「ほうほう、この方が見事臨也お兄ちゃんのハートを射止めた女性ですわね」

「いや、逆だから。てか、そうとも限らないから」

「麗…(綺麗な人ですね)」

「いや、普通でしょ」

「まぁまぁいい感じのお胸の大きさじゃあないですかぁ、あ、揉んでもいいですか?」

「初対面でよくそんなこと言えるわよね、貴方の妹、頭大丈夫かしら」

「いや〜もう大分前からあいつらの頭はおかしいよ」

「ひっど〜い!臨兄よりは全然普通だよね〜」

「肯…(うん)」

「あ、あの…」

マンションに帰ってきてインターホンを押すと出たのは波江さんで、その時に後ろで大きな声が聞こえていたが、玄関のドアを開けた瞬間に飛びつかれ、リビングまで腕を引かれて連行されたあとに待っていたのは冒頭の言葉の嵐であった。

「あ!自己紹介おくれました!!私たちの兄がいつもお世話になってます!!ダメダメ兄折原臨也の妹の可愛い姉妹!妹の折原舞流でーす!」

「九瑠璃…姉(九瑠璃、姉です)」

「はぁ、苗字名前です。お兄さんにはお世話になってます。よろしくお願いいたします」

「名前さん!突然ですけど、臨也お兄様の事どう思ってます??あ、いいですよ!本心言っちゃって!静雄さんみたいに殺しちゃいたいくらい嫌いでもおこりませんし、むしろ波江さんが誠二さんに抱くような熱いラブでもなんでも受け止めます!えぇ!」

「知…(知りたいです)」

「私も気になるわね」

なんだろう、この公開告白のような感じのノリ。
チラリと臨也さんの方を見るとこちらに対しての関心は殆ど無く、いつも通りパソコンに向かい、キーボードをすごい勢いでたたいている。

「あ、あの、食材を冷蔵庫に入れないと…」

「いいんですわよ!お兄様の食べるものなんて腐っても!そうですね、ここだと答えにくいかとも思います!じゃあ個室に行きましょう!」

「え、でも私、仕事が…」

「臨兄、部屋貸「さないから、帰れ」連れないなぁ〜、いいじゃんうるさくしないから!」

今まで黙っていた臨也が静かに、だが確実に怒気を孕んだ声でつげる。

「本当に怒るぞ、もう一度言わせるな。」

「…にゃはーん?九瑠璃姉様、これはどう思われます?」

「分…(分かりやすい)」

「うるさいぞ。…君もさぁ、そんなに大人しくしてないで拒否したいならはっきり言いなよ。ウザいんだけど。ていうか、俺今仕事してるの分かんないの?うるさいし、目障りだから帰ってくれないかな?」

「臨兄そんな言い方したら…!」

「だいたい君が俺に対してどう思ってるかなんて事、君の仕事と関係ないよね?余計な事考えなくていいから。てかさっさと消えてくれないかな。鈍臭いのが移るでしょ」

「臨兄!!」

「あ、あの…臨也さんの邪魔になるなら…帰ります。波江さんも、お仕事中邪魔してすみませんでした。失礼します」

耐えられ無かった。
臨也さんが、私の事を気にくわないのは分かってた。でもやっぱり心は痛い。珈琲を買いに行く前に言われていた言葉やセルティに問われたことだけで、もう仮面は剥がされていたのだ。そこで先ほどの臨也の言葉に感情が制御出来なくなった。

嫌われたかな…私が鈍臭いから…。
明日行ったら怒られるかな?
マンションに入れてくれないかもしれない。
もう、会えないのだろうか。

「臨也、…さん…」

あぁ、久しぶりに涙なんて流した。


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「あーあ、ちょっとからかっただけなのに臨兄ってば素直じゃないから…」

「大人…(大人気ない)」

名前が出て行った後のリビングルームではそんな会話がなされていた。

「それに出る間際の名前さんみた?!涙目でうるうるしてて…!臨兄がいじめたくなる気持ちもわかる気がするよー!「は?今何て言った?」」

「「??」」

双子は顔を見合わせる。

「臨兄が素直じゃない」

「そこじゃない」

「臨兄が大人気ない」

「それでもない、もっと後」

「いじめたくなる!」

「もっと前!お前分かってんだろ!」

「えええ名前さんが涙目だった事かなぁ?そうかな九瑠姉!」

「多分…」

「へぇ〜そう、…ふふ、ふはははっ!あはははは!」

「うわ、臨兄気持ち悪っ。どうしよう九瑠姉臨兄が壊れちゃった!」

「初…(元からだよ)」

「それもそっか」

折原臨也は喜びを感じていた。それこそ失礼な妹共の会話も耳に入らないくらいには気分が昂ぶっていた。
今まで罵詈雑言を浴びせても気にしたそぶりなく飄々としていた彼女も人間らしく臨也の言葉に傷ついて、涙を顕にしたというではないか。
実物を見れなくて残念だったが、これで終わりではない。次は妹たちのいないところで散々罵ってやる事にしよう。
ああ楽しみだ。彼女はどんな顔で傷つくのだろう。どんな顔で泣くのだろう。

「一応、忠告しておくわ」

書類の束を整頓し終えた波江が唐突に口を開いた。


「あなたの為ではなくあの子の為にね。あなた、そんな事ばかりしていると自分の心の底から必要としているものをなくす羽目になるわよ。」


それだけ言ってキッチンに下がっていった。


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