さいしょ

気がついたらここにいた。開くことのない檻の中、手の中には2センチくらいの緑色の綺麗な石が2つ。異質のものを見る汚らわしい『欲』と『好奇』に満ちた眼が仮面の向こうからいくつも私に突き刺さる。


ここ、は、どこ?


呟いたはずの声は声として空気を震わせることはなく、ただひたすら縛られた腕と重たい足枷の冷たい鉄の感触だけがこれを現実だと示していた。


でもやっぱりこれは夢なんだと私の背中から生えてるこの白いかたまりを見て思わないことはできなかった。だってありえない。


誰か司会者みたいな人が大きな声で何かを言うと一斉に仮面の男女が騒ぎ出す。


なんと言っているか聞き取れないけど、英語やフランス語、ましてや日本語でもないおそらくなまえが初めて聞いた言語で口々に何かを言う。司会者のような目立つ風貌の彼が木槌を打って、会場がおおいに盛り上がる。


まって、これは、


『…オーク、ションみたい』


そう思った瞬間に檻が動いた、どうやら私は誰かに競り落とされたようだ。


なにがなんだかわからない、まま。売られるの…?


そんなの嫌だ、いや、怖い、怖い怖い怖い!


会場の熱気が、突き刺さる視線が、からだを包む空気が全てこれを現実のものにしている。理解した途端に訪れた恐怖。自分がこれからどうなるか想像もできない不安、見世物になっている惨めさ、視界をチラつく白。

脳がキャパオーバーをおこしたのか頬を伝う熱が止まらない。

『たすけ、て…!嫌っ!ここからだして…家に帰りたいっ!』


意識してはいないのに、涙がでてくる。背中で大きな白がバサバサとうるさい。


男の人が近ずいてきた。檻の鍵があいて中に入ってきた男は手に持った棍棒を大きく振り上げて



意識が、遠のいた。







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そこから大体50回、数えてないけどそれくらい。同じような歳で死に、同じような場所、同じ体、同じ声でまた生まれる。16歳から22歳を延々と何度も何度も。

繰り返してにひゃくねん。くらい。

私はいつも檻の中から始まる。最初に私を買う人はいつも「飛んで見せろ」と言うくせに鎖をつけ、そして飛んで見せるともう2度と檻から出られなくする。

何故か記憶と、最初に目が覚めた時に握っていた緑色の透明な石だけはずっと引き継がれている。私の終わりはいつも私を買った人間によって与えられる。死にたくないから言葉だって覚えた。飛べるようになるまでたくさん努力した。でも結局私はいつも殺されて終わる。

ある時は棒で叩かれて、ある時はナイフで刺されて、ある時は翼をもがれて、またある時はこの世界には普通に存在しているらしい怪物と闘技場で戦わされたりして。いつも死ぬのは5年くらい飼われた後。私の翼には傷や病を治す力があるらしい。だけど私がそれを知ったのも言葉を覚えた後買った人がそう言ったからなだけで使ったことが無いからわからない。というよりどう使うか知らない。


辛い気持ちは最初の10回目くらいで亡くした。なんで私が、という憎しみも30回にもなると無くなった。40回をこえてから次に死んだらちゃんとした人間になりたいという願望も消え失せた。50回くらいの今はただ次は目が覚めたら檻の中ではなくて自由がいい。それがたとえ小さなアリだったとしても、野良猫でも、犬でもいい。ただ空の下に自分の意思で…


ほら、また終わりの音がする。

檻が開く、怖い。
何回やっても怖いよ、死ぬのは。


だってほらあなたは私に絶望してる。私が期待された通りに傷を治してあげられないから。私がちゃんと怪物と戦えないから。私が…わたしはなにもわるくないのに。


私だってこの運命に絶望してるのに。


また目を覚ますと、初めての場所だった。初めてオークション会場では無いところで目が覚めた。しかし何か見覚えがある。ここは…この、場所は___
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