ある日の午後、いつも名前がコーヒーを入れる時間、パカリと蓋をあけるとインスタント用のコーヒーの粉が切れていることに気がついた。このコーヒーは新宿では買えず、池袋か、東京駅にしかない店舗のもので、ネット販売もしていないので買いに行かねばならない。

少し考えて池袋に行くことに決めた。


「臨也さん、あの、コーヒーが切れてしまったので買い出しに行ってきます。何か買ってくるものはありますか?」

「あのさぁ、俺が君にお使いを頼むと思う?君に頼むくらいならその辺の猫にでも頼んだ方が確実にこなすだろうね。ていうかコーヒーがないのだって君が君の為に淹れて、君が飲むものだろう?そんな無駄の為に俺が君の給料にその分プラスするの嫌なんだけど。俺が飲まない時点で俺のじゃなく君のコーヒーなんだから君持ちでいいよね?あと買物に行く時に俺にいちいち確認しないでくれる?それに「買い物に行くならそのメモのもの買ってきてくれるかしら」…波江さんさぁ、俺が話してる時に被せるのやめてくれよ」

「あら、特に内容の無い無駄口だったから良いかなと思ったのだけれど、何かまずかったかしら」

「まぁ別にいいけど。良かったね、君。仕事できたじゃない」

「あ、はい。このメモ…であってますか?」

「ええ、お願いするわ。お金はあとでその男にレシート渡しておいてくれればいいわ。」

「わかりました、失礼します」

「しばらく帰って来なくていーからぁ」



ガチャリ、パタン。

静かな音を立て名前が出て行く。
波江は仕事を続ける。臨也も自分の趣味であるチャットへダイブする。

甘楽「こんにちはー!!甘楽ちゃんでぇええすっ!あれぇっ!?誰もいなぁい!甘楽さみしい〜!」

---田中太郎さんが入室されました。---
田中太郎「こんにちはー。あれ、甘楽さんだけですか?」

甘楽「田中太郎さんいらっしゃぁい!そうなんです。みんな私を一人にして虐めるんです!」

---セットンさんが入室されました。---

セットン「こんにちわー」

甘楽「あ、セットンさんもいらっしゃい!わぁい突然賑やかになりましたね〜!嬉しい☆」

甘楽「あ」

甘楽「そういえば聞いてくださいよぅ!私今の職場で、とある女の子と働いてるんですけど、上司が頼んでもないのに毎日同じ時間にコーヒー淹れて、上司はいつも飲まないんですけど、コーヒーは減っちゃうから今もわざわざ買いに出てるんですよ〜、何がしたいかわかりませんよね!まったく!」

セットン「えええ、わかりまくりですよ〜。毎日コーヒーを淹れてるのに飲まないんですか?その上司さん」

田中太郎「その上司さんは男性ですね、しかも女の子よりも年上の」

甘楽「そうですけど…皆さんはなんで彼女がこんな行動するかわかるんですかぁ?!」

セットン「ええ。その上司さんは年下の女の子その行動にどういう風に言ってるんですか?」

甘楽「え?あぁ『不味いコーヒーを淹れるな』とか、『時間とお金の無駄』、とかですかね」

田中太郎「うわぁその上司さん最低ですね。女心を知らないんですかね…って自分も言えたことでは無いかもですけど。」

セットン「田中太郎さんのいうとうりですよ。その子には他の人を進めたいですね」

甘楽「え?え?皆さん!甘楽ちゃんが置いてけぼりですよ!」

田中太郎「甘楽さんは相談とかされないんですか?多分ですけどその女の子は上司さんが好きなんだと思いますよ」

セットン「うん。コーヒーを淹れてるのはその時間に上司さんが何か飲み物を探すそぶりがあるからじゃないですか?」


甘楽「最初は上司を好きって感じだったんですけど〜今はどうなんでしょうね〜。その上司さんはその子に結構当たりが強いんですよ〜」

田中太郎「え、そういうのってパワハラとかになったりしませんか?」

セットン「あぁパワハラってOLの方とか結構あっていらっしゃるみたいですね。相談出来なくて大変だってテレビでみました」

甘楽「あ!話振っといてごめんなさい(´・ω・`;)電話来ちゃったので落ちますー!」

---甘楽さんが退出されました---

田中太郎「行っちゃいましたね」

セットン「あれ?その上司さん『不味いコーヒーは淹れるな』って言ったんですよね?それ飲んでるから言ってるってことですかね?」

田中太郎「あー確かに!なんだ、上司さんもちょっとは気にしてるかもしれませんね」

セットン「でも、飲んでもいないのに言っているって可能性もありますよ」

田中太郎「もしくは本当にその子のコーヒーが不味いって線もありますね。何はともあれその女の子には幸せになってほしいです」

セットン「そうですね。あ、同居人に呼ばれてしまったので私も落ちますね。」

田中太郎「じゃあ、自分も」


---セットンさんが退出されました---
---田中太郎さんが退出されました---



「ふぅ、何がパワハラだ。辞めて欲しいのに辞めてくれないっていうのも上司に対するパワハラじゃない?」

「仕事しないでぶつくさ文句言ってるだけなら私帰っていいかしら?今日は誠二があの泥棒猫と会わずに帰ってくる日なの」

波江が至極面倒臭そうにそう言った次の瞬間電話がなった。折原臨也のプライベート用のスマホの着信音だ。
掛けてきた人物を確認して無視した。

敢えて取らなかった。しばらくして電話は鳴り止み静寂が訪れる。

「波江さんさぁ、弟を鬱陶しいと思ったことが一度もないの?」

「はぁ?あるわけないじゃない、愚問ね」

「はいはい。ごめんごめん」

暇だったから話しかけたがまぁ会話が続かない。
再び静かになった。
ガチャ、と扉の開く音がしてあの娘が帰ってきたかと視線をパソコンへ向けたがダッダッダッと2人分の足音を立ててすごい勢いでこちらに向かってきた何かが臨也に突進した事で静寂は壊された。


「臨兄ー!なんで電話出てくれないの?!酷いよ!」

「酷…(酷い)」

「九瑠姉もこう言ってる!私たちすっごーく傷ついたんだよ?!」

「悲…(悲しかった)」

「お前ら…なんでウチに入れる?」

「この前ね!波江さんが鍵を貸してくれた時に合鍵作っちゃいましたぁ!!」

えっへん!と効果音を自分で言いながら、胸を張る。

「っていうか、臨兄!そんな事どうでもよくて!どこ?!どこにいるの?!臨兄を好きな女の子!」

「会…(会いたい)」

「そんな奴いない」

「えーチャットで言ってたじゃん!隠しても無駄…はっ!まさか波江さんのこと?!あはははは!いくら臨兄の顔が良くても波江さんは多分お兄ちゃんのこと好きじゃないと思うよ!」

「現…見(現実見た方が良い)」

「そんな男願い下げよ、誠二の足元にも及ばないわ」

「だって!んんんんわかった!臨兄、私達に会わせたくなくて隠してるんだ!よし!探すよ九瑠姉!!」

「チャットみたなら知ってるだろ、今買い物に出てるんだ。頼むから出て行け」

「えーまたまたぁ!買い物ってことは帰ってくるよね?じゃあ待ってるぅ〜」

「大体なんで会いたいんだよ、別に関係ないだろ。お子様は勉強でもしてなよ」

「だって臨兄が「舞流」…ごめんごめんクル姉、臨兄!やっぱなんでもなーいや☆」


あの出来の悪い少女が帰ってくるまで帰らないと諦めた彼は恐らく少女と出会ってから初めて少女が早く帰って来ることを願った。




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