■ 本恋4

春休みは終わり二年生となった私は毎日を充実して過ごしていた。そう、何事もなく。もともと付き合って無かったのだから私が傷つくなんて烏滸がましいし、確かに春休みは東京に戻らない"予定"が、あったかもしれない。あくまで予定は予定。変更した可能性もある。それについて私が何か言う権利はもう何もないのだ。というか最初から無かったのだ。


「ねえなまえ!3組の小林くんから呼び出されたって本当!?」


同じクラスの比較的よく一緒に居るきくりちゃんが朝、開口一番に言ってきたのはそれだった。噂好きな彼女とは帝光から同じだったけれど仲良くなったのはここ最近だ。


「3組の小林くんって言ったら成績よし、性格よし、顔良しで持ち前の爽やかさから誠凛の風早と呼ばれているあの?!小林くんでしょ!!」
「誠凛のなんたらっていうのは初耳だけど昨日3組の小林くんから呼び出されたよ。てかなんで知ってるの?」
「キャァァァアア!なになに!?らぶ!?小林くんったらなまえにフォーリンラブッちゃった感じ?!」
「きくりちゃん私の声聞こえてる?てか朝からそのテンションなんなのよ」
「え〜だって〜!友達がイケメンと付き合ったら、私にもイケメン紹介してくれるかなーって期待がぁ〜抑えられなくて〜!」


イケメンの友達はイケメンでしょ!とドヤ顔で言うこの子の将来が心配である。
事の詳細は昨日の放課後、帰ろうとしていた私に声をかけてきたのがその小林くんだった。「これから話せる?」と言ってきた彼に了承の旨を伝えて場所を移動する彼に不思議に思いながら着いて行くと告白だった、というオチである。


「〜で!?どうなの?付き合うの?!」
「一応、断ったんだけど…」
「はぁぁあああ!?!?おまっ!何言ってんのなまえ!せっかくそんな良物件に巡り会えたってのに!」
「だから私の話聞いて。断ったけど、日曜日にデートすることになったの!だいたい良物件って…家じゃあるまいし」
「もしこれから末永〜くいくかもしれない人だったら家と同じだよ!あ、でもでも!なまえにはあの赤司様がいるもんね!どうするの?日曜日デートでしょ?浮気じゃん!やだなまえったら魔性のオンナね!」




そう、中学が帝光中の彼女、きくりちゃんは仲良くなったのが最近とはいえ、その性格故か中学時代に流れた私と赤司くんが付き合っているという噂を信じ込んでいるのだ。実際、最近まで私もそうであると自分ですら思っていたし、赤司くんも否定していなかったし、休み時間はバスケ部と一緒にご飯やお菓子を食べてたので誰も間違いを修正せずに卒業したわけであるが、卒業してもう1年は経つのにまだ噂を覚えていたのかと思うとすこし笑える。


「それ、あくまで噂でしょ?私達仲はいいけど別に付き合ってるとかじゃないよ」
「…え?うそ?ちがうの?」
きくりちゃんはすこし考えるような素振りをしてから

「じゃあ、なおさら小林くんと付き合っちゃいなyo!!」

といつものテンションで騒ぎ出した。


「あーでもでも!なまえと赤司様が付き合ってなかったなら私狙っとけばよかったかなぁー!」
「きくりちゃんじゃ無理だね!」
「ひどっ!まぁ私もそう思うけどw」

そう言った後「でもね、」と急に真面目な顔をして静かな声で話し出す。

「私があんた達が付き合っているって噂を今まで信じてたのは私の目から見てもそう見えたからだよ。」
「…」
「なにが言いたいかというとね!赤司くんの事!好きなんでしょ?好きなら諦めない方がいいんじゃない」

そう言ってきくりちゃんはにかっと笑った。


「そぅるぇにぃい!赤司様の友達!即ちバスケ部!イケメンの宝庫!!」

なまえー紹介しておくれよぉ〜!仲良いんでしょー!!あ、そういえばキセリョもいたよね!ふぁー!!有名人と仲良くなれるチャンッス!!

「ふふっ、何それ」



























やってきた日曜日、小林くんとデートの日である。私達は有名なネズミの遊園地に来ている。午前中はいろいろまわってお昼を食べてその後ミュージカル的なのを見て、お土産屋さん見たりして、もう4時を回ったところだ。


「みょうじさん今日はありがとう。来てくれて、俺すっごい楽しいんだけどみょうじさん楽しめてるかな?」
「え、すごく楽しいよ!」


ぶっちゃけいいますと私にとって初めての遊園地デートであり、小林くんに対して恋愛感情はなくてもめちゃくちゃ楽しんでいる。



「(遊園地デートが初めてというかデート自体初めてですけどねー)」



もし彼氏がいて遊園地にデートしに来たらこんな感じかな?…赤司くんも誘ったら私と来てくれたかな?

ふとそんなことを考えて首を振る。
赤司くんはきっと来ないだろう。そんな気がする。


「あ、みょうじさんステージで誰か芸能人が喋ってるみたいだよ。行ってみようか!」
「う、うん」



特設ステージの中央にいるのはなんとかっていうアイドルの可愛い女の子と有名なお笑い芸人さん、アナウンサーのお姉さん達。その中で一際目を引いたのはアイツだ。


「黄瀬くーん!!こっち向いてえぇ!!」
「キセリョー!かっこいいー!」
「黄瀬くん好きですー!!頑張って!」


シャラシャラとしたキセリョこと黄瀬涼太がそこにはいた。GWも近いし夏にはまだ早いけど夏のことについて話していた。タイミング悪くステージがちょうど終わったところで、舞台上の人が此方に挨拶して裏へ消えていく。あぁ黄瀬くんよ早く裏へ行け、気づかれませんように。

そんな願いも虚しく黄瀬くんがお辞儀し顔を上げた後にバッチリ目が合ってしまった。慌てて逸らしたけど、彼が裏へ消えてものの5秒ほどでメッセージアプリの音がなり開くと黄瀬くんから「なまえっち動かないで!」のメッセージが。既読はつけないでそのままスマホを鞄の底に入れる。



「なんか今キセリョこっち見てた?」
「き、気のせいじゃない?!さぁ小林くんこれからどうする?」
「そうだね、どっかでお茶でもしようか。あ、その前に俺ちょっとトイレに行ってくるからここで待っててもらっても良い?」




いざ歩き出そうという時「なまえっちー!!」と大きな声で私を呼ぶ声が聞こえた。小林くんはそのまま進んでしまい見えなくなった。



「なまえっち久しぶり!偶然っスね!」
「人違いです黄瀬くん。ハウス」
「ひどっ!俺犬じゃないッスよ?!思いっきり名前言ってるじゃないスか?!」
「こんなシャラシャラした友人は知りません」
「うーなまえっちそういうところ黒子っちにソックリッス…」
「え、テツヤくんに似てますか?」
「似てるッス…ってやっぱりなまえっち覚えてるじゃないスか!」



ひどいッス!と嘆く黄瀬くんとベンチに座る。面倒くさいのにつかまってしまった。


「てかなまえっち一緒にいた男誰っスか?」
「あぁ、同じ高校の同級生だよ。」
「もしかして2人できたの?」
「うん」
「…」
「…」
「赤司っちには言ったんスか?」
「?なんで?」
「?えっ!え、だってなまえっちは赤司っちの彼女っスよね」
「ちがうよ」
「でしょ?だからやっぱり彼女が他の男と二人で遊園地って男としては……え!?!?ちがうの?!」


鳩が豆鉄砲食らったような顔で勢いよくこっちを振り返った黄瀬くんは「いつ別れたんスかー!」とか「え、赤司っち何したの」とかぶつぶつ言っていたので彼も私と赤司くんの関係を誤解していたのか、と事の詳細を簡潔に伝える。



「絶対あり得ないっス!!」
「でも事実だもん」
「なまえっちお願いだから一回赤司っちと話して欲しいっス!そうすればきっと誤解も解けるはずだから!」
「…そんな勇気ないよ」



今はまだ赤司くんと連絡取るなんてできない。そこまで心の傷が癒えたわけじゃないし。



「なまえっちはそれでいいんスか!?」
「それ青峰くんにも言われたけど、こうする以外に何かありました?私は一番自分が傷つかないように赤司くんから離れるって決めたんです。私の中で赤司くんが友達になるまでは赤司くんに会えないし会話もしたくない。」
「なまえっち…」
「…私だってやっぱりまだ…それはそれは赤司くんが好きですよ、でも赤司くんからしたらこの気持ちは迷惑になるってわかってるもの!」
「!!なまえっちは赤司っちのこと好きなんスね?…なら問題ないっス、それを赤司っちに言えば万事解決ッスよ!」
「だから!そんなのムリなんだってば!できてたら今ここで同級生とデートなんてしてない!」
「え、やっぱりデートだったんすか?!」
「二人で来てるんだから当たり前でしょーが!」
「まさかもうその男の子とつ、つ、付き合ってるとかないっスよね!?」
「あ、彼が来たっぽいのでもう行きますね」



小林くんが見えたので立ち上がり彼の元へ急ぐ。


「もー本当に黄瀬くん面倒くさいですね…」
「あ、みょうじさん良かった見失ったかと思った」
「ごめんね、知り合いが見えて向こうで話してたの」
「そうなんだ、もういいの?」
「うん、でも疲れたから悪いのですが今日はもうお開きでもいいかな?」
「俺は大丈夫だよ。さっきも言ったけど、今日は本当に来てくれてありがとう、今度またどっか行こうよ、友達として。」
「…うん、こちらこそありがとう。その時はよろしくお願いします。」



その後家まで送ってもらい、笑顔で別れることができた。















「もしもし桃っち緊急事態っス。ーーーーそうそうなまえっちと赤司っちのことでーーーーーーーはい、了解ッスーーーーーじゃあ」



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