だがコップの淵を見るとコーヒーは透けて見えて、コーヒーが水と粉からできている事が良く分かる。コップの外側は水分で濡れていた。




ぽたり、とテーブルに滴が落ちる。




ポリウレタン塗装の天然木加工、つまりはありふれたテーブル、の上にありふれたコップが一つ、の中に高級豆で淹れたコーヒー、イコール、キリマンジャロ。豆とコーヒーメーカーは以前彼が勝手に静雄の家に持ち込んだ物だ。




ぽたり。





彼はコーヒーを見つめている―――気もすれば、同時にコップの周りの水分も見つめている様だ、それか水分の滴っているテーブル、かと思えばその周りの空気の様な気がする、とどのつまり何も考えていないのか何かを考えているのかわからないがそれ故にずっと中空を見ているらしかった。ああまあ、こいつに限って何も考えていないというのは可能性が低いのでどうせ後者だろう。



なので無視している。―――ここは褒められるところだ。何故なら鬱陶しい奴の正にその鬱陶しいのに切れないで無視しているのだから。





ソファーに座ってそれを何の気無しに眺める、コーヒーを淹れてからどれ位経過しただろうか、まだ一口も口が付けられていない筈だが、既に氷が溶けかかっていた。





静雄の目に一枚の絵画が出来上がる、メインとなる人物は心ここにあらず、どこか中空を見ているので絵画の向こうには更にもう一つ別の何かがあるらしかった。






ふと、ソファーの横のテレビラックの上、円筒型のペンスタンドが目に入る。



何となく、おもむろにそれに手を伸ばす。中身を全部出して抜いて、それからソファーの前のテーブルを挟んで目線の斜め下、相変わらず間抜け面を晒している奴に向かって何となく、










投げた。







「!?………っつ……っ!」
ゴンッ、と、黒い頭が鳴って揺れた、というか叩きつけられた。かなり痛そうだ。今まで散々ぼーっとしていた様だが痛覚はあったようだ。まあいいザマだが。





「…いきなり何?ふざけるなよ鳥頭」



「手前こそいつまでその間抜け面晒してやがんだ良い加減にしないと殴るぞ」




「……………、」





いきなり、臨也が押し黙り、再び沈黙が下りる。





…また何かあるのか。





「…あ?」




また何か、そう思ったところで臨也がこれもまた急に立ち上がった。テーブルを回って、臨也がこちらへやって来る。ので、とりあえずその顔を見た。無表情な様な憮然とした様な、まあこいつの数少ない素の表情だった。それを言うならさっきまでの間抜け面もそうだが。





と、






落下する様にぶつかって来て、キスしてきた。




一瞬面食らった。

が、まあいい。俺達の関係そのものが大概、遠慮も何も無いものなので大体の事がいつも唐突だった。



背中に手を回して、こちらからもキスに応じる。ああ、やっぱ今日こいつごちゃごちゃ考えてやがったな。





「…ねえシズちゃん、シよ」





ああ、そう、その顔だ。こいつはそれで良い。さっきまでのふ抜けた面より今のがよっぽど良い。



それで良い。




ちらりと結局口の付けられなかったコーヒーを見る、氷が完全に溶け切って水とコーヒーが分離して、コップの周りの水分も随分少なくなっていた、あれ、そんなに時間が経ったんだったか。まあ、何にせよもうあれは捨てよう、俺はコーヒーを飲まないしあいつもどうせもう飲まないだろう。それに捨ててもどうせあいつのだ。







一瞬の内にそんな事を思うでもなく思って、目下の細い肩を掴んでソファーに押し倒した。












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Habenaria radiata = 花言葉「夢にまであなたを想う」





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