折原臨也と出会った事は少女…名前の人生で一番衝撃的で劇的な事だったろう。名前自身が気づかないうちに生み出した"愛されたい"、"愛したい"という願望に折原臨也は気づいていた。

だから声をかけた。

「すみません。これ落としましたよ」

ファーストコンタクトは適当だ。何だって良かったのに、声を掛けようと思った瞬間かの少女はハンカチを落とした。しかも少し不自然に。それが勝利の女神の加護だということをおそらく男が知ることは無いのだろう。無意識のうちに他の男より彼女に近づきたいと願ってしまったことなど永遠に知らずに生きていくのだろう。
何はともあれ折原臨也は少女と接触し、その後何度か会い、依存させたまでは良かった。飽きたから捨ててやろう。馬鹿な女子高校生なんて少し本性を見せただけで逃げていくだろう。そう思っていた時、折原臨也は気づいていなかった。少女が自分に依存していたのではなく、本当に愛してくれていた事に。

結論。
名前は逃げなかった。折原臨也がどんなに本性をチラつかせても逃げて行かなかった。終にはチラつかせるどころか、ストレートに伝えているのにも関わらず、名前は臨也の元に通い続けた。こうなってくると面白くないのは明白で、なんとかこの事態を面白くさせようとして思いついたのがいつまでもつか試す事だった。少女に罵声を浴びせても、冷たくあしらっても、気にしたそぶりなく自分の所に来るのをいい事に彼は、普通の人間ならば怒り、憤慨しても良いような言葉や行動をとって普通の女子高校生がそうするように、他の人がそうしてきたように、少女が自分から逃げ出していくのを待つ事にした。




そんな世間一般からみればひどい扱いをされている本人、名前は実は酷く嬉しかった。幼い頃に家族を亡くし、生活保護を受けながらもなんとか高校生までなって、心細いがバイトを探しながら勉学に励もうとしていた所に優しく話しかけられ、相談に乗ってもらい、笑顔をくれた折原臨也が自分を雇ってくれて、そばにいる事を許してくれた。その事実がとても喜ぶべき事であった。


「波江さん、コーヒー」

「今貴方の目の前にいる子が持っている湯気だっている物はコーヒーではないのかしら」


名前がコーヒーを淹れ、臨也に持っていった瞬間、上の階で書類を整理していた波江にコーヒーを淹れるように頼むのはいつもの事だ。波江はそれが少女に対する当てつけだと知っているからわざわざ下まで淹れにはいかないが、彼が少女のコーヒーを飲まない事も知っているので飲む事を勧めるようなマネもしない。

彼女はただ与えられた仕事をテキパキとただこなすだけ。

飲まれないと知っていても名前は毎日、だいたい同じ時間にコーヒーを淹れる。飲まれないことは悲しいけれど、誰かのために自分が何かしてあげる、という行為はとても愛のあることなのだと友人の首無しが教えてくれたから。

私は少しでもいいから折原臨也に愛を与えたかった。たとえ受け取ってもらえずとも、見返りが何もなくとも、ただ人間らしくしていれば彼の愛の対象内に入っていられる。だって人間は愛を伝え合う物だと、心優しい私の友人は教えて、くれたから。

私の愛が彼に伝わっているかはわからない。
伝わって、いるといいな。


…伝え続けよう、彼が私の愛なんかより数倍重たい愛をだれか特定の女の子に捧げるようになる日まで。彼が誰かに、愛されるようになるその日までは。それが例え私でなかったとしても。




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