■ 本恋2



春休みに入った。あれからもちろん私と彼はあってもないし連絡もとってない。赤司くんが浮気しているかもということを疑い始めてから連絡が取りづらくなったのだ。だって知らないふりして話したとしてもあの赤司くんだ、なにか突っ込まれてもとりつくろえないし今は赤司くんのこと考えたく、ない。


「はぁ…」


考えたくないのは山々だけど、気がついたら考えてる。解決策なんて考え付くわけないのにこれからどうしようとか前に進むためには別れることも視野に入れて。今いるのは例のごとくあのマジバである。家には居たくないが今日は春休みだから学校もない。部活も入ってない私はやることが全くない。しかし取り敢えず外に出た結果辿り着いたのがここだった。


「溜息なんてついたら幸せが逃げますよ。」


「っ!」


一人だと思っていた私の目の前には幼なじみのテツヤくんがいた。長年付き合っていてもいつも驚かされる。だって本当に声かけられるまで全く気配ないんだもの!


「いい加減慣れたらどうですか?ボクだって傷つきます。」
「そんな真顔で言われても信憑性ないけどね」
「傷つきました」
「ごめんってば。ってあれ?テツヤくん部活は?」
「今日は体育館の清掃と点検の為午前までなんです。それで火神くんとお昼を食べに来ました。」
「なるほど。え、火神くんもいるの?探してるんじゃない?」
「いえ、この席に来ることは言ってあります。窓から見えていたので。ところで溜息ついてましたよね。…何かあったんですか?」



赤司くんと。



「なまえがそんな顔する時は大抵赤司くんが関係していますから。」



こういった時、黒子テツヤという人物は聡い。人の感情の変化、どういったことで悩んでいるのか。幼馴染みということを差し引いても彼にはわかってしまうのだろう。中学の時赤司くんの事を相談していたのは女の子友達ではなくテツヤくんだった。…別に友達が居ないわけじゃない、寧ろ多い方だと自覚してる。でもテツヤくんほど信用できて的確なアドバイスをくれる人を私は他に知らない。少し迷ったけど白状した。そうした方が楽になることを私は知っていたから。



「…そんなかんじでもう一年以上会ってないよ。春休みもこっち来ないって言ってたし、私の事嫌いになっちゃったのかなって思ったら連絡もしづらいし、もうよくわからないの」
「赤司くんがなまえを嫌いになるとは考えられません」
「私だってそう信じたい。けど…」



けど私は見たんだ。確証は無い、けど彼とよく似た人が綺麗な女の子と腕を組んで歩くのを。証拠も無いし、私自身が信じてない事をいうのはダメだと思ったから私がそれを見たことは言ってない。だが途中から加わった火神くんの次の一言で私は絶望する事になる。


「赤司ってこないだ誠凛(ウチ)来てたよな、ほら今月の始めに。赤司の彼女ってことはそん時会ったのってお前じゃねぇの?」


今月の始めに誠凛に、きた?



「そん時アイツこれから人と会う用事があるって言ってて俺がが彼女かよって言ったら、『否定はしないがこの事はなまえには言うな』って言っててよ。俺はなまえってヤツを知らないけど黒子はなんか知ってるっぽかったな」
「ちょ、火神くんっ!」



珍しく焦るテツヤくんの制止の声が遠くで聞こえた。赤司くん東京に来てたんだ。じゃああれはやっぱり…。それに女の子と会う事を私に言うなってどういう事?それじゃあまるで


「なまえっ!!」

「っ!!!」


気がついたら心配そうな二人の顔。火神くんの方はやっちまったという副音声がきこえてくる。火神くんと面と向かって話したのは初めてだから私の下の名前を知らないのは当然かもしれない。テツヤくんにしては荒い声で呼ばれた名前。だんだん状況がわかってきた火神くんはどうしていいか分からずあたふたしている。そんな火神くんのためにも私自身のためにも平気な表情でかえす。


「そっか…赤司くん東京、来てたんだね。テツヤくんも、知ってたんだね」

「なまえ、会わなかったのには彼なりの理由があるのかもしれません!その…待ち合わせの人も赤司くんが火神くんをからかうために言ったようなものかもしれない!だからっ「テツヤくん」」


だんだんヒートアップしていく黒子を宥めるように何の表情も顔に出さないままなまえは静かに言った。


「火神くんが赤司くんに彼女かって聞いて彼が否定しなかったって事は、赤司くんの彼女は私じゃなくてこの間会っていたその子なんじゃないかな?私今まで赤司くんと付き合っているつもりだったけど、それは私だけが思ってた事で実際彼にはそんな気さらさら無かったのかも…うわーそれ私恥ずかし!」


だから、だいじょうぶだよ。へらっと笑ってなまえは続ける。


「…あーなんだスッキリしたー!なんかごめんねこんなオチで!私今日は帰る!ありがとうテツヤくん!火神くん!」

「なまえ!!!」

















どうやって家に帰ったかなんて覚えてない。夕飯を食べた記憶も無い。気がついたら深夜の3時で、家族はみんな寝てた。お風呂に入った記憶だって無いのに髪からシャンプーの香りがするし若干湿っているような気もする。習慣って怖い。

しかし解決策はでた。赤司くんとはお別れしよう。いや、違う私達は"付き合っていなかった"のだから、その表現は間違っている。赤司くんの事を忘れよう。



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思えば中学の頃だってデートに誘うのはいつも私、そしてバスケ第一の彼はその誘いをいつも断るのだ。あれ、私達って2人で何処か行った事あったっけ?…いや無いな。それに私もしかして好きって言われた事、ないかもしれ無い。告白は私から。それは覚えてる。じゃあ、返事は?彼から何て返された?たしか…


「『ありがとう、嬉しいよ。これからよろしく』だった」


あれはたぶん『ありがとう(君の気持ちには応えられないけど)嬉しいよ(友達として)これからよろしく』と言ったのではないか?それを私は"付き合おう"の意味で捉えたのか、うわ本格的に私1人で勘違いしてたヤツだ。良かった、私赤司くんと付き合ってるって言ったのさつきとテツヤくんだけで。あ、火神くんにも昨日知られちゃったっけ?まぁいいや。堂々と公言してたら羞恥心で死ねるレベルの勘違いだよ。あぁ恥ずかしい。でもまぁこれで私は初めからのスタートか、いや…当分恋愛なんて無理だ。だってこんなにもまだ赤司くんを好き。でも私は一回告白して「友達でよろしく」宣言されてるし…もう少し早く気づければ良かった。そうすれば赤司くんに電話しなくて済んだのかもしれないし、会えないことだって赤司くんが京都の学校に行くのを言わなかった理由だって説明がつく。もしかしたら本当に私が彼女だったなら教えてくれていたかもしれない。でも私は彼にとってただのオトモダチだから彼の中で箝口令の範囲内であったに違いない。



昨日寝ずに考えた結果がこれだ。取り敢えずさつきには言っておこう。勘違いのままもしさつきが赤司くんに会って話した時私が"彼女面"をしていた(実際はしてしまっていたのだけど)と2人に思われるのは嫌だ。まずはさつきに連絡、とスマホを手に取るとテツヤくんからのメールが2件。どうせ昨日のことだろう。心配をかけてしまったしなあとで返事しよう、取り敢えずさつきが優先だ。











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「なまえちゃーーーんっ!!ひっさしぶり!!」

「さつき久しぶり〜!!青峰くんも久しぶり!」

「よぉ」

「驚いたよ〜、なまえちゃんから連絡あって暇な日あるかって言われた時は!しかも今日は丁度桐皇の体育館が午後練習出来ない日だったし!」

「あ、もしかして体育館の点検とか?」

「うん!あれ?なんでわかったの?なまえちゃんエスパーっ?!」

「違うよ、昨日ウチの高校も点検でテツヤくんが午後練習なかったみたいで。」

「そっか、なまえちゃん誠凛だもんね!いいなぁテツくんと同じ高校!っていうか!昨日テツくんと会ったのっ?」

「うんマジバでばったりね。」

今はどうやら練習が午前で打ち切りだったさつきと青峰くんと一緒に駅の近くのファミレスに来ている。

「テツくん元気?」

「それはもう、火神くんと楽しそうにバスケしてるよ。多分」

「多分ってなんだよw」

「私バスケ部じゃないから楽しそうかはわからないってことですー」

「はぁん、楽しそうにバスケしてるテツくん…!!想像するだけで…キャー!!」

「さつき…少し会わない間にテツヤくん好きがグレードアップしてるね」

「おい、うるせぇぞブス」

「っな!失礼ね!あ、ところでなまえちゃんの方は?赤司くんとは最近どう?」

来た。赤司くんという単語に肩がびくりと反応してしまったのは気のせいなんかじゃないはずだ。

「あー、その事…なんだけどね…」

もごもごと歯切れ悪くなったなまえをみて何を思ったか桃井が赤くなり黄色いというかピンクの悲鳴をあげる。


「なまえちゃん…何か進展あったのねっ!!きゃ!もう!羨ましい!赤司くんに何されたのー?!手をつなぐ?キスっ?!それとも…それ以上ーーー?!?!」


1人で盛り上がっている桃井を尻目に青峰も便乗し、「ほら白状しろよ」となまえの言葉を待つ。正直そういった報告ならどれだけ良かったか。私達のことをいい方に考えている二人には言い出しづらいなぁ。そう考えて少し苦笑いが溢れる。進展というよりどちらかというと後退の報告だ。出来るだけ落ち着いて傷ついていることを顔に出さないでなまえは続ける。

「赤司くんとの事なんだけどね、どうやら私の勘違いだったみたいなの。」

ピタリと音がなったように突然2人の動きが止まった。

「なまえちゃん…?え、なにが?どういう事?」

「恥ずかしいんだけど、付き合ってるって思ってたのは私だけだった、みたいな。私がね勝手に勘違いしちゃってて…」

「そんな…!そんな事ないよ!赤司くん絶対なまえちゃんのこと好きだよ!だってこの前…「さつき」


さつきちゃんが何か言いかけてたけど青峰くんが被せていう。というか今何か隠された気がする。まぁ大方火神くんが言っちゃった事だろう。口止めされてたみたいだし。


「で?」

「?なにが」

「なんでお前はそう思った訳?」

「そうだよなまえちゃん!教えて?」

「…いろいろとあるんだけど、まぁ一番の理由は赤司くんが彼女と公言するらしい女の人が別にいてその人と歩いてるのを偶々見ちゃったって事かな。それに私達仮に付き合ってた前提で考えても1年丸々あってないし。連絡も彼からくれた事ないし、まず好きって言われた事…ない、し…」

「なまえちゃん…」

どんどん小さくなる声、潤んでいく視界。あぁダメだ。泣くな泣くな泣くな。涙なんて流すな。深呼吸して感情に蓋をして、なにも考えるな。


「…でも大丈夫だよ!赤司くんの言葉を上手く理解できなかった私が悪いんだし!」

そう。最初から私が、悪かったのだ。

「だから、さつきがそんな泣きそうな顔しなくていいんだよ」

「だって…なまえちゃん…あの日、あんなに嬉しそうに話してたじゃない!そんなあっさりでいいの?!それに私赤司くんから相談されて…「なまえはそれで良いのか?」

また青峰くんがさつきの言葉に被せて静かにいう。

「今お前が赤司との関係を只のオトモダチだとする事で本当に良いのか?」

「な、にを」

「お前はそうなる事を望んでないんだろ?」

「そんな事…」

ないよとは言えなかった。だって本当の事だ。でもだからって


「お前が赤司のカノジョになりたいならそう伝えればいーじゃねーか」

「私がここで今赤司くんの恋人になりたいって思ったところで、意味なんてないんだよ。それに一回告白して恋人としては付き合わないって言われてたわけじゃん!私は赤司くんに嫌われないなら恋人じゃなくて友達でもいい!」





もしこれが舞台だとして。赤司くんは王子様、私はみすぼらしい町娘。王子様の友達にもなれやしないしまして王子様の横に立つなんて夢のまた夢だ。その役はきっと私じゃない。

私にはシンデレラなんて、なれやしないのだから。


結局その話はそこで切れて他にいろんな話をしてからその日は解散になった。


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