ある少女の話をしようか。

その少女はいたって普通の女の子であった。他の子と比べて目鼻立ちはくっきりしているし、黒髪というよりは明るい茶髪で、光の加減で金色に見えなくもないその髪の毛はふわふわとゆるくウェーブがかっている。目の色素もひどく薄く、宝石で例えるならばサファイア、というよりブルーダイアモンドの透明さでキラキラと輝いている。

その子の母親は日本人ではないのだから容姿が母親に似て外国人染みてしまうのはよくわかる、がその子に父親はいない。表向きは結婚せずに子供を授かった、ということになっているが少女には実際"父親"という存在が実在しない。なぜなら彼女の母親の一族はかれこれ何千年とギリシャの女神の血を引くが故にその血を薄くしないために、自分が死ぬと予期した時に子供が勝手にできる仕組みになっている。女神の血を引く一族は他にもいるが、彼らは既に人と交配を繰り返し、普通の人間と殆どかわらない。

とりわけ力の強かった少女の一族は神話の女神によく似ているらしい。ここでいう「らしい」というのは、女神の顔を誰も知らないからである。それこそ少女の母親も、その母親もそのまた母親も。理由は簡単。現代に残された女神像には首がない。

首がないからこそ美しい。欠けた先を創造し、想像することの出来る無限を孕んだ美しさ。

少女と母は幸せに暮らした。それはそれは幸せに。彼女達の時は全盛期で止まる。美しい母は一番美しい姿のまま何年も生き続け美しいまま朽ちていく。死に際までもが美しい。それはどの神の血を引くものでも同じ事。太陽神の一族も月神の一族も海神の一族も皆そうなのだ。そういう生き物であるのだ。

一族、といっても実を言えば少女で四、五代目ほどであるのだが。

場所を変え、名前を変えて、彼女達は生き続ける。子供の成長が止まるまでの短い期間は一緒にいることができるが、子供が大人になり、成長が止まるとき、母親はやっと長い人生に終止符を打つことを許されるのだ。

だけれど少女の場合は少し違った。

母親が殺された。まだ少女が幼い内に。原因は何か分からないが恐らく人によるものではないだろう。漠然とそう思った。言うなれば勘だ。

少女はひとりぼっちになった。

悲しかった。寂しかった。心が痛かった。

だからお願いをしてしまった。

ひとりはいやだ。さみしい。だれかに必要とされたい。

勝利の女神の血は願いを聞いた、応えた。何時だって願う人に勝利を、栄光を与える役割の筈の彼女は自分に祈ってしまった。

神は神に祈ってはいけない。何故なら神とは人のためにあるもので、人により存在しているものだから。彼女は神そのものでは無いにしろ人間では無い。彼女に降ったのは罰だった。

簡単に言えば聖剣の管理を任された。いつ、どうやって自分の中に入って来たのかは分からない。少女はその日から剣になった。

それでも良かった。ひとりじゃなくなった。

話しかけたって答えてはくれ無いけれど、自分の中にある安心感は紛れもなく本物だった。


そんなカワイソウな少女にも友人と呼べるものもいた。彼女の母も昔住んでいた事があるというアイルランド出身の首の無い女性。セルティ・ストゥルルソンである。


少女がまだ中学生にも満た無い頃セルティがコシュタ・バワー…シューターで池袋を駆けていた際に危うく轢きかけ、そこで互いに人でないことを感知し交流を持つようになった。

心配性で面倒見の良いセルティは当時から親の居ない少女を気にかけ、世話を焼いてくれている。

そんなヒトでない少女は高校一年生の春にある人物に出会う。



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