ーいや、置いていかないで。

すまないなぁ名前ちゃん、ミツバさんと仲良くな。

元気でな、チビッ子。

心配しなくてもいつかまた会えまさァ。

ーそうじゃなくて、私…!

「ハッ…!!はぁっ!…夢…か……」

随分と懐かしい夢を見た。彼らが江戸へ行ってもう何年か、ミツバ姉様と2人の暮らしももう寂しいなんて感じず今はただ2人で居れることだけが喜びにも変わってきた。

でもそれももうすぐで終わり。

私は道場の片隅に捨てられていた孤児であったが、何時だったかまだ総悟が道場に来る前に近藤さんに拾われた。おかげで総悟やミツバ姉様、土方さんとは家族のように過ごしていた。

そんな私はミツバ姉様だけにしか話していない秘密がある。

「はっ、ううっ!!うぁっ!おぇっ…!」

「名前ちゃん!!大丈夫っ!?」

ポロポロと色とりどりの花が口から溢れでる。
そう聞くと美しいかもしれないがこれは天人の持ち込んだ宇宙ウィルスによるれっきとした病気なのだ。

ウィルスが体に入り込むと体の中の水分や血液を花が吸収し、成長した花は口や排便などから体外へ出て行く。

そしてやがては心臓の真上に花が咲き、その花が枯れる時命も涸れるという恐ろしく美しい病である。潜伏期間はおよそ7年ほど。そして発病してからの治療法は未だに研究中であるらしい。

この病気は潜伏期間も合わせて約15年ほどで患者に死をもたらすと言われている。

私はどうやら赤ん坊の頃から患っていたらしく、もう心臓の真上に花が咲いている。

ミツバ姉様は自分だって体が強くないのに私の世話をしてくれている。私がこの沖田家で息を引き取るとそんなミツバ姉様に迷惑をかけてしまう。
それに、お世話になった彼らに最期の挨拶くらいはしたい。意を決してミツバ姉様を見つめる。

「ミツバ姉様…私…江戸へ向かおうと思います」

ミツバ姉様は最初は目を大きく開き驚きの表情を見せたがやがてニコリと笑って

「名前ちゃんならいつかはそういうんじゃないかと思ってたわ」

と優しく頭を撫でてくれた。もう準備は私の方で済ませたわ。さあ、とすぐにでも送り出そうとしてくれるミツバ姉様は少し泣き出しそうだった。

「近藤さんや総ちゃん、あの人に私の分も宜しく言っておいてね。」

「…ミツバ姉様っ!」

私もそんなミツバ姉様につられてか涙が止まらなかった。きっともう、私はこの人と生きて会えることはないのだろう。

「あらあら、名前ちゃん、泣かないで。きっとすぐ会えるわ」

「…そうですね!では、行って参ります!」

「気をつけてね」

別れに涙なんて、と必死で笑顔を繕って江戸へ向かった。




電車で丸一日ほどかけて着いた江戸は想像していたよりもずっと未来的というか近代的で、田舎ではなかなか見ない天人がそこら中歩いていた。

だが江戸に着いたは良いもののそう簡単に目当ての人らに会うことなど出来なくて、迷子になった所を親切な万事屋さんという方が家に迎えてくれ、その日の宿はなんとかなった。私の花はもう既に花ビラが何枚か落ちてしまった。

彼に探している人の名前を伝えると微妙な顔をされて知りあいだということを知り、翌日連れて行ってもらうことになった。江戸は怖いところかと思っていたが優しい人に出会えて良かった。

翌日貸してもらった布団にまた花びらが落ちていた。もう明日にでも花が無くなってしまうかもしれない。安静にしていればきっと花びらが落ちることなく枯れるまで生きることも出来るのだろう。でもだからこそ尚更、この花がなくなる前に彼らに会わなければ。

朝ご飯を坂田さんにご馳走になってしまった。卵かけ御飯と言うものを実は初めて食べたが以外と美味しいものだ。死ぬ前に食べれて良かった。



真撰組屯所

その看板をみて、胸が高鳴った。久しぶりに会える。

「うっ!…!はぁっ…おぇっ…!!」

また花を溢してしまった。すこし活発に動きすぎたようだ。もう体が悲鳴をあげている。

「お前…それ…」

「!」

しまった坂田さんに知られてしまった。
坂田さんは何も言わなかった。きっと朝から気付いていたのだろう。私が布団に溢れる花を捨てていた時から。

坂田さんにお礼を言い、真撰組の門をくぐると隊服をきた男の人がこちらに走ってきた。

「すみませーん、ここは関係者以外立ち入りは禁止なんですが、どうかしましたか?」

「あ、すみません。ちょっと会いたい人がいるのですが…」

そういって近藤さんらの事を話す。

「あー副長達、今日はお上のところに行ってて帰りが遅くなりそうなんです。明日以降にもう一度きてもらえないですか?」

明日以降…。もしかしたら私には来ないかもしれない明日。彼らには普通に訪れるであろう明日がこんなにも遠く感じたのは初めてのことだった。

「…」

「あ、あのー…」

思わず黙り込んでしまった私に、隊士の方は困った顔で語りかけた。

「あっ、すみません。明日…ですよね。あした…」

「ご都合悪いですか?」

「おいジミー」

「え、旦那?!」

どうしようか考えているところに現れたのは坂田さんだった。

「俺たち急を要するんだ、っつー事で屯所で待ってても構わねーよな、ほら名前、行くぞ〜。ジミーは甘いもんと茶、持ってきて」

「ちょっ旦那!!勝手に上がらないで下さい!あの!ねえ!ちょっと?!?!」

「応接間ってこの辺だよなー」

「そうですけど、え!?何で知ってるんですか、ちょっと!!」

「すみません、上がらせてもらいます」

ペコリと一礼し、悪いが待たせてもらうことにした。坂田さんにもお礼をしなくては。

「なぁ、名前、お前あいつらには病気の事言わないつもりか?」

「…何故それを?」

「死を前にした奴のやりそうな事は俺くらいの歳になると嫌でもわかるんだよ」

「坂田さん、まだお若いじゃないですか。でもそうですね、私はあの人達とは笑って別れたいんです」

「あいつらは多分、それを望んでねぇと思うぜ」

「はい。それでも。私が死んだ事は出来れば一生知らないで欲しいのです。」

それが私の我儘だとしても。

そういうと坂田さんはあっそ、と一言返しジャンプを読みだした。

それから何時間か経ち、結局その日のうちに帰ってこず深夜の1時を回った頃に外が騒がしくなった。

「まったくとっつぁんも将軍様をキャバクラ巡りに付き合わせるのやめてほしいぜ」

「いやぁ、お妙さんの働いている姿が見れて俺は幸せな1日だった〜」

「近藤さんは毎日覗きに行ってるじゃないですかぃ」

この声は…あぁこの声は彼らだ。
総悟も声変わりをしたのだろう高かった声がすこし低くなってはいるが、喋り方がそのまんまだ。

私達が待っている事をジミ崎さんが伝えに行ってくれた。



やっと会える、そう思った時突然襲った吐き気

「うぅっ…!っ!はぁっ!」

ぽろり、ぽろり

赤い花が畳に落ちる、坂田さんが背中をさすってくれる。

足音が近づいて来た。隠さなきゃ。笑って会うって決めたんだもの。


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